家電の悪夢再び。中国の自動車産業が、日本を時代遅れにする日

 

ガラガラの4車線高速道路をかっ飛ぶクルマは皆無

中国河北省の保定市と聞いて、ピンと閃く人がどれだけいるだろう。。北京首都国際空港からクルマで3時間余り。まだ新しいG4(京港澳高速道路=北京-石家荘-鄭州-武漢-長沙-広州-香港・マカオ)を南に約200kmほど下ったところにある地級市だ。

中国の行政区分は、23省を基本に5自治区、4直轄市、2特別行政区からなる第一層の『省級』を水平分割した上で、省の地区を基本とする第二層地級市の『地級』、日本の郡に近い第三層県の『県級』、第四層郷や鎮の『郷級』を配し、垂直構造に分けて統治する。

保定(バオディン)市と聞いて、静岡市や仙台市のような地方都市をイメージしたが、市域は四国の大きさに匹敵し人口は1000万人を数えるという。河北省は首都北京や天津といった直轄市を除いた総面積が約19万平方メートル。日本の半分近いと知れば保定市の広さも納得だが、その市部の人口が約300万人、周辺の農村部が700万人であるという。

河北省は清代に直隷省と呼ばれた北京を守る要衝で、保定市には総督府が置かれた。

人口と市部面積の広大さに初耳の心は揺れたが、都心の景観はいたって素朴な地方都市にすぎない。

それにしても中国の様変わりは目覚ましい。長城汽車本社へは差し回しのハーバル(HAVAL=長城汽車のSUVブランド)最上級モデルH9でおよそ3時間足らずの道のりだったが、驚きは高速道路の充実ぶり。北京首都国際空港から市内を迂回して京港澳高速道路G4を南下する。北京市部の旧い区間は片側2車線だが、郊外の幹線区間に入ると3~4車線の真新しい路面が続いた。

河北省は海抜が44mという広大な平地が続き、高速道路は基本的に直線。数年前までは制限速度が100km/hだったが、G4は120km/hに高められている。ユニークなのは各レーンに最高速度と最低速度の表記があり、中央車線の120-110km/hから120/- 100km/h100-80km/h100-60km/hとそれぞれ分けられている

当局の取り締まりが厳しく、違反は相応の罰金を伴うことから空いた道路を無駄に急ぐクルマは見当たらない。H9の若いドライバーは慎重で速度計が120km/hを超えることは一度もなく、また追い越して行くクルマも皆無だった。

これは次号で詳しく述べるが、中国の爆発的なクルマの普及と欧米日韓メーカーとの合弁を基本とする最新技術導入で性能向上が進む一方で、クルマの走りのパフォーマンスに対する要求は強くない

自動車は『人・道・車=三重のシステム』と捉えるべきというのはここでも何度も触れている持論だが、立派な道路と最新のクルマが普及する一方でヒューマンファクターに属する庶民のクルマに対する習熟と行政当局による規制が過度の走りのパフォーマンス志向に水を差している。

もちろんインターネットがもたらした情報化は中国でも社会の隅々に浸透し、情報としてのクルマは中国でもすでにグローバル化の恩恵を受けているはずだが、現実が国際化するにはまだしばらく時間が必要であるようだ。

都市部の交通集中は全世界的な傾向で大同小異だが、行政当局による厳しい法規制は普及の勢いとは好対照にこれまで先進諸国が歴史的に追求してきたより速く、快適にというスローガンとは異なる価値観を醸成する可能性がある。

現在の中国は自動車の年間販売台数が3000万台を窺う成長のプロセスにある。その過程の中で、従来はアメリカが牽引してきたクルマのトレンドセッターとしての役割を新たな価値観とともに手に入れることになるかもしれない。

先進国メーカーの中国市場進出は国有企業グループとの合弁でしか認めないという巧みな政策で技術移転を促す一方、法秩序を乱しかねないクルマの高性能化には厳しい監視の目を向ける。そのような環境下で市場から発せられる要求が瓢箪からコマの価値を生み、圧倒的な販売量をテコに世界のクルマの有り様を書き換える。その可能性は否定できないはずだが、今そこに目を向ける者は皆無といえるだろう。

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