以前掲載の「「僕には人生を楽しむ権利がある!」と言うアメリカ人にリアルで遭遇」では、著者の高橋克明さんが遭遇したアメリカの店員さんの仰天エピソードを紹介しましたが、今度はメルマガ『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』の著者でNY在住の医学博士・しんコロさんは「いろいろとザンネンなウェイター」に遭遇。そのときの様子を面白おかしく記しています。
※本記事は有料メルマガ『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』2018年2月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:しんコロ
ねこブロガー/ダンスインストラクター/起業家/医学博士。神奈川県生まれ。ニューヨーク在住。環境科学の修士号を取得後渡米、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、ドイツキール大学での客員研究員を経て、免疫学の博士号(Ph.D.)をワシントン大学にて取得。現在、世界有数のがん研究所として知られるニューヨークのメモリアル・スローンケタリング・がんセンター勤務。研究者としての仕事の傍ら、ヒップホップダンスインストラクターを兼ね、レシピやエッセイなどの執筆なども行っている。著書に「しゃべるねこ、しおちゃんと僕」等がある。
NY仰天レストラン体験
さて、我が家ではバレンタインデーには外に食事に出かけました。夫婦そろって肉が大好きなので、NYステーキを食べに出かけました。ステーキくらい肉を買ってくれば家でもできますが、NYステーキの美味しい店はやっぱり素人にはマネできません。仕入れる肉も一ヶ月ほど熟成させた肉だし、焼き方も火力の強いグリルでとても香ばしく上手に焼いて出してきます。なので、時々NYステーキを食べに行きたくなります。近い将来NYを離れて唯一NYが懐かしくなるのはNYステーキだと思います。それ以外には、ほぼ何も未練がありません(笑)。
NYステーキというとピーター・ルーガーというブルックリンの有名店がありますが、人気店は予約が取りにくいので、ミッドタウンの穴場「Angus Club Steak House」に行って来ました。以前もメルマガで紹介したかもしれませんが、ここはあまり知られていないのか、予約も取りやすい上に店内もスペースがあって静かなので落ち着いて食事ができます。そして、サービスも良いです。今回の時までは(笑)。
店に入り、店員に快く迎えられました。子どもを連れていても嫌な顔ひとつされないのがアメリカの良いところです。そして僕達はテーブルにつきました。そしてウェイターからメニューを渡されました。いつもは無意味に重厚感のあるメニューを渡されるのですが、この日は紙切れ一枚のメニューです。そう、バレンタインデースペシャルメニューだったのです。
とはいえ、実はこのバレンタインデースペシャルメニューというのはギミックというか、フリマというかマネフというか、半分インチキで詐欺でポンジスキームです。おっと、言い過ぎました。でも、基本的にはそういう感じです。バレンタインデーは客足が増えるので、値段を吊り上げたコースのみを提供するレストランが多いのです。例えたら、ハリケーンの時に行き場を失った人たちに対していくつかのホテルが宿泊料を吊り上げたのに似ています(笑)。
週替り等で色々なメニューを出すレストランならば、バレンタインデースペシャルメニューを出すのは理解できます。しかし、ステーキハウスの場合は出すものはステーキと付け合せ野菜だけです。スペシャルも何もありません、いつもと同じです。そこで僕は、「普通のメニューください」と店員に言いました。すると店員は快くいつもの重厚感あふれるメニューを持ってきてくれました。僕は満足そうにメニューを眺めていました。
メニュー選ばせないウェイター
すると、しばらくしてこの日の担当のウェイトレスがやってきました。60歳くらいのジューイッシュ(ユダヤ系)っぽいオッサンです。ジューイッシュとオッサンということで、ここから彼のことを「ジッサン」と呼びます。ジッサンは、僕達のところにやって来ると、僕達からメニューを取り上げました。そしてさっきのペラペラのメニューを手渡しました。
ジッサン「今日はこのメニューだけ」
しんコロ「なんで?」
ジッサン「これしかできないから、わかる?」
そのペラペラメニューを見ると、特にスペシャルなメニューはありません。肉があって、選べる付け合せの野菜の種類が普段より少なくて、食べたくもないデザートがついてきて、通常価格よりもかなり吊り上げてあります。このレストランには何度か訪れて内容を知っていたので、できればこのメニューで注文したくありません。僕はもう少しねばりました。
しんコロ「でも、デザート要らないからこの通常メニューから注文させて」
ジッサン「別にいいよ」
しんコロ「いいの?」
ジッサン「いいよ、デザート要らないなら構わない、食わずに持って帰ればいい」
しんコロ「(そっちか!!)」
ウェイターの雑な回答にビックリしましたが、この日はバレンタインデーです。普段の僕ならばこういう扱いにはゴネるところですが、あまりゴネても記念日にセコい感じに思われるのも癪なので、仕方なくスペシャルメニューで注文することにしました。
ワイン選ばせないウェイター
料理を注文したら、ワインです。ステーキを食べる時には赤ワインは絶対に飲みたいです。むしろ、赤ワインを飲む時にはステーキを食べたいくらいです(笑)。要するにステーキとは切っても切れない関係の赤ワインを注文するのは楽しみの一つです。そこで僕はジッサンにワインリストを持ってきてくれるように頼みました。そもそも、ジッサンの方から「ワインリストをお持ちしましょうか?」と訊くのが筋なのですが、このジッサンは典型的NYカーのようなので、そんな気配りはありません。でもいいのです。そんなもんです。
ジッサンから渡されたワインリストを眺めると、聞いたことが無いワインがありました。
果たしてどこのワインかもわからない名前です。恐らくスペインのワインだろうと思いましたが、分からないことがあったらウェイターに聞きます。知ったかぶりをしなくても、ウェイターは通常教育を受けていて、どんなワインかを説明してくれるものです。
しんコロ「このワイン、どこのワインですか?聞いたことがないんだけど…」
ジッサン「ん?どれどれ、んーわからん。っていうか、これうちには置いてない」
しんコロ「(ウソだろ…絶対ウソついているよな…)」
ジッサン「似たの適当に持ってくるからそれでいいだろ? $150くらいでいいな?
