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中国が5年で「EV先進国」に。中島聡が予測する自動車業界の未来

以前掲載の「トヨタに未来はあるのか? EV車への完全シフトに出遅れたウラ事情」という記事で、トヨタがEV車に本格参入しない理由を問われ「水素自動車を捨てられないから」との見方を示した、メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さん。今回は、欧米諸国のハイブリット車排除の動きで、トヨタの思い描く夢がどう変わっていくのかを考察しています。

自動車業界の近未来

年末なので、来年度の予想でも書こうと思ったのですが、1年以内に起こることを予想することはかなり難しいので、これから3~5年ぐらいで起こるだろうと考えていることを書いてみます。とは言え、IT業界全ての話をしても発散するだけなので、まずは自動車業界に絞って描いてみます。

まずは電気自動車に向けた「EVシフト」ですが、この勢いはもはや止められず、これまで水素自動車に力を入れていたトヨタやホンダも電気自動車に力を入れざるを得なくなると思います。

ヨーロッパ各国がEVシフトに乗り気なのは、地球温暖化対策もありますが、適切な進化圧を自国の自動車産業に与えて育てようという意図もあり、それなりに成功すると思います。

米国は、トランプ政権のために国としての地球温暖化対策が大きく後退しましたが、カリフォルニア州などが州単位でEVシフトを推し進め、それが良い意味での進化圧を日米の自動車メーカーに与えると思います。

とは言え、ここから3~5年の間に最も大きな変化をするのは中国で、あっという間に各国を追い抜いて「EV先進国」になってしまう可能性が大きいと私は見ています。結果として、既存の自動車メーカーにとって、EV市場での最大のライバルは、テスラではなく、中国メーカーになると思います。

テスラは、Model 3の大量生産の課題さえ乗り超えることが出来れば(資金がショートさえしなければ)、しばらくの間(中国メーカーが台頭してくるまでの間)は、世界のEV市場のリーダーであり続けることができると思います。3~5年以内には、Model Y(小型 SUV)やテスラPickup(小型トラック)も発表されているだろうし、話題には事欠かない企業で居続けると思います。

EVシフトの一番の課題は、リチウムイオン電池に必要なリチウムやコバルトなどのレアメタルで、これが価格低下の足を引っ張る可能性は大きいと思います。その意味で、リチウムイオン電池に変わる蓄電池の開発が急務ですが、3~5年以内に商用レベルで実用化というのは難しいと思います。レアメタルの争奪戦が国同士の戦争にまで発展しないことを願います

自動運転に関しては、3~5年以内に多くの自動車メーカーが自称レベル4(完全自動運転)の自動車をリリースすると思いますが、実際は、ほとんどが今のテスラと同じレベル3(運転手の総合的アシスタント)を少し改良したレベルにとどまると思います。業界でもっとも進んでいると言われるテスラの自動運転を毎日のように試していますが、「安心して運転を任せられるレベルに到達するのはかなり先だと感じています(ソフトウェア・エンジニアとしての直感です)。

法整備の方は、徐々に整い、一部の都市で限定した場所での完全自動運転車の運行が合法化されると思います。その時に、いきなりUberのようなグローバル企業がそこでロボットタクシービジネスを運営させてもらえるのか、それとも、まずは地元の事業者が地方自治体と組んでビジネスを立ち上げ、そういった企業が後にUberなどに買収される形で統合されるのかは場所によって様々だと思います。

自動運転による長距離トラックの無人化は、技術的には十分に可能なレベルにはなっているとは思いますが、3~5年以内にそれが法的・社会的に認められるとは思いません。私は、第二東名が出来た時から、政府が「第二東名は2020年からは自動運転車しか走れないようにする」と宣言するだけで十分な新加圧が自動車業界にかかると主張してきましたが、今からでも間に合うと思います。

いずれにせよ、自動運転によりタクシーバストラックの運転手の職が奪われるということは確実で、単に時間の問題だと思います。さすがに3~5年という時間軸では大した変化は起こらないと思いますが、10年~20年という時間軸では、失業率などに大きな影響を与えると思います(米国では、労働者の15~17%が「自動車の運転」を主たる業務としているそうです)。

それよりも、自動運転の時代になると、都市のインフラが大きく変わらなければならないので、その歪みがここから3~5年以内に明らかになり、先進的な地方自治体は、そんな時代に備えた法律を作り始めるだろうと思います。米国の多くの都市では、オフィスビルを建てる際には駐車場を設置することが義務付けられていますが、その法律が時代遅れになろうとしているのです。

自動運転向けのコンピュータに関しては、現在はNvidiaが圧倒的に強い立場に立って居ますが、所詮はグラフィックス処理用のプロセッサの流用なので、より機械学習に特化した、消費電力の小さい専用チップを作る会社が3~5年以内に立場をひっくり返している可能性は十分にあると思います。ただし、Nvidiaと対抗するにはツールとソフトウェアがとても重要なので、ベンチャー企業のままで戦うのではなく、(Intelに買収されたMobileyeのように)より大きな企業に買収された上で、Nvidiaと戦う必要があると思います。

世界中を走る自動車が目となって世界の3Dマップを作るという活動も3~5年以内に盛んになると思いますが、テスラのように独自路線を走るところと、(ドイツの自動車会社が資本を提供している)Hereのように複数の自動車会社にサービスとして提供するところがどう住み分けをするのかは、注目に値します。結局、ここは自動運転技術と切っても切れない話なので、テスラは独自路線を進めるでしょうし、日本の自動車メーカーもトヨタあたりが音頭をとってHereに対抗する3D地図会社を作るというのが理にかなっているように思えます。

コネクティビティ・アプリケーション(インターネットラジオやカーナビ)に関しては、Apple Car PlayやSDL(Smart Device Link)のようなスマートフォン中心のアプローチを採用するメーカーと、テスラやGMのように車載機を直接ネットと繋いで、車載機上で走る専用アプリでドライバー向けのサービスを直接提供するメーカーの二系統に分かれると思います。ここに関しては、私の会社(Xevo)が両陣営の会社とビジネスをしているので、どちらが良いとか、どちらが勝つだろうなどのコメントは控えさせていただきます。

image by: testing / Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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