【時事英語】「カタルーニャ独立」の背景を読み解く

20171018_spain
 

海外のメディアで報じられたニュースを中心に解説する、無料メルマガ『山久瀬洋二 えいごism』。著者である山久瀬さんはメルマガの中で、カタルーニャ独立の背景について紹介しています。

 

今週のテーマ「民族の独立の背景にある国際政治の課題とは」

【海外ニュース】

Catalonia’s Leader, Facing Deadline, Won’t Say if Region Declared Independence 

訳:カタルーニャのリーダーは、スペインからの回答期限に直面し、この地域の独立の名言を避けるかも (NewYorkTimesより) 

【ニュース解説】

スペインのカタルーニャでの分離独立運動が話題になっています。1479年にスペインによって統一されて以来、この地域では何度も民族運動がおき、20世紀になってからも弾圧の歴史を経験しています。特に、スペ インのフランコ政権下では、カタルーニャ語や文化そのものへの厳しい統制に さらされたこともあったのです。同じスペインでは、北部のバスク地方でも長年同様の運動がおきています。 

スペインを離れ、さらにヨーロッパをみれば、そこにはイギリスでのスコットランドや北アイルランド、ベルギーやオランダにまたがるフランドル地方など 、現在主権をもっている国家と異なる歴史や文化背景をもつ地域がいくつもあります。さらに海を渡れば、カナダのケベック州などでもフランス系の人々による分離独立運動がありました。

もともと民族の興亡が続き、時には大国が小国を飲み込み、人々が分断されてきた歴史のあるヨーロッパをはじめとする大陸では、こうした独立運動があっ ても別に不思議ではありません。

 

ここで中東に目を向けてみます。この地域で注目されているのが、イラクからのクルド人の独立運動です。 

この地域のクルド人は、サダム・フセイン政権の折に毒ガスをつかった虐殺の犠牲になった人々として知られています。ですから、サダム・フセインの束縛のなくなったイラクから彼らが独立をしようとすることは、ごく自然の成り行きのように思われます。

しかし、クルド人はイラクだけではなく、トルコやイランにも居住しています 。彼らは自らの国を持たない中東最大の民族集団だとされているのです。

そしてクルド人への差別や弾圧は、トルコやイランでも政治的社会的な問題であることも事実です。従って、イラクで独立運動がおきれば、その動きがこうした周辺諸国へ飛び火することを関係国の為政者は危惧 するのです。

クルド人の分離を嫌うイラク政府は、クルド自治政府への圧力を強めるために 、クルト人自治区とイランとの国境を封鎖するようにイラン側に申し込み、イランもそれを承諾します。

さらに、キルクーク油田の権利をめぐってもクルド自治政府とイラク政府の対立が深まり、それが新たな紛争の導火線へとなりつつあります。

クルド人は、サダム・フセイン政権崩壊後のイラクの中にISISが生まれ、勢力を拡大する中で、ISISの排除にも強く貢献した民族です。

 

さらに皮肉なことに、サダム・フセイン政権と対立関係にあったアメリカは、クルド人のもつ武装集団ペシュメルガへの援助を続け、その兵力は20万人にもおよぼうとしているのです。

現在イラクはアメリカが主導となって国家が再生されました。ということは、イラクの前に立ちはだかるクルド人の兵士も、その独立を阻止しようとするイラク人兵士も、その育成にアメリカが関係 していたことになるのです。

 

実は、サダム・フセイン政権が強力な独裁政権となったのも、反米政権であっ たイランに対抗するために、もともとアメリカの支援があったからです。 

さらに、アフガニスタンにソ連が侵攻していた当時、アメリカの支援を受けてソ連とゲリラ戦を展開していた主要人物はオサマ・ビン・ラディンです。彼が後年アメリカに対して同時多発テロをおこした主犯であることは周知の通りです。

このように、中東の政治や民族の対立は複雑です。その時々の政治状況でアメリカなどの政策が変化し、それがまたその地域の状況を複雑にします 。

 

では、カタルーニャの分離独立運動について振り返ります。確かに、カタルーニャの人々も中東でおきているような大国による弾圧や政治的な軋轢の中におかれた経験をもっています。

しかし、大きく異なるのは、今スペイン自体がEUという、ヨーロッパの共同体に属し、ヨーロッパ世界を分断してきた国家や宗教の対立による過去の悲劇を克服しようしていることです。

クルド人の居住する地域は、不幸にして分裂と対立の歴史に翻弄され、それが そのまま現在に引き継がれています。しかし、ヨーロッパは、その不幸な連鎖に終止符を打つために、EUという理想をつくり、育ててきたのです。しかし、そのEUがイギリスの離脱や加盟国内の右傾化により存亡の危機にさらされています。カタルーニャの独立がそうしたEUの危機に拍車をかけないか懸念されるのです。

また、現在多くの人々が行き来し、居住地を変えるなか、過去の弾圧や民族主義の歴史のみによってその地域の独立が承認できるのかという課題もあります 。

当然のことですがカタルーニャにもスペインやEU各地から移動してきた人々や企業がたくさん進出し、すでに年輪を刻んでいるのです。

今、分離独立派を指導するプッチダモン州知事は、自治権の縮小をも辞さないとするスペイン政府の強硬な姿勢に、さらなる対応を迫られています。 

民族主義を元に国境をどこかで確定しようとすると、そこには必ず利益を得る人と、そうでない人が現れます。

もちろんクルド人自治区の中にも、 クルド人以外の人々も多く居住します。

国連や、EUなど、戦後に設立し、育成された機関の知恵が最も問われているのが、こうした問題への対処な のです。人の血を流すことなく民族や文化の違いを認めながら融和できる知恵を多くの人が求めているはずです。 

image by: Riderfoot / Shutterstock.com

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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