(そう言って去ろうとする)」しんコロ「ちょ!待って! 自分で他から選びますよ!」
このジッサン、めっちゃセッカチです。客が注文するのを待っていられません。そして、好みを聞かずに適当に選んで価格帯も自分で決めちゃうのです。「$150でいいよな?」ってサラッと言うのです。日本でウェイターが「適当に選ぶからいいだろ?17000円くらいでいいよね?」と言ったら大事件です。さすがにこれは容認できません。
僕は去ろうとしてセカセカしているジッサンを止めて、自分でワインを選びました。
「これ」と指定すると、ジッサンは「どれでも同じや!」くらいの勢いでその場を去ってゆきました。
ワインテイスティングさせないウェイター
そしてしばらくして、ジッサンがワインを持ってやって来ました。ジッサンは、半ばフライングでワインを開封しはじめました。普通、ワインのラベルを客に見せて確認したらコルクを抜くものです。ところがジッサンは、ほとんど向こうから歩きながらワインを開けちゃう勢いです(笑)。風呂上がりのオッサンが冷蔵庫から出したビールをプシュっと開けながらテレビの前にやってくるノリに近いです。
そしてジッサンは、開けたワインのラベルを僕に見せることもせず、僕のグラスに注ぎました。ドバドバっと、テイスティングには多いんじゃない?と思わせる勢いで注ぎました。僕はこの時、「ちょっと!ラベルも見せてないよね」と突っ込むべきだったのですが、あまりに流れ作業的に鮮やかにコルクを抜いて僕のグラスに注いだので、僕もその流れに飲まれてしまったのです。飲まれた僕は、グラスを手に取ってテイスティングをしようとしました。すると、ジッサンは僕がグラスに口をつける前にちゃっこのグラスにドバドバっと注ぎました。僕がワイングラスを口につけたまま唖然としていると、ジッサンは「いいワインだろ」とドヤ顔で去ってゆきました。いいワインだろって、僕が選んだんじゃんか!そしてふとテーブルに置かれたワインを見ると、僕が選んだワインではありませんでした(笑)。ここでジッサンが持ってきたワインがとんでもない間違いならば文句を言ったところなのですが、実はこのジッサンが間違えて持ってきたワインは、僕が注文しようか悩んでいたもう一方のワインなので、僕は「まあいっか」と容認しまいました。今思えば、NYに来てから僕は随分とNYカーに寛容になってしまったものです。
そしてしばし、僕達はステーキを楽しみました。ステーキはいつもどおり、非常に美味しかったです。表面はカリっと香ばしく、中はジューシーにミディアムレアだけれども火が通っている絶妙な焼き具合です。ステーキハウスなので当たり前ですが、いつも安定して上手に焼いてくるので感心します。それまでのジッサンの行動も忘れ、僕達はステーキとワインを楽しみました。
デザートを食べ終わるまで待てないウェイター
そして食後のデザートがやってきました。チョコレートムースケーキとチーズケーキでした。僕達はステーキでお腹がいっぱいでしたが、せっかくなのでいただきました。すると、デザートを食べ終わっていないのにジッサンが伝票を持ってきました。通常は食事がすべて終わった後に、ウェイターが「何か他に欲しいものはありませんか?」と聞き、なにもなければ客側が「チェックお願いします」と言って伝票を持ってきてもらうのが流れです。しかしセッカチなジッサンは待っていられないのでした。中国系の庶民的なレストランでは店員がセッカチなのはよくあることですが、ステーキハウスでまだ食べているそばから伝票をテーブルに置かれたのは初めての経験です。そしてトドメは、すぐにジッサンが戻ってきて「ありがと」といって僕にクレジットカードを催促したことでした。もちろん、こんなウェイターには通常のチップを払う必要はありません。
NYに慣れていないと、きっとこういう扱いを受けた時に「ナメられた」とか「人種差別された」とか思う人も少なくないと思います。でも、僕が思うにこのジッサンは悪気があったというよりは、きっと普段からセッカチなのだろうと思います。普段はこのステーキハウスで働いておらず、どこからの小さなダイナーかデリで店員をしているのかもしれません。この日だけヘルプでやってきて、いつもの店でやっているようなぶっきらぼうな客扱いをそのまましてしまったのではないかと思うのです。
ここまで書いて、やっぱり僕はNYに来てから随分NYカーに寛容になったと思いました(笑)。もちろんジッサンのやったことは失礼極まりないのですが、失礼なのがデフォルトになっているNYに住んでいると、楽しく過ごす為にはサービスに対する期待度を下げるスキルが必要になります(笑)。
image by: Angus Club Steakhouse
※本記事は有料メルマガ『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』2018年2月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
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『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』(2018年2月20日号)より一部抜粋