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タイムカードの不正打刻で懲戒解雇。会社を訴えたら勝てるのか?

「タイムカード、ついでに押しておいて」と同僚や部下に頼んだこと、ないでしょうか。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』で取り上げているのは、そんなタイムカードの「不正打刻」で懲戒解雇となった社員が会社を訴えた裁判。「不正を働いたのだから処分は当たり前」と思いがちですが、どうも一筋縄ではいかないようです。

タイムカードの不正打刻は懲戒事由になるのか

私が以前にいたある会社のある店舗で、出退勤の「不正打刻」が問題になったことがありました。その会社では、出退勤をパソコンのシステムで管理していました。そこで、ある店舗の店長が自分は出勤していないにも関わらず別のスタッフに自分の社員番号をシステムに入力させ、さも出勤しているかのようにみせていたのです。

その手口が実に巧妙でした。その店舗を担当しているマネージャーは、担当エリアの店舗がそれぞれ離れているため当日のシフト表と電話で、各店舗を管理していました(各店舗を定期的に回ってはいましたが)。そこで、その店長はシフト表の自分の欄に架空のシフトをいれ、マネージャーから電話がかかってきたら「店長は今接客中ですと言わせていたのです。それをたまたま別の目的で抜き打ちで店舗に行った本社の社員がみつけ、「あれ? 店長のシフト入っているけど店長は出勤していないの?」となり、大問題になりました。

会社が一カ所にまとまっていればこのような問題はおきづらいと思いますが、いくつかに分かれていたりするとこのようなことはどうしても起こる危険性が出てきてしまいます。みなさんの会社はいかがでしょうか。

では、このような不正打刻が行われた場合、会社は懲戒処分を行うことができるのでしょうか。それについて裁判があります。ある製造業の会社で出勤していない社員のタイムカードに打刻をしたとして、その打刻した社員と打刻してもらった社員が懲戒解雇になりました。その処分に納得がいかないとしてその社員たちが裁判をおこしたのです。ではその結果はどうなったか?

会社が勝ちました。その懲戒解雇は「有効」とされたのです。「不正をしたのだからそんなの当り前では」と考える人も多いかも知れませんがそこで注意が必要です。

実は、同じような「タイムカードへの不正打刻」でも会社が負けている裁判も結構あるからです(中には会社が1,300万円も支払いをしている例もあります)。

では、その違いは何か? ポイントは2点あります。まず1点目が「悪意を持って不正打刻をしているか」です。打刻した退勤の時間が遅ければその分、残業代も多くなります。それを意図して打刻しているのであれば、残業代を不正受給」していることになります。また、出勤していないにも関わらず出勤しているように打刻すれば、給与を不正受給」していることになります。これらは「(不正受給をしようと)悪意を持って」打刻しているため、当然ながら「懲戒事由」になりえます(解雇まで認められるかはその頻度や期間にもよりますが)。

ただ、逆にこれらの意図が無い場合は認められない可能性もあります。実際にある裁判でも「不正打刻の事実はあったものの、まとめて勤怠記録を出したため過去の分の記憶があいまいで虚偽の記録を出してしまった」という例では解雇は無効とされています。また、ある病院で行われた不正打刻についても、その社員が若く社会人経験があまりなかったため「会社にもある程度の寛容さが期待される」として、懲戒解雇は無効とされました。

では、不正打刻が懲戒事由として認められる2つ目のポイントは何か。それは、「不正打刻は懲戒処分にするということを社員に周知徹底していることです。冒頭の裁判例でも「不正打刻をした場合は解雇する」と、社内で周知を徹底していたことが会社側に有利に判断された要因になっています。これは実務上も非常に注意すべき点でしょう。

それほどの悪意はなくても「ついでに(タイムカードを)押しておいて」と社員同士で頼んだり頼まれたりというのはよくある話です。こういったことが段々とエスカレートして不正打刻につながってしまうのです。

「タイムカードは必ず各自が打刻すること」
「不正打刻は懲戒処分とする」

これらを社内で徹底するようにしましょう。

※ ただし、繰り返しになりますが不正打刻だけで解雇まで認められるかはその頻度と期間等にもよります。実際に解雇を行われる際は専門家にご相談ください

image by: Shutterstock.com

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【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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