最近、社労士の元に「社会保険事務所から過去2年分の資料を提出するように言われた」という社会保険調査の相談が多く寄せられているようです。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』では、事前調査で「パート社員で社会保険に加入できていたはずの人ができていなかった」ということが判明し、遡及して加入した場合、金額的な面も含めどのような対応が必要になってくるのかをわかりやすく解説しています。
社会保険の遡及加入
最近、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の調査が多いなぁ~と感じる。今週は、所長、大寒波、雪の中京都の北部まで。お疲れさまで~す! そして、僕の担当顧問先様にもついに通知が来た…。
新米 「大塚トレーナー、O社さんにも社会保険の調査が来ました!」
大塚 「え? そうなの? 問題はなさそう?」
新米 「2年前からの書類を持って来てくださいって書いてあるので2年間分の資料をいただいてチェックかけてみました。実は、1人、ちょっとどうかなって方がいらっしゃるんです」
大塚 「社員さん?」
新米 「いえ、社員さんは全員問題ないと思います」
大塚 「加入すべきタイミングで加入して、月額変更届もきちんと出せているので、標準報酬月額も問題ない。4~6月の給与を基準にする算定基礎届も大丈夫。残業見込みも見込み違いはなく、標準報酬月額のやり直しはない、ってことよね?」
新米 「そのはずだったんですけど、今は保険加入できている人が本来加入すべきタイミングに加入していなかったみたいなんです」
大塚 「あらら…どのくらいの期間、遡及しないといけないの?」
新米 「半年くらいでしょうか」
大塚 「労働条件通知書は見たの? それまでは、週に30時間未満だったのに、週30時間以上になったとか、何かの条件が変わったことをきっかけに加入されたのではないの?」
新米 「それが、労働条件は全く変わってないんです」
大塚 「じゃぁ、なぜその時点から加入したの?」
新米 「ご本人が社会保険に入りたいって言ったからだそうです」
大塚 「あらら、困ったわね。社会保険に加入したいと聞いて、加入条件に合うように労働時間を長くして加入したのではないってことね?」
新米 「はい、そうではなさそうなんです」
大塚 「つまりホントはもっと早くから加入しないといけなかったってことね?」
新米 「…みたいです。遡って加入したら保険料は高くつきますよね?」
大塚 「それは、自分で計算できるでしょ?」
新米 「あ、はい。そうすると、つまり保険料って、倍かかるってことですよね?」
大塚 「いやいや、倍ってどういうこと? 遡求して社会保険の加入をしたら、国民健康保険料と国民年金保険料は戻ってくるわよ」
新米 「あ、前に入っていた分は返ってくるんですね。それは、良かったです~」
大塚 「O社さんがそういうことを心配されているのね。保険料はダブッて支払う必要はないわよ。やりとりちょっと変わるわ。しっかり横で聞いておいてね」
O社社長 「今回、社会保険の調査に初めてあたってしまいまして…2年間分の資料を持ってきなさいと言われているんです。そうすると、パートさんで社会保険に入っていない期間があると新米さんから指摘されまして、ここはどうなるのでしょうか?」
大塚 「社会保険の時効は2年間ありますので、加入できていない、等級がおかしいということになると、原則2年前まで遡って訂正することになるんです」
O社社長 「つまりうちの場合は、遡ってくださいと言われるケースということなんですね」
大塚 「そういうことですね」
O社社長 「それは困りました…。保険料が数十万円かかります。できれば避けたいですね~」
大塚 「確かにそうですが…。ところで、労働条件が変わっていないのに途中から社会保険に加入されたというのは間違いないですか?」
O社社長 「はい、そうなんです。高年齢の嘱託の方で採用時から1日6時間勤務なんですが、採用された段階で社会保険加入の対象だったということは後から知ったんです」
大塚 「そういうことですか。気づいたときに遡って加入しておけばよかったですね」
O社社長「そうかもしれませんね。でも、遡って入れるということは今回知りました」
大塚 「他に事情はありませんでしたか?」
O社社長 「実は、国民健康保険や国民年金の支払いが大変なんですと相談を受けて、社会保険に入った方が出費が低いですよと提案したんです。それに奥様もお仕事をやめたそうで…。それなら奥様を扶養に入れるとさらに保険料が助かるのでは? とお話ししました」
大塚 「そうでしたか。保険料が下がることで社会保険に加入したなら、今回、遡ることで過去の保険料も助かるっていうことですよ。新米から聞きましたが、遡及して支払うだけで過去の保険料は返ってこないと思っていらっしゃったのですね。保険料は、戻ってきますので、実質プラスマイナスになりますよ」
O社社長 「過去の保険料は返ってくるっていうことなんですね?」
大塚 「そうです。国民健康保険も国民年金も二重取りにはなりません。そこは安心してください」
O社社長 「それは、良かったです! 保険料がすごくかかる、とそればっかり思っていたのです。うちの会社のミスでもあるので、ご本人さんの保険料も会社で負担してあげないと…とか、どうしたものかと頭をかかえていました」
大塚 「遡ることで、ご本人にも保険料のメリットがあるなら、相談しやすいですよね。しかし、ひとつやっかいなこともあるんです。それもお話しておきますね」
O社社長 「え? なんですか?」
大塚 「遡る期間にご病気やお怪我で健康保険証を使っていらっしゃると、病院や診療所へ行って保険者の変更をしなければなりません。それが大変です。ですから、まずはその期間にお医者様へ行ったかどうかの確認をお勧めします」
O社社長 「そうですか。お医者様に行っていたら、ちょっとやっかいなことになるのですね」
大塚 「そうなんです。病院も保険者への請求はとうに終わっていますから、手続きのやり直しをすることは嫌がりますし、国民健康保険の加入期間でない時に受けた保険給付は返還が必要になってきます。自己負担が3割、保険給付7割ですから、7割を現金で返還する事になります。随分前の話になりますから、保険給付分も戻ってくるとはいえ、いったん立て替えることになるでしょうね。そこもやっかいな点です」
O社社長 「そうですか、病院に通っていたらいったん立替をしないといけないかもしれないんですね。まずは、病院に行っていたかを確認するのが大事ですね」
大塚 「やっかいの程度がどのくらいかの確認をしてください(笑)」
O社社長 「ところで、手続きですが、どのようにしたら良いんでしょうか?」
大塚 「最初に届出をした等級と実際のお給料に差があったとき、訂正をする場合があります。そういった手続き、『取得時訂正』はご存知ですか?」
O社社長 「はい、それならしたことがあります」
大塚 「同じようなイメージで結構です。同じく取得するときと同じ用紙を使って、間違っていた月日を赤色で書き、正しい加入日を黒字で書いてください」
O社社長 「わかりました」
大塚 「配偶者の方の遡及手続きについても、扶養に加入するときと同じ『扶養者異動届』で右下の申立書にコメントを書いておいてください。ただし、遡及期間に扶養の条件に合致していたかは確認くださいね」
O社社長 「はい、わかりました。まずは、本人に確認してみます」
*「社会保険の用紙変更」について
平成30年3月から社会保険の届出様式が変わるそうです。マイナンバーの関係もありますが、手続きシステムが今まで二つに分かれていたものが賞与、月額変更届のシステムに統一されます。それに伴い、A4判横書きが縦書きに変わり、決定通知書も健康保険証は東京の事務センターから送られてきます。
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