7月に掲載した「中国にダマされた…ようやく気づいたトランプ大統領『怒りの逆襲』」でお伝えしたとおり、習近平氏と交わしたはずの「北朝鮮問題解決への協力」が思うように得られず、「日中貿易を有利に進めるための罠だ! ダマされた!」と怒り心頭だったトランプ大統領。しかし無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』によると、先日の訪中で「国賓以上」という厚遇を受けたトランプ大統領は再び習氏のことを「好きになった」様子だと言います。果たして今後の日米関係への影響は?
トランプ訪中でわかったこと(崩れる戦略)
皆さんご存知のように、トランプさんは11月5~7日、日本に滞在されました。この訪日の成果について、ダイヤモンドオンラインさんに記事を載せています。まだの方は、まずこちらからご一読ください。
この記事の中で、「トランプ訪日の成果」は、
- 北朝鮮問題で、「圧力路線継続」で一致したことでも、
- アメリカの対日貿易赤字を減らすことで合意したことでもなく、
- 「インド太平洋戦略」実現にむけて、両国が努力していくことで合意したこと
が「最重要なのだ」という話をしています。しかし、同記事の結論部分で、「インド太平洋戦略の実現は簡単ではない」とも書いています。なぜ?
しかし、「インド太平洋戦略」の実現は、簡単ではない。というのは、日本以外の国々、つまり米国、インド、オーストラリアと中国の関係が、揺れ動いているからだ。
トランプは、「反中大統領」として登場。去年の12月には、台湾の蔡総統と電話会談し、中国を仰天させた。しかし、「アッ」という間に懐柔され、今では「私は習近平のことが好きだ!」と公言してはばからない。
インドは、中国と領土問題を抱えている(アルナーチャル・プラデーシュ州など)。それで、中印関係は一般的によくないと思われている。しかし、インドは15年、中国、ロシアが主導する反米組織「上海協力機構」の加盟国になっている。一方、オーストラリアのターンブル首相は、アボット前首相とは違い、親中派だ。
「インド太平洋戦略」を築くためには、日本、アメリカ、インド、オーストラリアの一体化が不可欠。しかし、アメリカ、オーストラリアの現政権は、「中国は最大の脅威である」という意識が希薄である。インドは、中国の脅威をとても感じているでしょうが、中ロに接近することで、「外交でなんとかしよう」としている。こういう現状があるので、「簡単ではない」と書いたのです(もちろん、「やめろ」という意味ではありません)。
さて、トランプさん。彼は、日本の後、韓国に行きました。そして、中国を訪れた。どんな感じだったのでしょうか?
トランプを「国賓以上」でもてなした中国
まず、中国は、どんな感じでトランプさんを迎えたのでしょうか?
故宮貸し切り習氏「皇帝」誇示…トランプ氏厚遇
読売新聞 11/9(木)20:23配信
【北京=竹腰雅彦】中国の習近平(シージンピン)政権は、トランプ米大統領の初の中国訪問に際し、「国賓以上」(中国政府高官)という厚遇ぶりで臨んだ。習国家主席はトランプ氏の訪中を、良好な米中関係をアピールし米国と並ぶ大国の指導者としての威信を内外に誇示する舞台として活用した。
「国賓以上」の待遇だそうです。中国のこういうところは、「実に巧み」だと思います。中国の歴代の指導者たちは、「何が何でもアメリカと仲よくしなければならない!」と固く決意していました。そして、そのために、金を湯水にように使って懐柔工作をしてきた。
私たち日本人は、「そんな姑息な手にだまされるトランプさんではありませぬぞ!」と思うでしょう?? トランプさんの反応が伝わってきています。
「国賓以上の待遇」とされる今回のトランプ氏の訪中では、8日の到着時にも盛大な歓迎を受けた。トランプ大統領はその後、習氏の歓迎に盛んに感謝するツイートを少なくとも2回投稿した。
トランプ氏はツイッターで、「あしたの丸一日にわたる習主席と我々の代表団の会談を楽しみにしている。中国のみなさん、美しい歓迎をありがとう! ファーストレディのメラニアと私は一生忘れないだろう!」とコメントした。
トランプ氏はさらに、「習主席と彭麗媛夫人、北京の紫禁城での忘れがたい午後と夜をありがとう! ファーストレディのメラニアにも代わってお礼を言う。またあしたの朝お会いするのを楽しみにしている!」と投稿した。
(BBC NEWS 11/9)
「中国のみなさん、美しい歓迎をありがとう! ファーストレディのメラニアと私は一生忘れないだろう!」
