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トヨタもやっている「自社株買い」が株価上昇に繋がるカラクリ

今月7日、トヨタ自動車は普通株式4500万株(発行済み株式の1.5%取得金額、2500億円上限)の「自社株買い」を実施すると発表しました。その理由のひとつに「株主還元」とありますが、「配当」と違ってわかりにくいという方も多いのではないでしょうか? 今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者で株式投資にも詳しい米在住の世界的プログラマー・中島聡さんが、多くの人が今さら聞けない「自社株買い」のメリット・デメリットについてわかりやすく解説しています。

トヨタが自社株を買う理由

今週は、こんな質問が来ていました。

日経新聞に「トヨタ、自社株買い2500億円と上場廃止申請を発表 」という記事が載っていましたが、企業が自社株を買うのは、どんな理由があるのでしょうか? 記事には「実質的な株主還元」と「資本効率向上」と書いてありますが、良く分かりません。

企業の「自社株買い」は、利益の株主還元として米国では良く使われる手法ですが、同じく株主還元の手法である「配当」と違って、直感的に分かりにくいのは事実です。

人が企業の株を所有する場合、基本的には、「配当」もしくは「株価の上昇」という形でのリターンを期待してのことです。会社があげた利益の何パーセントかを株主に現金として渡す「配当」は、直接的で分かりやすいのですが、配当は受け取ったその年に株主に税金がかかるという欠点があります。

それと比べると、「株価の上昇は株の売却時まで税金の支払いを延期できるという特徴があり、(配当よりも)そちらを好む投資家もいます。「自社株買い」は、そんな「配当よりも株価の上昇を好む」投資家たちのための手法なのです。

なぜ「自社株買い」が「株価の上昇」に繋がるかを考える場合、もっとも分かりやすいのは「自社株買い一株あたりの利益を増やすことになり、それが株価の上昇に繋がる」という説明です。

例えば、毎年100億円の利益をあげる力のある企業の発行株数が1000万株で、この会社の株の市場価格が2万円(一株あたりの利益の20倍)だったとします。

すると、一株あたりの利益は(100億円を1000万株で割って)1000円になります。仮に利益を100%配当に回すのであれば(通常は、運転資金の確保のためにそんなことはしません)、一株あたりの配当は1000円になります。配当なので、株主は翌年の確定申告で、この配当を収入として税務署に報告し、税金を払う必要があります。

逆に、会社がこの利益全て(100億円)を使って自社株買いをするとどうなるでしょうか。50万株が自社株買いにより消滅するため、市場に流通している株の数は950万株に減ることになります。

すると一株あたりの利益は分母が小さくなっただけ増え、(1000円から)1053円に増えることになります。市場価格が、自社株購入前の「一株あたりの利益の20倍」に落ち着くのであれば、株価も同じく上昇して、21060円になって然るべきで、この上昇分1060円が、株主に対する還元となります。配当と違って、株価が上昇しただけなので、税金の支払いは必要ありません株を売却した時に税金を支払えば良いのです)。

これだけ書くと、「自社株買いの方が圧倒的に良い」ように思えるかも知れませんが、実際はそれほど単純ではありません。株価は、市場の心理で動くので、「一株あたりの利益が増えたからといって、それと同じだけ株価が上昇する保証はありません。会社が持つ現金が減ったことを不安材料として、株価が下がる可能性すらあります(これは配当の場合も同じです)。

image by: aradaphotography / Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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