党内で求心力を失い、立場が危ういとの声も聞かれた中国の最高指導者・習近平氏ですが、無事2期目を迎えることができそうです。悲願であった「習近平思想の党規約への盛り込み」も実現、これにより願いどおり習氏は「神」になることができるというのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係研究者の北野幸伯さんの見解は?
習近平は、「神」になりたがっている
日本では、自民党が衆院選で圧勝、安倍さんの続投が決まりました。一方、中国では、習近平さんの2期目が始まります。安倍さんと習近平さん。政権についたのは、共に2012年。まさに「ライバル」の関係。
民主主義国家日本の総理安倍さんは、「民心は移り変わりやすい」ことを知っています。皆さん思い出してください。安倍政権の支持率は7月、20%台まで下がっていたのです。それで自民党の皆さんは、「勝っても謙虚に、謙虚に」といいます。そのとおりですね。
一方の中国。習近平さんは、「謙虚」ではありません。逆に、「自分は、毛沢東のような、神のごとき、偉大な指導者になるのだ!」という意欲満々です。証拠は、こちら。
中国共産党、「習氏思想」を党規約に盛り込む 毛沢東以来の権威
BBC NEWS 10/24(火)18:00配信
18日から北京で開催されていた第19回中国共産党大会は24日、習近平総書記(国家主席)の政治理念を党規約に盛り込む改正案を承認した。習氏は毛沢東以来の権威を手に入れた。
「習近平思想」が党規約に盛り込まれた。これで彼は、「毛沢東以来の権威を手に入れた」そうです。なぜ? 中国には、これまで5人の最高指導者がいた。毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦涛、習近平。そして、毛沢東思想がある。鄧小平理論がある。江沢民思想とか胡錦涛思想はない。しかし、習近平思想はある。で、習近平「思想」と鄧小平「理論」では、「思想」の方が上である。
つまり、中国の歴代指導者の中で、一番偉いのは「思想」の毛沢東と習近平、その次は「理論」の鄧小平、一番下は江沢民と胡錦涛、ということなのです。
野心家・習近平
習近平は、自分を「建国の父」毛沢東と並ぶ存在にした。ちなみに彼は、昔から野心家だったそうです。中国研究の大家・近藤大介先生によると、習近平が尊敬している人物が3人いる。一人目は、お父さんの習仲勲さん(元国務院副総理)。
二人目は、プーチンさん。なぜ習近平は、プーチンを尊敬しているのでしょう? 彼は、2000年に大統領になってから17年も「絶対権力者」であり続けている(08年~12年は、首相だったが)。習近平も、「プーチンのような絶対権力者になりたいな~」と思っていたので、尊敬しているのです。
三人目は、毛沢東。習近平は、毛の「文化大革命」時、ド田舎に飛ばされ、15~22歳まで重労働をさせられました。そんなひどい目にあいながら、毛沢東を崇拝しているとは…。
自国に災厄をもたらす「神様」
人が「神になる」というと、いろいろ意味があります。たとえば、「あの人は、神様のような人だ」と言えば、いい意味でしょう。いつもニコニコしていて、エゴがない。人が困っていたら、助けずにはいられない。
他にも、「一つのことを極めた人」という意味もあります。たとえば、「イチローは野球神だ!」と言えば、「野球をとことん極めた人」という意味。「金儲けの神様」「投資の神様」「料理の神様」「釣りの神様」「将棋の神様」など、日本では、あらゆる分野に神様がいます。
最後の意味は、「絶対権力者」という意味。思い出されるのは、ドイツのヒトラー、ソ連のスターリン、中国の毛沢東、北朝鮮の金日成、など。彼らには、ある共通点があります。そう、自国民を「大量虐殺」した。毛沢東に憧れる習近平ですが、今の時代に大量虐殺するとは思えません。しかし、「自分は神のごとき存在になろう!」と思うこと自体、「かなりヤバい!」と言えるでしょう。
