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職場で問題を起こし自宅待機。その間の給料は支払われるのか?

問題のある社員に対し懲戒解雇を前提とした自宅待機を命じた場合、その間の「給与」を請求されたら支払わなければならない? 今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では実際の裁判を例に挙げ、わかりにくい「一事不再理」や「払わずに済む方法」についてわかりやすく解説しています。

懲戒処分決定までの自宅待機に給与を払わなければいけないのか

「舛添知事、退職金は2,200万円」

かなり前の話になりますが(もうあれから1年以上になるのですね)東京都の舛添知事が、政治資金問題の責任をとり知事を辞任しました。そのときに話題になったのが知事の退職金です。みなさんの中にも「あんな不祥事をおこしておいて退職金なんてとんでもない!」と感じた人も多かったのではないでしょうか。

ただ、法律的に払わないことが認められるかというとおそらく認められないでしょう。知事に関する法律は私の専門外のため詳しくはわかりませんが、「不祥事で辞任」と「退職金を払わない」は別のルールで決められていると思われるからです(「不祥事で辞任した場合、退職金は払わない」というルールがあれば別ですが)。

ちょっと無理矢理に例えると、「飲み放題¥3,000。ただしワイン、シャンパンは別料金」のような感じでしょうか(なんか、すいません・汗)。

これは普段私がご相談いただく中にも「問題を起こした社員を懲戒解雇にしたい。その処分を決定するまで自宅待機にしたらその期間の給与は払わないといけないか」という似たような内容があったりします。会社としては「そんな社員に給与なんて払いたくない!」というのが本音でしょう。ではそれは許されるのか。

それについて裁判があります。ある印刷会社で

という社員を自宅待機させた後に、最終的に懲戒解雇にしました。その際に自宅待機分の給与を減額していたのです。するとこの社員が「解雇も給与減額も納得いかない!」として裁判を起こしました。ではこの裁判はどうなったか。

結果、懲戒解雇の部分については「社員の勤務状況が良好ではなく行動にも問題がある」として認められました。ただし、給与の減額については「無効」とされたのです。(つまり「その分は支払いなさい」ということですね)。どういうことか。

「自宅待機」を命じるには方法が2つあります。

  1. 業務命令
  2. 懲戒処分としての出勤停止

今回の裁判では、「業務命令」として自宅待機が命じられていました。それはつまり「仕事として自宅にいなさい」と命令することですので「給与が発生する」ということになるのです(「なんか、納得いかない…」という声が聞こえてきそうですが)。

では、そうならないために「懲戒処分としての出勤停止」にするとどうなるか。すると今後は「懲戒解雇ができない」ということになってしまいます。なぜか。法律では1つの行為に対して二重の罰を与えることは禁止されているからです。(ちょっと難しい言葉でいうと「一事不再理」と言います)。

※ ご参考:一事不再理(Wikipedia)

つまり、懲戒処分として出勤停止をしてしまうと、解雇理由になった行為を「出勤停止」として罰したことになってしまうため、それ以上、罰することができなくなってしまうのです(要するに「出勤停止懲戒解雇で二重に罰することはできないということです)。

では、実際にこのようなことが起こったら、給与を全額支払わなければならないのか。実務的には全額を支払わなくても良いケースが2つあります。

1つは(全く給与を払わなくて良いケースではありませんが)そのような自宅待機の場合は「給与の60%支払うものとする」と、規則を定めてある場合です。これは休業手当と同額であり裁判でも認められています

もう1つは、面談などをした結果本人が自ら反省のため自宅待機する」と言ってきた場合です。これは本人が言ってきているわけなので、「自宅待機=働いていない」として当然ながら支払う必要はありません(ただし、くれぐれも面談で強引な誘導や強制をされませんようご注意ください・汗)。

感情的には「支払いたくない!」の気持ちはよくわかります。ただ、実務上は「後から訴えられてさらに面倒なことにならないように」冷静に対応することが大切なのです。

※ 法律上は上記以外にも「証拠隠滅の恐れがある場合」等が決められていますが実際はそれを証明するのは非常に難しいでしょう。

image by: Shutterstock.com

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【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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