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中国への負けは認めたくない。安倍官邸が原発輸出を諦めない理由

誰もが予想していなかった福島第一原発の事故から約7年。この間、小泉・細川両元総理らが「原発ゼロ法案」を提案するなど一部に脱原発の動きは見られるものの、原子力規制委員会が柏崎原発に再稼働のお墨付きを与える等、未曾有の惨事に直面した日本は、震災前と何ら変わらぬ原発政策を推し進めようとしています。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、このたび大きく報道された「日本政府による日立製作所の英国原発建設への支援」について検証、なぜ政府がそこまでして原発政策にカネと力を注ぐのかを読み解きます。

日本政府の保証までつけ英国原発建設にオールジャパンで取り組む理由

米国における東芝の失敗例でもわかるように、安全対策のコストがかさむ原発の建設は採算の合わない事業になっている。

にもかかわらず、日立が英国の原発新設プロジェクトを進めようとしているのは、日本政府の強い意向があるからだ。

日立にとっては初の原発輸出。不安の方が大きい。現に、昨年12月18日、東原敏昭社長は報道各社のインタビューに、こう答えている。

企業だから、採算がとれないものはできない。政府の支援をいただきながら、採算性がきちんととれる形で、投資家をどんどん募れる環境づくりをやっていくことが重要。

つまり、同社としては政府の支援がない限りやる気はないということを表明したわけである。

これに対する答えとでもいうべき記事が今年1月3日の毎日新聞に掲載された。

日立製作所が英国で進める原発新設プロジェクトに対し、3メガバンクと国際協力銀行(JBIC)を含む銀行団が、総額1.5兆円規模の融資を行う方針を固めた。事故などによる貸し倒れに備え、日本政府がメガバンクの融資の全額を債務保証する。政府系の日本政策投資銀行は出資による支援を行うほか、中部電力など電力各社も出資を検討する。総額3兆円規模に上る原発輸出を、政府主導の「オールジャパン体制」で後押しする。

政府が保証しオールジャパンで3兆円もの融資、出資をしてまで、原発を輸出する。しかも相手はGDP世界5位の先進国である。そもそも売る側がなぜ買う資金を用立てるのか。

輸出先が新興国なら、そういうスキームもありうるだろう。

ベトナムへの原発輸出がいったん決まったさいの条件は、「原子炉建設、運転・保守、燃料確保」を日本が引き受けることに加え「低利融資」をセットにして、丸抱えする仕組みだった。

それでもベトナムはこの甘い話に最終的には乗らなかった。原発建設費用は当初見積もられていた1兆円から2.8兆円以上に上昇、発電単価が当初の約4.9セント/kWhから8セント/kWhにまではね上がっていた。

2016年11月22日、ベトナム議会は約9割の賛成で原発計画中止を決定した。理由として挙がったのは

―などだった。

ベトナムは賢明な選択をしたといえよう。輸出元の日本でさえ、核廃棄物の処分方法に困り果て、使用済み燃料の再処理、核燃サイクルという欺瞞的な解決方法を掲げて原発の温存をはかっているのが実情だ。

経産省が幅を利かす安倍官邸。ベトナムの衝撃は大きかった。ほかにも、トルコで三菱重工業、リトアニアで日立が建設を受注しているが、住民の反対で計画が行き詰っているのだ。英国への原発輸出には、このような状況への焦りがにじむ。

だが、われわれ国民から見ると、かりに東芝のように巨額の損失を出した場合、政府が補償し血税が使われるというのは、どうしても納得がいかない。

そこまでして原発輸出にこだわる理由をじっくり考えてみたい。

第一は当然のことながら、原発産業の救済である。福島原発事故の後、日本国内で原発を新設するのはほとんど不可能な状況だ。三菱重工、日立、東芝など原子炉メーカへの需要をつくるには海外進出しかないという事情がある。

次に、中国が原発輸出を積極的に進めようとしていることへの危機感だ。

イギリス南西部のヒンクリーポイントで計画されている原発事業は、事業主体こそフランス電力公社だが、総事業費の3分の1を中国企業が出資することになっている。

ただし、すんなりと決まったわけではない。英国としては中国原発への不信感や、安全保障上の問題を考えざるをえない。キャメロン政権下の2015年秋に習近平国家主席が訪英したさい、中国企業が加わることになったのだが、翌2016年7月に就任したメイ首相は最終契約直前になっていったん白紙に戻してしまった。

案の定、中国側は「中英関係は重大な歴史的岐路にある」と猛反発。EU離脱を控えアジアの大国との関係悪化を避けるため、メイ首相は同年9月、中国が参加するヒンクリーポイント原発の建設計画に渋々サインしたという経緯がある。

