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習近平の訪米も影響?中国サイバースパイを制裁できない米政府

サイバー攻撃でアメリカの様々な重要情報を不正に入手しているとされる中国。これについてワシントン・ポスト紙は8月末に「米政府は中国に未曾有の経済制裁を準備」と報じたものの、9月半ばには「中国企業を制裁しない」との報道がなされました。なぜアメリカは態度を一変させたのでしょうか。メルマガ『NEWSを疑え!』に詳しく記されています。

中国サイバースパイを制裁できない米政府

米政府・企業に対する中国発のサイバースパイ行為に対し、米政府は警告を発しているが、米国のメディアは、「犯人を絞り込むことができた場合も経済制裁を行う用意がない」という当局者の発言を相次いで報道している。米政府は結果として、中国による現状程度のサイバースパイ行為に対する抑止力が自らにないというメッセージを発信しているのである。

ワシントン・ポスト紙は8月30日、「米政府は米企業の秘密を盗んで利益を得ている中国の企業・個人に対し、未曽有の経済制裁を準備している」と報道した。サイバーセキュリティ報道のベテランのエレン・ナカシマ記者によると、米政府は「制裁を実施するとはまだ決定していないが、匿名を条件に政府内の議論に関する取材に応じた複数の政権当局者(政治任用者)によると、早ければ2週間以内にも最終的な決断が下る」とのことだった。

しかし、ナカシマ記者は9月14日、「米政府は習近平訪米前に中国企業を制裁しない」という見出しの記事を書くことになった。制裁しない理由は、中国の習近平国家主席が9月24日から国賓として米国を訪問するため、また、準備のため訪米した孟建柱・中国共産党中央政治局委員(中央政法委員会書記)とケリー国務長官、ジョンソン国土安全保障長官、ライス国家安全保障担当大統領補佐官が、サイバーセキュリティについて一定の合意に達したためだという。

その本当の理由は、中国の企業・個人をサイバースパイとして制裁した場合、中国の反撃で米国の被害が広がることを局限する見込みがないためである。

オバマ大統領は9月11日、メリーランド州フォート・ミード駐屯地の対話集会で次のとおり発言した。フォート・ミードは米サイバー軍や国家安全保障局(NSA)の本部の所在地である。

「サイバー攻撃が増加すれば、ある時点で米国はそれを国家安全保障に対する中核的な脅威と認識し、対処するようになると、サイバー攻撃を支援している可能性のある国家に理解させることを最優先する」

「米国はサイバー攻撃を競争の土俵にして相手を打ち負かすこともできるが、サイバー攻撃はどの国のためにもならないという国際合意が得られれば、国際的な交通規則を作ることもできる」

オバマ大統領は、現状程度のサイバースパイ行為とサイバー攻撃は、中国との間で制裁と攻撃の応酬に至った場合に、米国の経済・軍事・情報活動が被る損害と比べれば、「国家安全保障に対する中核的な脅威」でなく、「競争の土俵」にするほうが損害が大きくなる、という認識を示したのである。

静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

 

『NEWSを疑え!』第429号より一部抜粋

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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