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凋落する日本の家電メーカー、なぜ「中韓台」企業に食われたのか

日本の大手電機メーカーの衰退が止まりません。かつて高い技術力を武器に成長した勢いは見る影もありませんが、なぜ日本の大手電機メーカーはここまで落ちぶれてしまったのでしょうか? メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の著者で元国税調査官の大村さんが、台湾の鴻海精密工業によるシャープ買収を例に、電機メーカーの失墜の原因を明らかにしています。

なぜシャープは下請け会社に買収されたのか?

昨今、日本の電機メーカーの苦戦がたびたび報じられています。

つい最近も東芝が、アメリカの原子力事業で大赤字を出し、倒産寸前まで追い込まれました。

昨年は、あのシャープが台湾の企業に買収されてしまいました。

シャープは、2015年度(2015年4月~12月)に1000億円を超える最終赤字を計上し、3000億円を超える偶発債務を抱えていた。そのため、自力での再建を断念し、身売りしたのです。

近年のシャープは、経営が思わしくなく赤字が続いていたが、昔から高い技術力を誇り、かつては日本を代表する輸出企業でした。

高い技術力を持つシャープは、なぜ台湾企業に買収されるまでに至ったのでしょうか?

それは一言でいえば「グローバル化の失敗」となります。

シャープは、他の日本の電機メーカーと同様に、1970年代からアジア諸国に工場をつくっていました。

台湾にも、1986年に子会社と工場をつくっています。それが台湾、シンガポールなどの技術力の向上につながったのです。

当時のシャープは、よもや台湾やアジア諸国の企業が、自社と競合し、打ち負かされるなどという事は思いも及ばなかったはずです。

が、30年後の現在、シャープは、台湾企業に買収されたのです。

シャープを買収した「鴻海精密工業」というのは、独自ブランドの製品はほとんど持たず、世界の有名メーカーの下請けをしてきた企業です。日本の企業の多くもこの「鴻海精密工業」と取引をしていました。

いわば、「鴻海精密工業」は日本の電機メーカーの下請け会社だったわけです。

シャープを買収した鴻海グループ(鴻海精密工業)は、1974年に実業家のテリー・ゴウ(郭台銘)氏によって設立されています。

鴻海精密工業は、電子機器の下請け工場として急成長を遂げ、現在ではEMS(電子機器受託製造サービス)の世界最大手となりました。世界中の様々な電子機器の製造をしており、任天堂、ソニーの製品にも携わってきました。現在は、アップルが取引額の半分を占めています。

EMSという事業形態は、これまであまり収益力がないとされてきました。しかし、鴻海精密工業は、中国の経済特区に巨大な工場を建設するなど大規模な投資により、利益率を大幅に引き上げることに成功したのです。

鴻海精密工業は、台湾の企業と言いつつも、中国本土をうまく使っているのが特徴です。

中国・深せんには、東京ドーム25個分に相当する大工場があります。これはiPhoneの製造に使用されており、その巨大さから紫禁城とも言われています。

経営者のテリー・ゴウ(郭台銘)氏は、中国の要人とも親交があります。台湾の企業というより、中華系の企業と言った方がいいかもしれません。

また日本企業との関係も深いのです。これまで任天堂、ソニーの製品にも携わってきました。日本電産とは現在も深い結びつきがあり、今でも大量のモーターを日本電産から調達しています。

つまり、鴻海精密工業は、欧米や日本の有名メーカーの技術供与を受けることで、急成長、急拡大してきた電機メーカーの典型なのです。

現在、日本の電機メーカーを苦しめている、中国、韓国、台湾の電機メーカーというのは、ほとんどが、このパターンです。

なぜ欧米の電機メーカーは好調なのか?

ところで、日本の電機メーカーは苦戦していますが、実は、欧米の電機メーカーは、日本のメーカーと違ってしっかり頑張っているのです。

2002年に10位以内に入っていた欧米の家電メーカーたち、アメリカのワールプール、スウェーデンのエレクトロラック、オランダのフィリップスは、いずれも現在も10位以内に入っています。2002年には10位以内に6社もあった日本のメーカーは、現在はパナソニック1社になってしまっているのに、です。

むしろ、日本のメーカーに席巻されていた1990年代ごろと比べれば、シェアは伸びているとさえいえるのです。

アメリカのワールプールなどは、企業買収などの成果が大きいにしろ、2002年には8位だったものが2015年には1位になっているのです。

なぜ欧米の電機メーカーは生き残ることが出来て、日本の電機メーカーは衰退しているのでしょうか?

