MAG2 NEWS MENU

冷静なるプーチン「金正恩はゲームに勝った」という発言の真意

北朝鮮の金正恩氏が新年の辞で「アメリカ本土を今すぐにでも核攻撃できるICBMが完成し、実戦配備した」と明言したことが注目されましたが、マティス米国防長官「まだ無理だろう」との見解を示しました。しかし、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際政治に詳しい北野幸伯さんによると、ロシアのプーチン大統領は金正恩氏の発言を「事実」と認識しているようです。このまま第2次朝鮮戦争は始まってしまうのでしょうか。

プーチン、「金正恩は、(アメリカとの)ゲームに勝った!」

プーチンが金正恩について非常に興味深い発言をしています。

「正恩氏、賢明で成熟した政治家」…プーチン氏

読売新聞 1/12(金)18:49配信

 

【モスクワ=畑武尊】ロシアのプーチン大統領は11日、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長について「間違いなく賢明で成熟した政治家だ」と述べ、核・ミサイル開発を進める北朝鮮に国際社会が圧力を強める中で、正恩氏を擁護した。モスクワでの露メディア幹部らとの会合で語った。

間違いなく賢明で成熟した政治家」だそうです。「プーチンさんから見ると、ああいう(金正恩)のが賢明で成熟した政治家なのか…」と、かなりびっくりですが…。どういう意味なのでしょうか?

プーチン氏は「金氏はゲームに勝った。核爆弾と仮想敵国のどんな所にも到達するミサイルを持っている」と指摘。約2年ぶりに南北対話が再開したことを念頭に「(金氏は)いまは状況を落ち着かせることに関心がある」と述べ、核保有を背景に巧みな駆け引きをしているとの認識を示した。
(同上)

金氏はゲームに勝った。核爆弾と仮想敵国のどんな所にも到達するミサイルを持っている」そうです。

「金氏はゲームに勝った」。これは、もちろん「アメリカに勝った」という意味。「核爆弾と仮想敵国のどんな所にも到達するミサイルを持っている」。北は「核爆弾と仮想敵国(=つまりアメリカ)に到達するミサイルを持っている」。要するに、「北はアメリカ本土に到達するミサイルを保有しているので、アメリカは戦争を始められないだろう」と言っている。このあたり、プーチンとアメリカ国防総省の認識にズレがあるようです。

南北対話が再開したことを念頭に「(金氏は)いまは状況を落ち着かせることに関心がある」と述べ、核保有を背景に巧みな駆け引きをしている

これは何でしょうか? 金正恩は、すごい勢いで核開発、ミサイル開発を進めてきました。実験もどんどんやる。すると、アメリカサイドから警告されたり、脅迫されたりします。金正恩は、「やれるものならやってみろ! 韓国の民を100万人殺してやる!」と、ソウル市民を「人質」として利用していた。当然アメリカは戦争を躊躇します。金は、さらに核、ミサイル開発を進めていく。そして、ついにアメリカ本土に届く核兵器搭載可能なICBMを手に入れた。いまや、ワシントンやニューヨークを壊滅させる力を手に入れた(繰り返しますが、アメリカ国防総省は、「まだだ」としています)。これで、アメリカは北を攻撃することができない

金の次の課題は何でしょうか?

  1. 北朝鮮を「事実上の核保有国」として認めさせること。つまり、インド、パキスタン、イスラエルのような地位をゲットする
  2. 経済制裁を解除させること。そのためには、「いまは状況を落ち着かせることに関心がある」

とまあ、プーチンは、金正恩の言動をこのように分析しているのです。

プーチンは、朝鮮半島の「非核化」を望む

ところで、プーチンは北朝鮮の核保有を容認する気はないそうです。

一方でプーチン氏は、「朝鮮半島の非核化は対話を通じてのみできる」とも語り、対話による解決の必要性を改めて強調した。
(同上)

「朝鮮半島の非核化は対話を通じてのみできる」そうです。「一応、プーチンさんも北朝鮮の核保有には反対なのですね」と「ホッ」としますが。実をいうと、プーチンの北朝鮮核問題解決法」、実現すればすべての国にメリットをもたらすものです。何でしょうか?

