工事現場などでの「安全配慮」というのは比較的イメージしやすいものですが、デスクワークや接客業での安全配慮となると、イマイチよくわかりません。しかし、法律で雇用主には「安全配慮義務」が課せられています。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』では、厚労相が明示している「快適職場指針」を取り上げながら、具体的に何をすれば義務を果たしたことになるのかを考察しています。
安全配慮義務
安全配慮義務とは、「使用者は、労働者が安全に職務に従事できるよう配慮すべき義務」のことです。これは、自衛隊員の職務上の事故に関して国に安全配慮義務違反による損害賠償責任があるかどうかが争われた、「自衛隊八戸車両整備工場損害賠償事件」の最高裁判例(1975年2月25日判決 民事判例集29巻2号143頁)によって形成された法理に基づく考え方です。その後、平成20年3月に施行した労働契約法により法律でも明文化されています。
●労働契約法第5条
使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする
労働契約法では、安全配慮義務の内容を具体的に規定していません。使用者が義務を履行するためには、原則事故が起こるかもしれないと想定できるものすべてに対応することが求められます(すべてってどの程度???)。使用者がこの義務を怠り、労働者に損害が発生した場合、使用者は労働者に対して損害賠償責任を負うことになります。
新米 「安全配慮義務とは、『使用者は、労働者が安全に職務に従事できるよう配慮すべき義務』っていうことはわかりました。でも、もうちょっと具体的に教えてもらえませんか?」
所長 「そうだなぁ…。じゃぁ、裁判例を通じ、安全配慮義務の内容として指摘されている主なものをあげてみようか」
新米 「はい、お願いします」
所長 「まず、作業環境整備義務だね。労働者に対して、健康上の問題が生じないように作業環境を整備し、必要に応じて保護具などを使用させる義務があるんだ」
大塚 「労働安全衛生法(安衛法)では、快適職場づくりが事業者の努力義務になっているんですよね?(第71条の2)」
所長 「そうだね。『事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針』って言う指針があって、『快適職場指針』が厚生労働大臣から公表されているんだ」
大塚 「快適職場指針ですね。ちょっと待ってください。え~っと、これは、『仕事による疲労やストレスを感じることの少ない、働きやすい職場づくり』という意味で、『作業環境の管理』、『作業方法の改善』、『労働者の心身の疲労の回復を図るための施設・設備の設置・整備』、『その他の施設・設備の維持管理』の4つの視点から措置を講じることが望ましいと書いてあります」
所長 「いつもみんなへの解説ありがとう」
E子 「平成4年労働省告示第59号の『快適職場指針』。その4つの視点からの措置の詳細が、ここに書かれていますよ」
所長 「あ、読んでみて」
E子 「はい、一つめ、作業環境の管理では、不快と感じることがないよう、空気の汚れ、臭気、温度等の作業環境を適切に維持管理すること。二つめ、作業方法の改善は、心身の負担を軽減するため、相当の筋力を必要とする作業等について、作業方法を改善すること」
深田GL「ふんふん」
E子 「三つめは、疲労回復支援施設ですね。疲労やストレスを効果的に癒すことのできる休憩室等を設置・整備すること」
深田GL「小さな会社で、休憩室の設置までは難しいなぁ」
大塚 「従業員さん全員が、座る場所もないくらい狭い職場のお客様もありますものね」
E子 「そうね。四つ目は、職場生活支援施設、洗面所、トイレ等職場生活で必要となる施設等を清潔で使いやすい状態にしておくことです」
新米 「そっかー、それも大切ですよね」
大塚 「続いて、快適な職場環境づくりを進めるに当たって考慮すべき事項も書かれています」
新米 「どんなことですか?」
大塚 「一つ目、継続的かつ計画的な取り組み、二つめ、労働者の意見の反映、三つめ、個人差への配慮四つ目は潤いへの配慮の4点となっていますね」
所長 「ん、ありがとう。さて、裁判例を通じた安全配慮義務の内容として指摘されている主なもの、大項目に戻ろうか」
深田GL「二つ目は、衛生教育実施義務。安衛法59条では、労働者を雇入れたときや作業内容を変更したときは安全衛生教育をしなければいけないんだよ」
大塚 「安全教育の内容は、
- 機械・原材料等の危険・有害な物の取扱方法
- 安全措置・有害物質抑制装置・保護具の性能や取扱方法
- 作業手順
- 作業開始時の点検
- 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因・予防
- 整理・整頓・清潔保持に関すること
- 事故時の応急措置・退避に関すること
- その他当該業務に関する安全・衛生に必要な事項
です(労働安全衛生規則35条1項)」
E子 「三つめの適正労働条件措置義務っていうのは、わかりやすいわね。過労死なんて言葉もあるくらいで、労働者が過重な労働が原因となって健康を破壊することがないように、労働時間、休憩時間、休日、労働密度、休憩場所、人員配置など、労働環境等適切な労働条件を確保することが重要ですね」
大塚 「健康管理義務は、健康診断の実施など、労働者の健康状態を把握・管理する義務ですよね。必要に応じメンタルヘルス対策を講じたり、労働者の精神的健康状態を把握したりして、精神障害も早期に発見していくということになりますね」
深田GL「最後の適正労働配置義務は、労働者の個別的な事情に応じ、労働量を軽減したり、就労場所を変更したりするなどの適正な措置を行う義務だ。精神障害に罹患しているか、その可能性があるなら、勤務軽減、作業の転換、就業場所の変更等労働者の健康保持のための適切な措置を講じ、労働者の精神障害等に悪影響を及ぼす可能性のある労働はさせないっていう義務も発生するね」
新米 「こういう風に分解すると安全配慮義務で気をつけないといけないことがわかってきますね」
所長 「そうだね。あとは、社外リソースのこともおさえておこうか」
E子 「自社内だけで対応できないことも多いですもんね」
所長 「お馴染みは、やっぱり地域産業保健センターだね」
深田GL「産業保健総合支援センターの地域窓口ですね」
所長 「長時間労働者への医師による面接指導は有名だね」
E子 「労働者50名未満の小規模事業者とその労働者を対象に保健指導などの産業保健サービスを無料提供してますものね。産業医を持たない規模の会社はどんどん使ってほしいですよね」
所長 「ここでは、他にも健康相談窓口の設置、個別訪問による産業保健指導の実施、産業保健情報の提供をしているよ。うちも昔、照度や騒音を測る機械を借りたことがあったよ」
E子 「東京地方では、所長が受講されている健康経営アドバイザーを商工会議所が派遣しているそうですね」
所長 「関東ではその仕組みが始まっているね。あと、忘れてならないのは、協会けんぽや健康保険組合だね。健診や健康指導についての情報提供や各地域で職場の健康づくりを後押しする取組みもある。各地の協会けんぽでも、健康宣言をして支援をしていってるね」
新米 「そうなんですかぁ。いろいろ調べてみよっと」
安全配慮義務 裁判例から指摘されている主なもの(レジュメから)
- 作業環境整備義務
労働者に対して、健康上の問題が生じないように作業環境を整備し、必要に応じて保護具などを使用させる義務- 衛生教育実施義務衛生教育を実施する義務
- 適正労働条件措置義務すべての労働者に対して、労働時間、休憩時間、休日等について適正な労働条件を確保する義務
- 健康管理義務すべての労働者に対して、健康診断を実施するなど、労働者の健康状態を把握・管理する義務
- 適正労働配置義務労働者の個別的な事情に応じ、労働量を軽減したり、就労場所を変更するなどの適正な措置を行う義務
<参考>「健康宣言」による企業の健康戦略 健康経営宣言企業 大和総研
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