各メーカーの主要商品を見ればその理由は見えてきます。欧米の電機メーカーは、中国や韓国のメーカーとは、あまり競合していないのです。

アメリカのワールプールは、冷蔵庫や洗濯機などの「白モノ家電」が主要商品です。しかし、ワールプールの扱う商品は、アメリカ式の大型のものがほとんどであり、業務用の物も多いのです。

中国の家電メーカーがつくる小型白モノ家電とは、ちょっと分野が異なるのです。

またスウェーデンのエレクトロラックスも、白モノ家電が主要商品ですが、食器洗浄機、調理器具など、キッチン周りの製品が多いのです。そして、デザイン性に優れ、家電としてだけではなく「家具」として高級感のある商品が特徴となっています。

ドイツのBSH、オランダのフィリップス、フランスのSEBグループなども同様に、アジア系の電機メーカーとは、若干、主要商品が違っています。

つまり、欧米の電機メーカーは、中国や韓国のメーカーと、まともにぶつかってはいないのです。

しかし、日本の電機メーカーの主要商品と、中国、韓国の電機メーカーの主要商品は、まともにかぶっています。白モノ家電にしろ、冷蔵庫、洗濯機等は、同じくらいのサイズのものであり、その他の家電にしても、同じような商品が多いのです。

また以前は、分野だけじゃなく、商品そのものも、似ている物が多かったのです。中国や韓国の電機メーカーの製品は、明らかに日本製のコピー商品と言えるものが多々あったのです。構造だけじゃなく、デザインもそっくりなものが多く出回っていました。

つまりは、韓国や中国の電機メーカーは、日本のメーカーを手本にしてきたのです。そして彼らには安い人件費という強力な武器があります。

そのため、日本の電機メーカーは、中国、韓国に価格競争で敗北してしまっているのです。

なぜ日本と中国の電機メーカーは、主要商品がかぶっているのか?

それにしても、なぜ日本の電機メーカーは、中国や韓国の電機メーカーと主要商品がかぶっているのでしょうか?

その主な理由は次のようなものといえます。

つまり、日本のメーカーは、自分たちが育てた後輩にシェアを食われていったのです。

日本の家電メーカーは、1970年代ごろから急速に外国に進出し、東南アジアに工場などを建て始めました。

そして、1985年のプラザ合意以降は、その勢いが加速したのです。

プラザ合意というのは、アメリカ、日本、西ドイツ、フランス、イギリスの大蔵大臣の会議で決められた合意内容のことです。このプラザ合意により、五カ国は「為替安定のためにお互い協力する」ということになったのです。

このプラザ合意により、日本は「円高」を容認せざるを得なくなりました。当時の日本は貿易黒字が積みあがっており(特に対米黒字)、円が実勢に比べて低いレートにあるということが、問題視されていたからです。

円高になるということは、日本製品の価格競争力が損なわれるということでもあります。

これに危惧を抱いた日本の製造メーカーたちは、海外進出を一気に加速させたのです。人件費の安いアジア諸国に工場を移転し、製品の価格を抑えようということです。

日本の企業が海外に進出するということは、日本の技術が海外に流出するということになります。

企業がどれほど技術の流出防止に努めたとしても、外国に工場設備まで建ててしまえば技術流出を止められるはずがないのです。

そして進出先の国では、当然、技術力が上がります。

日本人が長年努力して作り上げてきた技術が、企業の海外進出によって簡単に外国に提供されてしまうのです。

中国、台湾などの企業が、急激に発展したのは、日本がこれらの国に進出したことと無関係ではないのです。日本がこれらの国で工場をつくり、無償で技術を提供したために、彼らは急激に技術力をつけていったのです。

現在の日本の家電企業などの停滞は、もとはと言えば日本企業が安易に海外進出したことで起こったのです。

企業としては、当面の収益を上げるためには、人件費の安い外国に進出したくなるものです。

が、これは長い目で見れば、決してその企業の繁栄にはつながらないのです。進出先の国でその技術が盗まれ、安い人件費を使って、対抗してくるからです。

つまり、日本企業は、自分で自分の首を絞めているのです。

台湾の電機メーカー「鴻海精密工業」に買収されたシャープなども、その典型的な例です。

日本企業や日本政府は、この問題に本気で取り組んで欲しいものです。

日本企業が海外に移転するのを促進するのではなく、国内で頑張ることを支援する、ということです。そうしないと、今後、ますます日本企業の地盤低下は進んでいくはずです。

断っておきますが、筆者は、ナショナリストではありません

日本だけが発展すればいいなどとは思っていないし、発展途上国も豊かになって欲しいと思っています。だから、日本企業が発展途上国の技術向上に寄与することは、やぶさかではありません。

日本企業が「国際貢献をしたい」「発展途上国に技術供与をしたい」という意識のもとで、海外展開を行っているのであれば、筆者はもろ手を挙げて賛同します。

が、現在の日本企業の海外進出というのは、安い人件費を求めて、目先の利益確保のために行なわれているものです。

そのために、日本の雇用や技術が失われることはまったく考慮されていないのです。つまりは、日本にいる社員や下請け会社のことはまったく考えず、収益(株主のため)のことしか考えていないのです。

日本で培われた技術は、まず日本のために生かすべきでしょう。日本の雇用を守り、日本人の生活を豊かにする、まずそこに使われるべきです。その上で、発展途上国にも寄与すればいいのです。

株主の利益を優先するばかりに、日本の雇用と技術力を失わせることは、絶対に間違っていると言えるのです。

image by: Shutterstock

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