中国自動車産業の脅威は、国有合弁勢ではなく野心に燃える私企業グループ
目下のところ、中国に関する自動車の話題といえば、年間販売台数が2800万台を超える世界最大の市場であることと、PM2.5に象徴される大気汚染をはじめとする環境悪化の打開策として進められているECOカーの導入。アメリカのZEV規制に範を求めたNEV規制が、市場規模の巨大さを反映してトレンドを形作る。
中国については未だに新興国扱いで、コピー文化の自動車産業は脅威たりえないとする声も断えないが、私が初めて上海国際自動車ショーを取材した2007年からの10年で中国は劇的に変化した。先進国メーカーからの技術供与や人材の流入によって、当初の真似っこ文化全盛期は唐の昔に過ぎ去り、ドッグイヤーのスピード感で技術力を身につけつつある。
まだ玉石混淆で怪しげなコピーものが幅を利かせる一方、バリューフォアマネーの視点で見れば国際商品として十分通用するクルマもちらほら見られるようになった。
何よりも自国に巨大な市場を抱えている優位性は見逃すべきではない。100年に一度といわれる自動車の大転換期に、モータリゼーションの歴史を持たない後進国の優位性を活かして一気に世界のトレンドセッターに登り詰める可能性がある。
有線電話の普及の前に最新の携帯電話の技術が世界の工場と化したところにもたらされ、経済の急拡大と歩調を合わせるようにモバイル電話に移行し、どこよりも早くスマートフォンの普及を実現した。現時点の自動車保有台数は潜在的市場規模の3分の1程度と考えられ、北京の中央政府主導の環境対策最優先の自動車政策を考えるともっとも進んだ多様性の高いモータリゼーションを産み出す余地が大きい。
これは実際に現地に足を運んで得た実感であり、民族系私有自動車メーカーの最右翼として挙げられる長城汽車のすべてを取材してきた事実に基づく評価でもある。
中国で国有企業と合弁を組むメーカー以外の私有自動車会社を取材した例は寡聞にして知らない。1980年代にポンプ製作で財を成した父親の資金を元手に、北米で人気のピックアップトラックハイラックスの手板金によるコピーから事業を興したという魏建軍(ウェイ・ジャン・ジュン)董事長=会長のパーソナリティに始まる長城汽車の実像は、1年あまり過ぎた今もなお鮮烈な記憶としてこの身に残る。
現時点ではトヨタの10分の1ほどのスケールだが、自国に大きく発展する可能性を秘めた市場を有し、そこでの価値観の発見が世界市場を席巻する可能性を秘めている。
日本のすべての量産自動車メーカーがマークすべきはドイツやアメリカのライバルではなく、中国の野心に燃えた私企業グループの存在だ。(つづく)
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