この問題に実際関わっている国は、日本、アメリカ、韓国、中国、ロシア、北朝鮮です。このうち、日米韓は、「北朝鮮の核兵器保有は脅威なので、北の核兵器を破壊したい」と考えている。中国、ロシアは、「戦争が起こり、アメリカの同盟国韓国が朝鮮半島を統一すると、緩衝国家が消滅し米軍が中ロ国境に駐留することになるから困る」と考えている。だから彼らは、北朝鮮を守っているのです。

その一方で、「できれば北朝鮮の核保有をやめさせたい」とも考えている。なぜ? 中国とロシアは、「核拡散防止条約」(NPT合法的に核保有認められている(米英仏も、「合法的」に認められている)。NPT体制は、中ロに「合法的核保有」いう「特権的地位」を与えているので、これは維持したい。北朝鮮の核保有を認めれば、NPT体制が崩れ、日本や韓国が核兵器開発に走ったとき、「止める根拠」がなくなってしまいます。日本、韓国、あるいはイランは言うでしょう。「なぜ北朝鮮はOKで、俺たちはダメなのか?」と。こういう状態を避けたいので、中ロは、「非核化を支持している。それで、「国連安保理で制裁を支持する」一方で、「石油をこっそり供給して北を守る」といった一見矛盾した行動をとる。

最後に北朝鮮。金正恩が核開発に走る唯一の理由は、「アメリカが怖いから」です。アメリカは、フセインやカダフィを殺した。今は、シリアのアサドを殺そうとしている。特に、「核開発」を03年に放棄したカダフィが2011年に殺されたのは、大きな衝撃だった。金正恩は、アメリカを信用できないのです。

日米韓、中ロ北。すべての国を満足させる方法はあるのでしょうか? あります、トランプが全世界に向けて、「北が核を放棄すれば北の体制は保証する私は神と全世界にこのことを約束する!と宣言すればいい。そして、日韓中ロを「立会人」として、米北は正式な条約を結ぶ。この条約は、トランプ後の大統領も守らなければなりません。

この案が実現するとどうなるでしょうか? 日米韓は、北朝鮮の核の脅威から解放されて幸せ。中ロは、傀儡国家が残り、なおかつ半島非核化が実現して幸せ。北は、アメリカの脅威から解放され、体制が安泰になって幸せ。なんだか、メチャクチャ「非現実的」な話ですね。

しかし、プーチンは一度この方式で成功した実績があります。2013年8月、オバマは、シリア攻撃を始めようとした。理由は、「アサド軍が化学兵器を使ったから」でした。プーチンは、アサドを説得し、「化学兵器全廃」を約束させた。その後、迅速に「化学兵器の破棄プロセス」がはじまり、オバマはシリア攻撃をやめました。プーチンは、同じような方式を考えているのでしょう。

とはいえ、アメリカはその後、「IS掃討」を理由にシリア空爆を開始した。トランプは去年、シリアをミサイル攻撃し、世界を驚かせた。だから、「完全にうまくいった」とはいえない。それでも、化学兵器の全部(あるいはほとんど)を破棄したアサド体制は存続しています。

怖いのは日米韓  対  中ロ北の戦争

正直言うと、トランプと金正恩がプーチンのすばらしいプランを受け入れるのは難しいだろうと思います。金正恩が、一度手に入れた核を破棄することはないでしょう。アメリカは、「この現実」をどう取り扱うのでしょうか?

2011年、シリアで内戦が始まりました。アメリカ、欧州、サウジ、トルコなどは、反アサドを支援した。ロシアとイランは、アサドを支援した。そう、「シリア内戦」は、「欧米 対 ロシア」の「代理戦争」と化したのです。そして、ロシアが支援するアサドは、反体制派とISを駆逐して、今も政権にいます。

アメリカが北を攻めるなら、プーチンは、アサドを守ったように、金正恩を守らないでしょうか? 習近平は、北を守らないでしょうか? アメリカは、こういうファクターも考える必要があります。

image by: Marko Rupena / Shutterstock.com

北野幸伯この著者の記事一覧

日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝のメルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。まぐまぐ殿堂入り!まぐまぐ大賞2015年・総合大賞一位の実力!

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ロシア政治経済ジャーナル 』

【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け