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難民受け入れから制限へ。ドイツが今も背負い続ける「重い十字架」

中東からヨーロッパへの難民流入が社会問題となっていますが、ドイツは緊急措置として開放した国境をわずか1週間ほどで事実上閉鎖しました。そこにはどのような事情があるのでしょうか。無料メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』では、ドイツ国民の「流されやすい気質」を引き合いに出しつつ検証しています。

奔流

本日はこちらのニュース。

ドイツが国境で検問開始…入国殺到で非常措置

 

中東から難民らが欧州に押し寄せている問題で、ドイツは13日、難民らの主要な入国ルートとなっているオーストリアとの国境で検問を始めると発表した。

 

受け入れ態勢の整備が追い付かず、メルケル政権内部からも懸念の声が高まっていたためだ。移民への寛容さを示してきたドイツは、欧州連合(EU)加盟国内での入国審査なしの自由な移動を認めた「シェンゲン協定」の精神に反する非常措置に乗り出した形だ。

 

検問開始の発表を受け、南部バイエルン州では警察が国境の道路沿いにカラーコーンを設置。シェンゲン協定を結ぶEU加盟国間では国境管理が廃止されているが、独当局は通行車両を停止、旅券確認などを始めた。EUの執行機関、欧州委員会は13日、「一時的な国境管理は危機的状況の場合は例外的に可能」との声明を出した。独政府は、収容施設の確保や生活支援などの受け入れ態勢が整うまでの一時的措置としている。

あまりにも膨大な難民がドイツ国境に押し寄せ、受け入れ態勢が全く追いつかなくなってしまい、ドイツが国境管理を再開しました。すなわち、シェンゲン協定の一時停止措置です。

オーストリアとの国境が近いドイツのミュンヘンには、先週の土曜日だけで1万3,000人の難民が到着。しかも、ハンガリー経由である以上、「管理」は一切されていないわけです。このままのペースが続くと、ドイツが今年1年間で受け入れる難民数は、何と80万人に達すると予想されています。まさに難民の「奔流」です。

ドイツの人口は8,000万人ですから、日本でいえば1年間に120万人の難民(しかも、言葉も宗教も異なる)が流入することになります。これで社会が不安定化しなかったら、そちらの方が不思議です。

川口マーン恵美先生の「ドイツの脱原発がよくわかる本: 日本が見習ってはいけない理由 」を読むとわかるのですが、ドイツ国民は日本国民以上に「空気」や「感情」に流され、政治を大きく動かしてしまいます。

ドイツの「脱原発」論は、我が国以上に情緒的で、感情的で、非論理的で、非科学的で、非技術的なのですが、メルケル政権は「空気」「世論」に抗えず、脱原発の時期を前倒ししてしまいました。

今回の難民受け入れも、9月4日に報じられた、男の子の溺死体の写真がドイツの世論を一気に動かし、「難民が可哀想。受け入れるべき」という空気が爆発的に膨張した結果でございます。

しかも、ドイツ国民は「ナチスの第三帝国」という重い十字架を背負っています。ドイツ国民は、第2次世界大戦の責任の全てをナチスに押し付けたわけですが、ナチス時代とは真逆の「人権」「人道」を全面的に標榜しなければ、欧州で生きていけない立場にあるのです。

その点が、大東亜戦争を戦い抜いた日本国とは違います。個人的な「歴史観」を押し付ける気は全くありませんが、わたくしは大東亜戦争で国家のために戦って下さった先祖を誇りに思っていますし、自分が「靖国に祀られている、あの人たちの子孫」であることを強く意識して生きています。ところが、ドイツ国民は絶対にその手の価値観を持ちえないのです。

すなわち、ドイツは日本以上に「戦前」と「戦後」で歴史が断絶していることになります。少しでも「反移民」あるいは「人種区別(差別ではなく)」的なことを言い出すと、猛烈に社会からバッシングされてしまうのが、ドイツという国家なのです。

結果的に、1枚の写真でドイツ国民の多くが一斉に「難民受け入れ支持」に動いたわけですが、現実は厳しいです。

また、ドイツの産業界について気になる点が1つあります。ドイツの産業界は、難民受け入れについて、「安い労働力が入ってくる。ウィルコメン(ようこそ)!」などとやっているわけですが、その「コスト」を負担するという話が一向に聞こえてきません。もちろん、難民を雇用すれば給与を支払うわけですが、そんなことは当たり前です。

現在、ドイツ連邦政府や地方政府が難民受け入れと管理、生活補助等のコストを支払っているわけですが、元をたどれば「ドイツ国民の税金」です。ドイツ産業界は、自社の「利益」のために難民を歓迎し、結果的に積み増されていくコストを「ドイツ社会」に押し付けているようにしか見えないわけでございます。

いずれにせよ、ドイツですら難民の奔流にギブアップしつつあります。現在、わたくしたちが目にしているものは、実のところの難民の奔流ではなく、戦後の世界を席巻した「人道主義」「多文化共生主義」「人権重視」、あるいは「個の利益」を中心に考えるグローバリズムを洗い流していく「歴史の奔流」なのかも知れません。

image by: Shutterstock

 

三橋貴明の「新」日本経済新聞
経済評論家・三橋貴明が責任編集長を務める日刊メルマガ。三橋貴明、藤井聡(京都大学大学院教授)、柴山桂太(滋賀大学准教授)、施光恒(九州大学准教授)、などの執筆陣たちが、日本経済、世界経済の真相をメッタ斬り!日本と世界の「今」と「裏」を知り、明日をつかむスーパー日刊経済新聞!
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