考えてみてください。党規約に「習近平思想」が入る。これは、「彼自身が望んだから」としか考えられません。鄧小平が生きていれば、「バカなことを…」と嘆いたことでしょう。
習近平、厳しい2期目
毛沢東になりたい習近平。しかし、彼の二期目は、非常に厳しいものになりそうです。昔からの読者さんは知っています。中国は今、「国家ライフサイクル」で、「成長期後期の末期」にある。2005年出版の「ボロボロになった覇権国家」以来、ずっと同じことを書き続けていますが、中国の成長期は、「2020年前後」で終わるのです。その後は、日本で1990年に起こった、「成長期から成熟期への移行に伴う混乱」が待ち受けています。日本では、自民党の一党支配が崩れ、日本新党の細川さん、新生党の羽田さん、社会党の村山さんと、非自民の総理が続きました。
中国は、これからますます経済成長が鈍化し、政治も不安定になっていくことでしょう(念のために書きますが、中国経済は2015、16年最悪でした。高橋洋一先生は、「15年はマイナス3%」とおっしゃっています。しかし、2017年は、かなり回復してきています。本題ではないので、詳細は省きますが)。
習近平が、毛沢東を超えるには?
習は既に、中国のトップになることで、お父さんを超えました。GDP、軍事費世界2位の大国の絶対権力者になることで、プーチンを超えたともいえるでしょう。党規約に「習近平思想」が入ることで、毛沢東に並びました。では、どうすれば、彼は毛沢東を超える存在になれるのでしょうか?
毛沢東ができなかったことをすればいい。それは、何でしょうか? 毛沢東は、国民党との内戦に勝利し、中華人民共和国を建国しました。敗れた国民党は、台湾に逃れて生き延びた。それで、現在は中華人民共和国と、中華民国(=台湾)の二つが存在しています。習が、「台湾併合」に成功すれば、彼は「毛沢東を超えた歴史的指導者」になれるでしょう。
今後、中国の経済成長は、必然的に鈍化し続けていく。国民は、「鄧小平、江沢民、胡錦涛と、中国は世界一の成長を誇ってきたのに、習はだめだな~~~」となる。そうなると、習は「別の正統性」を見つける必要が出てくる。「台湾併合」は、まさに「(習にとって)よい正統性」なのです。
ちなみに、クリミアは、1783年から1954年まで、文句なしでロシア領でした。ソ連崩壊後は、ウクライナ領になりましたが、全ロシア人が「クリミアは、ロシアのものでしょ」と信じていた。プーチンは2014年3月、クリミアを「サクッ」と併合し、ロシアの「歴史的英雄」になりました。その後、経済制裁、原油安、ルーブル安でロシア経済はボロボロになった。しかし、「歴史的英雄」プーチンの支持率は、いまだに8割台をキープしています。プーチンを尊敬する習が、「俺も見倣って」となってもおかしくないですね。
日本の大戦略は不変
日本の隣にある超大国のトップが、「私は神のごとき絶対権力者になろう!」と決意している。わが国にとっては、大きな不安定要因に思えます。しかし、私たちは、慌てず騒がず、大戦略を実行していきましょう。日本の大戦略は、「孤立を回避することで、中国が尖閣侵略に動けない状態をつくり、それを維持する」ことです。
大戦略で、最重要の国家は二国。すなわち、現在の同盟国アメリカ。未来の同盟国インド。重要国家(地域)は、EUとロシアです。そして、台湾、ベトナム、フィリピン、オーストラリアなどとの関係もとても重要。その上で、中国との良好な関係を築けるよう努力するべきです。大事なのは、「関係の秩序」です。
- アメリカ、インド
- EU、ロシア
- 台湾、ベトナム、フィリピン、オーストラリア
- 中国
この秩序を崩さない範囲で、日本は中国とも仲良くしていくべきなのです。
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