日本人の死因の1位はがんですが、その中でも増加傾向にあるのが「肺がん」です。メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』の著者で現役医師の徳田安春先生は、中でも沖縄県民の肺がん死亡率が高いと指摘。その原因の一端として「米軍基地」が大きく関係しているそうですが、一体どういうことなのでしょうか。
アスベストとがん
私が医学部学生時代に学んだ科目の中に保健医学がありました。そのときに私は初めて、アスベストという発がん性鉱物のことを知りました。肺がんや悪性中皮腫をおこす危険な物質です。じん肺や肺線維症をきたすこともあります。
当初、アスベストは、耐熱性、保湿性、絶縁性に優れた物質であったため、建設や自動車での耐熱材、絶縁材などに使用されていました。しかし、1940年代以降、ドイツなどから健康被害の報告がなされるようになり、1960年代以降にはアメリカの大手アスベスト会社に対する多数の訴訟が起きたために、その頃以降にはアスベストが一般に使用されることはほとんどなくなりました。
アスベストが原因となる肺がんや悪性中皮腫は何十年も後になってから発症します。アメリカの映画俳優スティーブ・マックイーンは、若いときに船員でした。その頃にアスベストに曝露していたため、のちに肺がんを発症し死亡しました。何十年も後になってからです。
基地労働でのアスベスト曝露
しかしながら、その後も、沖縄にある米軍基地内の建築物には大量のアスベストが使用されていました。私は1988年に医学部を卒業して、沖縄県立中部病院に約15年勤務していましたが、肺がんが異常に多いことを医師の多くが認識していました。
戦後の沖縄では、米軍基地からのタバコ配給があり、男性のほとんどが喫煙者になりました。しかもその頃は、「タバコは健康に良いので、健康増進のためにタバコを吸いましょう」という、びっくりするようなタバコ会社の宣伝もあったのです。
そのため、沖縄に肺がんが多いのはタバコの吸い過ぎのせいかとも思っていましたが、悪性中皮腫というがんも多かったので、何かおかしいと思うようになりました。沖縄の人々が特別な環境に晒されることによってアスベストに曝露していたのではないかと思うようになりました。
そしてとうとう、2014年に28人の日本人基地労働者がアスベストによる健康被害でやっと日本政府の認定を受けることができました。ただし、その時点で既に12人は死亡した後でした。これは、氷山の一角とまで思われています。
肺がん死亡の多い沖縄
全国の都道府県の中で、沖縄は肺がん死亡者が多いことが知られています。配給されたタバコのおかげでニコチン依存症となり、そのタバコのせいで肺がんを発症した人が多いとは思います。しかしながら、肺がん患者さんの中には、アスベストが原因となったケースもかなりあると思います。
タバコとアスベストの発がん作用には相乗効果があることが知られています。両方の曝露を受けた人は肺がんになるリスクがかなり高くなるのです。中には、米軍基地が配給したタバコを吸い、米軍基地内でアスベストに曝露することで肺がんになった病歴を持つ患者さんがいました。米軍基地が存在したために発症したがんです。
沖縄だけではありません。神奈川や山口などでも同様のリスクがあると思います。悪性中皮腫はもちろんのこと、肺がんや肺線維症の患者さんで、米軍基地内で建設や工事などの労働を経験したことがあれば、アスベスト曝露が原因の一つとなった可能性がないかどうか、主治医と相談することをお勧めします。
文献
The Japan Times: Japanese confirmed with asbestos injuries from working at U.S. bases 2014/1/8.
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