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国税局のガサ入れ調査が、「大企業」には入らない黒い理由

パナマ文書に続いて明らかになった「パラダイス文書」。最近ではそのリストに名前があったとして、有名漫画家や元総理に疑惑の目が向けられています。そうした租税回避の調査にあたる国税局の調査査察部、通称「マルサ」を、私たちは映画やドラマなどの影響もあって「正義の味方」として認識してしまいがちです。大人気メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の著者で元国税調査官だった大村さんは、その正義の味方説を「都市伝説だ」とバッサリ。メルマガの中で、知られざるマルサの赤裸々な実態を暴露しています。

国税局調査査察部(マルサ)の真実

国税庁税務署というと、「マルサ」をイメージする人も多いでしょう。

映画やテレビなどですっかり有名になった「マルサ」。

筆者も実は、フジテレビのドラマ「マルサ!!」や、テレビ朝日の「ナサケの女」では、監修をつとめさせてもらっています。まあ、言ってみれば、筆者もマルサを有名にした側の人間というわけです。

が、そういう筆者が言うのもなんですが、マルサというものについて、世間は大きく誤解しています。

その誤解を解くため、今回はマルサの真実についてご紹介したいと思います。

まず、世間の大きな誤解の一つに、「税務署=マルサ」と思われていることがあります。

しかし、「マルサ」というのは、国税庁の組織の中の一つの部門のことであり、税務署が全部マルサのような仕事をしているわけではありません。というより、マルサの仕事は、税務署の中でも特殊な部類に入るのです。

マルサというのは正式には各国税局内にある「調査査察部」のことです。

このマルサは、脱税の容疑がある納税者に対して、裁判所の許可をとって、強制的に調査をする部門です。

一般にはあまり知られていませんが、税務調査には、任意調査と強制調査があります。

任意調査というのは、納税者の同意を得て行われるものです。そして、実は国税庁、税務署が行なう税務調査の90%以上はこの任意調査なのです。

一方、強制調査というのは、裁判所から強制調査許可状を得て行われる調査で、納税者の同意は必要ありません。事前にある程度の脱税の情報があがっている納税者に対して、その脱税の全貌を暴くために裁判所が強制調査のゴーサインを出すわけです。強制調査の場合は一切が了解なしに行われ、時にはドアをぶち破られたり天井や床下を調べられたりもするのです。
この強制調査を担当するのがマルサなのです。

マルサに入られた納税者は、まったくなにを調べられても、拒否は出来ないし、勝手にどこかへ行くことも許されません。警察の逮捕や家宅捜索と似たようなものです。

またマルサには、警察と同じような取調室があり、被疑者はここに召喚されて取り調べを受けます。

そしてマルサの怖いところは、納税者には黙秘権がない、ということです。

警察の捜査の場合は、逮捕された容疑者には「都合の悪いことを話さなくていい」という黙秘権があります。

しかし、マルサの調査の場合、納税者は質問には必ず答えなければならないのです。もし嘘をついたり、知っていることを黙っていた場合、そのこと自体がペナルティーになるのです。

マルサは大企業には入らない

マルサというと、巨額な脱税を暴く正義の味方というように見られることも多いものです。

そして、「マルサにはタブーはない」と言われることもあります。マルサは、どんな有力企業であろうが、政治家に関係する企業であろうが、憶せずに踏み込んでいく、と。

だからこそ、正義の味方的な扱いをされ、映画やドラマにもたびたび登場するのです。

しかし、この「マルサの正義の味方説」は本当なのでしょうか?

答えは、まったく違うのです。

マルサには、タブーが多々あり、むしろマルサが踏み込める領域というのは、非常に限られています

このことは、税務行政の最大の汚点であり、だともいえます。

たとえば、あまり知られていませんが、マルサというのは、大企業には絶対に入れないのです。信じがたいことかもしれませんが、資本金1億円以上の大企業に、マルサが入ったことはほとんどないのです。

つまり、マルサは、大企業には踏み込めないのです。

こんなにわかりやすい「意気地なし」はないでしょう。

マルサにタブーがない、ということなど、まったくの都市伝説なのです。

なぜマルサは大企業に行かないのでしょうか?

もちろん、国税庁はその理由を用意しています。理由もなく、大企業に入らないのであれば、誰が見てもおかしいからです。
その理由とはこうです。

通常、マルサは1億円以上の追徴課税が見込まれ、また課税回避の手口が悪質だったような場合に、入ることになっている。
しかし、大企業の場合、利益が数十億あることもあり、1億の追徴課税といっても、利益に対する割合は低くなる。つまり、大企業では1億円程度の脱税ではそれほど重い悪質ではないということである。つまり、中小企業の1億円の脱税と大企業の1億円の脱税は、重さが違う。

また大企業には、プロの会計士、税理士などが多数ついており、経理上の誤りなどはあまりない、そして大企業の脱税は海外取引に絡むものが多く裁判になったとき証拠集めが難しい

これを聞いて、そんなのおかしいだろう!と思ったのは私だけではないはずです。

確かに、中小企業の1億円と大企業の1億円では、利益に対する大きさが違います。大企業の場合、1億円の脱税をしていても、それは利益の数百分の一、数千分の一に過ぎないので、それで査察が入るのはおかしい、というのは、わからないでもありません。

が、それならば、大企業の場合は、マルサが入る基準を引き上げればいいだけの話です。利益の10%以上の脱税額があれば、マルサが入る、というような基準にすればいいだけです。

また「大企業の脱税は海外に絡むものが多く、証拠を集めにくい」という理由も言語道断です。

こういう理屈が成り立つならば、海外絡みの脱税をすればマルサに捕まらない、ということになります。つまり、よりずる賢く脱税をすれば、マルサは手の出しようがないということです。

現在、大企業にも税務調査は行われています。しかし、これはマルサの強制調査ではなく、任意調査です。

大企業には、原則として毎年税務調査が行われることになっています。規模が大きいので、最低でも1か月長いときには半年かけて行われます。調査官たちは専用の部屋(だいたい応接室の一室)をあてがわれ下にも置かない扱いを受けます

そして、大企業は大方の場合、税務調査ごとにある程度の追徴税を支払うのです。それはまるで、税務調査に対する手間賃を払っているようにも見えます。

また大企業は、顧問として、国税OBの大物税理士をつけていることが多いのです。かのトヨタなども、国税出身の税理士を役員として受け入れています。つまり、国税庁側から見れば、大企業というのは大事な天下り先でもあるのです。

つまりは、大企業と国税庁は、蜜月の関係があるといえるのです。

大企業にマルサが入らない状況が続く限り、マルサが正義の味方などということは、あり得ないのです。

image by: Shutterstock.com

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