物が売れない時代に、イケアはなぜ行列2500人も集められるのか?

 

IKEA長久手店の環境とターゲティング

IKEA長久手店が出店したこのエリアは、名古屋市に隣接している、比較的新しい住宅地で、若い家族連れが住む集合住宅や一軒家も多い。また、その層が好みそうなイマドキのカフェやベーカリーなども多く、愛知県下ではトップクラスの人気のエリアで、ライフスタイルの雑誌などでもよく特集が組まれている。

イケア日本法人のヘレン・フォン・ライス社長は同日、「周辺地域には若い世代や子育て世代も多く非常に可能性があるエリアだ」とのコメントを出したそうだ。IKEAがターゲットとする若い家族層が多く、総数も伸びているイメージの良いエリアに出店をする、という戦略であろう。

一方で、人気があり購買に意欲的な層が住んでいたり、ショッピングに来たりするというエリアでは、当然競争も激しくなる。実際、IKEA長久手店のすぐ近くには、昨年12月にオープンしたイオンモールがあるし、11月には、セブン&アイホールディングスが、隣接する日進市に、飲食店中心の商業施設である、「プライムツリー赤池」を出店する。

ターゲット層が多く、イメージが良いが、競合が激しく、苦戦しそうなエリアに、なぜ、IKEAは出店するのだろうか? 上記の視点は、売り手側の視点からの考えである。これを買い手側の視点に変換してみよう。

核になるターゲット層の30~40歳代の子連れ家族層が、休日に家族で楽しみたい、または、買い物に行きたい、IKEAにするか、イオンに行くか、どちらかを一つだけ選ぶ、という、いわばペイオフの状態になるとは限らない。したがって、イオンやセブンと顧客を取り合う、ということだけではなく、逆に、このエリアへの集客による相乗効果を狙う、という考え方もできる。取り合いと相乗効果のどちらを取るか、どう折り合いをつけるのか、という考えがまずはベースにあるのであろう。

次に、IKEAのコンセプトは、タグラインにもあるように、「やっぱり家が一番」。家具や雑貨を販売する小売業ではあるが、前面に押し出しているのは、「他社よりも安い家具ではなく、「あなたの楽しい生活」になる。こうなると、イオンやセブンと、価格や品揃えの点数といった、属性レベルで「差別化」する必要はなく、楽しんで買ってもらう、という情緒価値のレベルでの訴求での、独自化をしていけばよくなる。これにより、来店する理由が明確になり、選ばれる軸が価格などではなく、楽しさに変わる。

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