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老後も働くなら年金をカット。65歳以上を悩ます「年金停止問題」

高齢化が進む中、我が国でも高齢者雇用が活発化し、働きたい人たちにとっては明るい兆しが見えつつあります。しかしその一方で、働き過ぎると「年金が停止される」という問題もあるようです。老後の生活に大打撃となりかねないこの制度について、今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』で著者のhirokiさんがわかりやすく解説しています。

進む「高齢者雇用」で、私たちの年金はどうなるのか?

10月27日に厚生労働省が発表した65歳以上の高齢者の雇用状況を見たら、結構企業の高齢者雇用が活発になっています。

65歳以上の高齢者の雇用状況(厚生労働省)

まず、65歳以上まで定年を引き上げた会社は前年より2,115社増えて26,592社程になり、また定年を66歳以上に引き上げた会社は1,044社増えて2,757社となりました。定年を廃止した会社は4,064社と変わらず。希望者が66歳以上まで働ける継続雇用は8,895社で前年より1,451社増。

また、70歳以上まで働ける企業(希望者全員じゃないけど70歳以上まで働ける企業)は前年より2,798社増えて35,276社と大幅アップ。希望者全員が70歳以上まで働ける企業は前年より1,154社増えて13,563社。70歳以上定年の企業は前年から134社増えて1,709社。というわけで、これからもますます高齢者雇用が活発になりそうです。

となるとまた年金の問題が出てきますよね。高齢者雇用と年金はセットで考えないといけない。

毎度おなじみなんですが、厚生年金に加入して働くと今の月給与(標準報酬月額)と直近1年間に貰う賞与額(標準賞与額)、そして老齢厚生年金月額の総額によっては老齢厚生年金がカットされる場合があります。

年金額に超重要な標準報酬月額や標準賞与額って何?(参考記事)

よく、働いたら年金がカット(停止)されるなんて許せない! って言われますが、本来は老齢の年金というのは老後に引退して退職した人に支払われる意味を持ちます。だから老後も働くなら年金が停止される。

しかし、60歳以上になっても働きたいという人も増えてきて、一般的に定年を迎えると給与がガクンと下がるので、ある程度年金額を支給しながら生活保障をしようとするのを在職老齢年金という。よって、定年前と同じような収入がある人には年金額が全額停止になったりする。

ちなみに、ここでいう働くというのは厚生年金に加入を意味します(70歳以上は厚生年金には加入しませんが、厚生年金適用の会社で厚生年金に加入できるくらいの労働をしてる人も含む)。厚生年金に加入しない自営業などの人がいくら働いても年金は停止されない

というわけで、今回は65歳前から働いてる人で65歳以降も働く人で見ていきましょう^_^。

1.昭和27年12月23日生まれの男性(今は64歳で来月65歳になる)

60歳から105万円の老齢厚生年金が支給され(期間は35年とします)、65歳からは68万円の老齢基礎年金が支給される予定。現在は60歳から継続雇用で厚生年金に加入しながら月215,000円(60歳到達時賃金40万の53.7%程に下がった)で働いている。賞与は毎年7月と12月に各30万円。65歳到達月以降は賞与無し。

更に、60歳以降の賃金が60歳到達時賃金の61%未満に落ちてる為に、215,000円×15%(61%未満は最大支給率は15%)=32,250円が高年齢雇用継続給付金として雇用保険から支給されてるものとします(基本的に2ヶ月分ずつ支払われる)。60歳到達時賃金の75%未満に下がると支給対象

※参考

もし、60歳到達時賃金40万円から例えば26万円に下がったら40万円に対して65%になる。この時の高年齢雇用継続給付金の支給率の公式→{(-183×A+13,725円)÷280×100÷A}。

A=65とすると、(-183×65+13,725円)÷280×100÷65=10.05(小数点以下3位を四捨五入)の支給率。よって、26万円×10.05%=26,130円となり、給付金は減額になる。上の式は公式みたいなものです。

で、62歳の妻がいる(現在はパートで厚生年金には加入してない)。妻の年金は過去10年分の第2号老齢厚生年金受給中(国家公務員共済組合から支給)。

さて、夫の現在の在職老齢年金を計算してみます。老齢厚生年金額は月額に直すと87,500円、給与(実際は標準報酬月額)は22万円、直近1年間の賞与総額60万円を月換算すると5万円。

※注意

この人の給与215,000円だと標準報酬月額は22万円となる。下の表に215,000円を当てはめると22万円が標準報酬月額となる。

標準報酬月額表(日本年金機構)

