「エルサレム首都認定」への反応でわかったアラブ諸国の本当の敵

 

また、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は11月にパレスチナ自治政府のマフムード・アッバース大統領をリヤドへ招き、イスラエルに有利な中東和平案を示したと、12月3日以後、ニューヨークタイムズなどが報道している。

この和平案は、パレスチナ国の領土をヨルダン川西岸地区の複数の飛地とガザ地区に限ったうえで主権を制限し、西岸地区のイスラエル人入植地のほとんどはイスラエルが併合し、東エルサレムはパレスチナ国の首都として与えられず、パレスチナ難民とその子孫にはイスラエル国内への帰還権を認めないという、イスラエルの言い値に近いものだ。米国の歴代政権も、これほどイスラエル寄りの提案をしたことはない。

パレスチナ国が西岸地区の一部を失うことへの補償として、サルマン皇太子は、ガザ地区に隣接するエジプト領土(シナイ半島北部の岩石砂漠)を提案した。

実は、ガザ地区をシナイ半島へ拡大し、パレスチナ国の主な領域とすることは、イスラエル右派が、西岸地区の入植地と東エルサレムの併合を、アラブ諸国に容認させるための手段として、1990年代末から主張してきた。トランプ大統領の娘婿のクシュナー上級顧問の社会環境ではこのような構想が当然視されている。

その一方で、クシュナー氏は同年代のムハンマド皇太子と親しく、10月下旬にも米政府のジェイソン・グリーンブラット中東特使(元トランプ・オーガナイゼーション弁護士)とともにサウジアラビアを訪れ、ムハンマド皇太子と会談している。その機会にサウジ側が警告していれば、トランプ大統領が東西エルサレムの区別もしないで、イスラエルの首都として承認したとは考えにくい。

これは、少なくないアラブ諸国にとって中東紛争とはまず自国とイランやムスリム同胞団との争いであることを如実に物語っている。日本から眺めているように、中東紛争=パレスチナ問題という認識はそこには存在しないのだ。(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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