これ、「思ったことそのまま書いた」と解釈していいと思います。トランプさんは、習近平と違って、感情を隠すことができません。ウソもあまりうまくない。だから、メルケルさんのように気があわない人に会うと、露骨に嫌な顔をする。本当に、中国の接待に感動したのでしょう。
習氏に向かい、「あなたに対して信じられないほど温かい感情を持っている。以前にも話したように、私たちは相性がぴったりだ。共に米中両国にとって素晴らしいことをしていると思う」と褒めちぎった。
(AFP=時事11月9日)
「あなたに対して信じられないほど温かい感情を持っている」そうです。これも、「本音」と解釈するべきでしょう。トランプさんは、ず~~~と、「私は習近平が大好きだ!」と言い続けています。
トランプ、中国を喜ばせる
一方、トランプさんも、中国側を喜ばせています。
トランプ氏の孫娘、アラベラちゃんの歌唱に中国のネット民ぞっこん
11/10(金)8:35配信
【11月10日 AFP】中国の習近平(Xi Jinping)国家主席と同国を訪問中のドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領の会談が中国メディアで大きく取り上げられる中、同国のネットユーザーたちの心をわしづかみにしたのは、目を見開いて中国語で歌唱するトランプ氏の孫娘、アラベラ・クシュナー(Arabella Kushner)ちゃん(6)だった。
トランプ氏は北京の故宮(Forbidden City、紫禁城)を8日に訪問した際、習氏にアラベラちゃんの動画を披露。アラベラちゃんは習氏と妻である彭麗媛(Peng Liyuan)夫人に中国語で「習おじいちゃん、彭おばあちゃん」と語り掛け、中国語の曲を歌い、同国の古典的な詩を暗唱した。
これ、中国人は大喜びだそうです。わかりますね。ところで、トランプさんは、なぜこのような演出をしたのでしょうか? もちろん「中国と仲良くしたいから」でしょう。
大国関係の現状
中国は、「日本には尖閣だけでなく、【沖縄】の領有権もない!」と宣言している。
それで、私たちは、リアリストの大家ミアシャイマーさんや、世界最高の戦略家ルトワックさんの戦略が発動されることを願っている。その戦略の要は、「アメリカは、ロシアと和解し、中国を封じ込める」というもの。トランプは、まさに「この戦略を実現してくれる大統領」と期待されていました。昨年12月に彼が台湾の蔡総統と電話会談したとき、期待は確信にかわった。
しかし、現実は、思い通りに進みませんでした。トランプは親プーチンですが、「ロシア・ゲート」でロシアと和解できない。その一方で、米中関係は、「北朝鮮問題」をきっかけに、大いに改善されてしまった。今回のトランプ訪中で、そのことがさらにはっきりしました。アメリカ大統領と中国国家主席は、「仲良くしていこう」と決意している。
日本は、細心の注意が必要
こういう状況下で、「インド太平洋戦略」を日本が主導するのは大変危険です。この戦略の参加国は、日本、アメリカ、インド、オーストラリア。しかし、アメリカ、インド、オーストラリアは迷っている。ここで総理が、戦略を主導すれば、「笛吹けど踊らず」状態になり、日本が孤立する可能性が高まります。では、どうすればいいのでしょうか?
ダイヤモンドオンラインにも書きました。まず、「インド太平洋戦略」の「主役」をトランプ大統領にすることです。私たちが願っているのはあくまで、「アメリカを中心とする対中バランシング同盟」です。アメリカ抜きで、日本単独で中国と戦うことではないのです(日本一国で戦っても勝てません)。
もう一つは、中国への挑発、批判は控え、米中関係と日中関係を「同レベル」にすることです。つまり、日中関係は、米中関係程度に改善される必要がある。(しかし、常に 日米関係 >>> 日中関係 であることを忘れてはなりません。これをやめると鳩山時代のように、ひどいことになります)。
というわけで、「リアリズム戦略」は、うまくいっていません。それで、日本は、この型にこだわることなく、柔軟に対処していく必要があります。
客観的にみれば、日本は今、とてもすばらしいポジションにいます。日米関係、日印関係はとてもいい。日欧関係、日ロ関係もいい。オーストラリア、ベトナム、フィリピンなどとの関係もいい。結果、中国は尖閣侵略に動けず、日中関係も改善されています。この状態を維持できれば、日本は「戦わずに中国に勝つ」ことができるでしょう。
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