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【書評】小室哲哉も「殺された」日本滅亡に導く道徳自警団の正体

先日、週刊文春からの不倫の嫌疑を受けた記者会見の席上、突然の引退を発表した小室哲哉氏。いわゆる「文春砲」のターゲットを必要以上に叩く事案が跡を絶ちませんが…、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが今回取り上げた書籍は、そんな人々を「道徳自警団」と名付けその行動を分析・解析する一冊。彼らを生み出したのは「日本経済の長期停滞」という興味深い指摘もなされている衝撃的な内容です。

「道徳自警団」がニッポンを滅ぼす
古谷経衡・著 イースト・プレス

古谷経衡『「道徳自警団」がニッポンを滅ぼす』を読んだ。自警団とは警官や軍隊ではない一般市民が犯罪者を警戒するために組織した私的集団である。現在の日本には、「道徳的か否か」を善悪の判断基準とし「不道徳」「不謹慎」と認定した相手を徹底的に攻撃する鬱陶しい連中がいる。著者はこのような人々を「道徳自警団」と名付けた(うまい)。

彼らの攻撃対象は犯罪者ではない。彼らの価値基準でNOと決めつけた相手を、まるで犯罪者のごとく扱って攻撃するのが最大の特徴だ。取るに足らない微罪や重箱の隅をつつくような法律違反を指摘し、ネット上で騒ぎ立て拡散する。能なしのマスメディアも巻き込むから社会の隅々に悪影響を与えている。

彼らの攻撃の具体的理由は「不倫」「淫行」「微罪」「(わずかな不正」の四つが殆ど。どうでもいい矮小なことばかりで、巨悪に対しては無関心を貫く。これが「道徳自警団」の顕著な特徴である。そんなバカ騒ぎが、人口減、国防、憲法改正、教育、貧困といった日本の喫緊の課題から目を遠ざけさせている

「道徳自警団」とは、ネット世論を牽引する一部のノイジーマイノリティーはもとより、それに燃料を与える週刊誌、テレビ、スポーツ紙、夕刊紙、ウェブメディアなどの複合体である。本質的で根本的な問題解決より、どうでもいい「不道徳」「不謹慎」に世論が振り回される。中世の魔女狩りのようである。

しかもこの連中には「どうでもいいマイナス」への執着と、「どうでもいいプラス」への礼賛が常にセットで存在している。だからますます鬱陶しい。なぜこうなってしまったのか。それは「社会全体に金銭的余裕がなくなってきている」からだと著者は喝破する。すべての原因は、今日の日本経済にあるのだ。

日本はいま、成長がなく、他人の粗探ししか娯楽のない「平成という中世」に堕ちている。「道徳自警団」は日本経済の長期停滞が生んだ構造的な集団なのだ。我々はこの厄介な連中とどう対峙すればいいのだろうか。答えは明瞭だ。彼らは経済成長によって自然消滅する。そんな些細なことに構っている時間的余裕がないほど、人々が明日への合理的判断を取り戻せばいいのだ。

「経済が長期にわたって停滞すると、その人間の動物的本能である功利的な部分が鈍感となり、ひたすら他者の不品行や粗探しに躍起となる。このような現象は経済の拡大によってすべて解決する」のだという。「道徳自警団」というネーミングを含めた問題提起と解決法のセッティング、その傾向と対策も著者の発明である。何だかマッチポンプみたいな気がしないでもないが(スマン)。

著者は力説する。「貧乏でも幸せだ」というのは異常な価値観である。「カネがあれば幸せという前提に立ち返れ。ある程度のカネで個人的問題の殆どが解決するという、シンプルで当たり前な価値観の前提がないと、社会がおかしくなる。……道理である。「この国にはほかの国に比べて異常に居丈高な消費者が極端に多いと思う」という意見にも激しく同意するものである。

その後小室哲哉が「道徳自警団」の週刊文春に殺された。小田嶋隆は、「文春砲の罪は、個々のパパラッチ事例よりも、『人民裁判というのか報道リンチをコンテンツ化してしまったところにあると思っている」と指摘している。古谷経衡を「マッチポンプみたいな」といってスマナンダ、スマナンダ。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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