ついでながら、なぜ英国は他国に原発建設を依頼しなければならないのかについて、触れておこう。

英国では1995年に運転を開始したサイズウエルB原発を最後に原発の新設がストップした。電力自由化により、電力会社の経営が不安定になったため、原発建設という巨額投資ができなくなったのだ。そのため原発メーカーの仕事がなくなり、しだいに技術者がいなくなっていった

日本の経産省からすると、英国の二の舞にならないよう、外国に売ってでも技術を維持したいということになるのだろう。

一方、中国は福島第一原発の事故をきっかけに世界の原発建設が中断するなかで、いち早く工事を再開し、目下すでに13基の原発が稼働、29基もの原発を建設中であり、今後10年で60基を建設する計画を明らかにしている。

こうした中国の動きに日本政府が苛立っているのは間違いない。そもそも隣の大陸にどんどん原発をつくられるのは安全面で不安だが、政府は中国の覇権主義的な海外進出が原子力分野でも進むのではないかと警戒感を募らせる。

安倍政権の「富国強兵」的な政策からすると、原発からの撤退は、中国との競争における敗北ということになるのだろう。これが、再生エネルギー重視への政策転換を妨げる足かせになっている。

そして、もうひとつ検証しておかねばならないのは、核兵器と原発の関係だ。日本が原発に執着するのは核兵器製造の道を残しておきたいからという説がある。しかし、商用発電の原子炉は軽水炉であり、その使用済み核燃料に含まれるプルトニウムは核兵器に適さないという理由で、それを否定する見解もある。

これら両論を整理しておきたい。まず否定論だが、なぜ軽水炉の使用済み燃料ではだめだというのか。ちょっとだけ詳しく説明しておこう。

低濃縮ウランからなる核燃料を原子炉で「燃焼」させると、ウラン238が中性子を吸収することでプルトニウムが生成される。再処理はそのプルトニウムを抽出する処理である。ただその再処理で抽出されたプルトニウムは、核兵器に使用されるプルトニウム239の割合が60%ていどで、あとの40%ほどはプルトニウム240だ。

プルトニウム240が7%以上含まれると、不完全核爆発(過早爆発)を起こしやすいため、そのまま核兵器には使えない。7%以下にするためには、分離精製する必要があるが、それはコスト面技術面からみて無理であり、事実上、原発の使用済み核燃料から核兵器をつくることはできない。

軽水炉でなく、減速材に黒鉛(炭素)を用いる黒鉛炉なら、プルトニウム239の
純度を十分高くできる。実際、北朝鮮も黒鉛炉でプルトニウムを生産している。日本の原子炉は全て軽水炉だ。

否定論者の言い分は、だいたい以上のようなものであろう。

それでも核武装への疑惑が消えないのは、歴代政権の政治姿勢に原因がある。岸信介氏が首相だった時代から「憲法は核兵器の保有、使用を禁止しているわけではない」という解釈をとり続けてきた。核兵器開発の道を閉ざさないようにしておくという国家の意思が明白である。

手間やコストがかかっていいのなら、日本の技術をもってすれば、使用済み核燃料を精製してプルトニウム239の割合を93%以上に高めることは、不可能ではないのかもしれない。

加えて、高速増殖炉「もんじゅ」がつくり出す高純度のプルトニウム239は核兵器に転用できるという見方もある。もんじゅの廃炉が決まっているとはいえ、政府は高速炉の研究開発を継続する方針を崩していない。

こうした姿勢からは、「核燃サイクル」という理屈で原発を温存しつつ、プルトニウム利用技術の開発を進め、核の軍事転用にいつでも対応できるようにしておこうという思惑も見てとれる。

本稿では、英国への原発輸出からはじまり、中国との競争、核兵器の問題まで話を広げてしまった。すべては、唯一の被爆国であり未曽有の原発事故を起こした国にもかかわらず、なぜ原発にこだわり続けるのかという疑問から出発している。

地球の恵みを奪い合う国家エゴ、民族対立がエスカレートし、大きな戦争を予感させる不穏な空気が世界に広がっている。他に勝って利益を得たいという欲望と、その背中合わせの恐怖が、いったんバランスを崩したら、下手をすると核戦争にもつながりかねない。

原子力の平和利用というのはもはや過去のお題目に過ぎない。原子力の暴走と核爆弾の被害を経験した日本がそんな言葉を使うのは欺瞞的である。「脱原発の先進国モデルをつくって地球人類に貢献するのがこの国の進むべき道ではないか。

image by: 首相官邸

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