問題は企業だけではありません。
「医療者から働き方への助言をもらいましたか?」とがん患者に質問したところ、半数を超える54%が「誰からも説明されていない」としました(「がん罹患と就労調査2016」より)。
がんは種類によっても、ステージによっても、治療方法や体調が大きく違います。
その一方で、医学の進歩により治療法は日進月歩で生存率も高まってきました。
だというのに……、仕事との両立が難しい、これが現実なのです。
「人は人とかかわりたい.誰かの為、何かの為に役に立ちたいと思う生き物ではないか。死を目の前に突きつけられた時、人はそれでもそれだからこそ人と関わりたいと思うのではないでしょうか」
そう話してくれたのは、4年前にがんと診断され「余命1年」と告げられたARISUさん(仮名)です。
彼女は医師が驚くほど抗がん剤が効き、4年以上“がんサバイバー”としてがんばっています。
しかしながら、彼女の闘病生活は周囲の“無理解”との戦いでした。
がんと診断された直後、上司から「仕事を辞めて治療に専念しろ」と迫られ依願退職。
余命を大幅に超え、治療費も生活費も底を付き、病院に常勤するがん患者の就労支援をするキャリア・カウンセラーに相談したところ、
「あなたの状況で就職するのは無理」
と言われてしまったのです。
「『病院に来るな』って言われてる気がした」そうです。
その後、やむなく生活保護を申請し、一年以上にわたる就職活動をし、数ヶ月前に雇ってくれる企業に出会いました。
体力も低下し、治療などもあるので、週3回、一日3時間ですが、「それでもいい」と言ってくれたのです。
「仕事っていいですね!生きてていいんだと思える」(by ARISU)
仕事が日常に組み込まれていると、ついつい、仕事とお金は対をなしていると考えてしまいがちです。
しかし、仕事がある日常から外に出た人にとって、仕事は仕事、お金はお金。
生きていくためにはお金が欠かせないように、人が人でいるためには仕事が欠かせないのです。
実際、たとえ経済的状況が改善されなくとも、賃金の低い不定期な仕事であっても、働いている人は働いていない人より、活動的で自立心が高く、精神的にも肉体的にも安定していて、健康であることがいくつかの調査で明らかにされています。
「死を目の前に突きつけられた時、人はそれでもそれだからこそ人と関わりたいと思う」
とARISU さんは語っていましたが、私自身、人から感謝されたり、誰かの役に立ったことを実感できたりした時には、やっぱりうれしいし、自分には無理だと思っていたことができたり、自分の力を十分に発揮できた時もうれしい。
仕事があることで、アホな妄想をしなくて済んでホッとすることもありました。