年金停止額を算出。

年金月額87,500円。月給与(標準報酬月額)22万円と直近1年間に貰った賞与総額を月換算した5万円の総額(総報酬月額相当額という)は27万円。

{(総報酬月額相当額27万円+年金月額87,500円)-支給停止開始額28万円}÷2=38,750円(月停止額)。

支給停止開始額というのは物価や賃金変動で毎年度変わりますが、今年度は前年度と変わらず。よって現在の老齢厚生年金月額は87,500円-38,750円=48,750円。しかし、厚生年金に加入しながら雇用保険から高年齢雇用継続給付金が支給されているので更に年金がカットされる。高年齢雇用継続給付金による年金停止額は標準報酬月額22万円×6%=13,200円の年金停止額。

高年齢雇用継続給付金を支給する時は実際の給与215,000円を使いましたが、停止額を算出する際は標準報酬月額22万円を使う。年金で言う給与が標準報酬月額と考えてもらえばいいですね。だからさっきの48,750円-13,200円=35,550円が実際の支給年金額。よって現在の月収入は給与215,000円+高年齢雇用継続給付金32,250円+(老齢厚生年金87,500円-在職による年金停止38,750円-高年齢雇用継続給付金による年金停止13,200円)=282,800円が実際の月収入。あ、年2回の賞与合計60万円も。

※参考

もし、60歳到達時賃金40万円から例えば28万円に標準報酬月額が下がったら40万円に対して低下率は70%になる。停止額の率を算出→{(-183×70+13,725円)÷280×100÷70}×6÷15=1.87。6÷15というのは支給する高年齢雇用継続給付金の約40%(6÷15)を停止する意味を持つ。つまり、28万円×1.87%=5,236円が年金からカット。

さて、老齢厚生年金が停止されている最中ですが、この男性は来月から65歳になります。65歳になるとこの男性は賞与が無くなりますが年金停止も緩くなります

まず、この男性は60歳から65歳になるまで標準報酬月額22万円で5年間の合計賞与300万円で働いてきたのでこの5年間の報酬平均値を27万円とします(22万円×60ヶ月+300万円=1,620万円を60ヶ月で割った)。年金額を65歳時点で再計算して65歳到達月の翌月分から再計算した年金を支給します。

ザックリですが、65歳以降は報酬比例の年金額は27万円÷1000×5.481×60ヶ月=88,792円増額。経過的加算→1,625円×60ヶ月=97,500円の増額。

経過的加算(日本年金機構)

更に、厚生年金期間が20年以上有り65歳時点で65歳未満の生計維持している配偶者がいるから配偶者加給年金389,800円が加算される。つまり、65歳到達月の翌月の老齢厚生年金(報酬比例部分の年金105万円+88,792円+経過的加算97,500円)=1,236,292円(月額103,024円)に増額。

また老齢基礎年金68万円の支給が始まる。よって65歳到達月の翌月からは老齢厚生年金1,236,292(経過的加算97,500円含む)+配偶者加給年金389,800円+老齢基礎年金68万円=2,306,092円(月額192,174円)。

しかし、70歳まで給与215,000円(標準報酬月額22万円)で働く。なお、来月12月から賞与30万円は無しになるから直近1年間に貰った賞与は平成29年7月の30万円で最後になる(月換算25,000円)。平成30年7月になるとこの25,000円も外れる。

年金停止額はどうなるか。まず、停止額を用いる場合は老齢厚生年金の経過的加算97,500円を除いた1,138,792円(月額94,899円)を使う。配偶者加給年金や老齢基礎年金は含まない

支給停止調整額というのは物価や賃金変動で毎年度変わる。前年度は47万円だったが今年度は46万に下がって停止基準が厳しくなった。つまり、総報酬月額相当額と年金月額合わせた額が46万円以下だから年金停止額は無し。よって、65歳到達月の翌月(平成30年1月分)以降の月収入は給与215,000円+年金月額192,174円=407,174円となる(税金を考慮してないのでご注意下さい)。雇用保険からの高年齢雇用継続給付金は65歳到達月分までの支給で終わる。

また、配偶者加給年金は妻が65歳になると消滅して、代わりに振替加算が妻の老齢基礎年金に付く(振替加算は配偶者の生年月日が昭和41年4月1日以前に限る)。

加給年金と振替加算額(日本年金機構)

※追記

70歳まで厚生年金に加入できるので、70歳時にまた65歳から働いた分が老齢厚生年金に加算される。なお、70歳になる前に辞めたら退職日の翌月から年金額が再計算される(退職時改定)。今回は65歳以降は年金停止は無かったですが、報酬比例部分の年金(105万円+88,792円の所)が全額停止するような場合は配偶者加給年金も全額停止になる。

image by: Shutterstock.com

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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