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トランプ金正恩会談「ダマされるから会うな」が大間違いな理由

アメリカは3月9日に緊急発表を行い、北朝鮮の金正恩氏がトランプ大統領に会談を申し入れ、これにともなって今後の弾道ミサイル開発も中止する意向だということを公表しました。5月までには会談を実現させる方向だという、米朝の二国。はたして、この電撃発表に「裏」はないのでしょうか? 無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係アナリストの北野幸伯さんが、その真の意図を探るとともに、日本の立ち位置についても提言しています。

なぜトランプ―金正恩会談は、「論理的」に「当然」なのか?

皆さんご存知だと思います。トランプさんが、金正恩と会うそうです。

正恩氏「会いたい」トランプ氏「よし、会うぞ」 読売新聞 3/9(金)18:58配信

【ワシントン=大木聖馬、ソウル=中島健太郎】トランプ米大統領は8日、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長からの要請を受け、5月までに会談する意向を明らかにした。実現すれば、初の米朝首脳会談となる。米朝間の軍事衝突への発展も懸念されている北朝鮮の核・ミサイル問題が転換点を迎える可能性がある。

どんな感じで、会うことが決まったのでしょうか?

トランプ氏は8日、ホワイトハウスで、文在寅(ムンジェイン)韓国大統領の特使として正恩氏と会談した鄭義溶(チョンウィヨン)国家安保室長、徐薫(ソフン)国家情報院長と面会した。韓国大統領府報道官によると鄭氏は、「トランプ大統領と可能な限り早い時期に会いたい。直接会って話をすれば、大きな成果を出すことが出来る」とする正恩氏の発言を口頭で伝えた。トランプ氏は、大きくうなずきながら「よし、会うぞ」と即答したという。
(同上)

これ、トランプさんが自分で即決したのですね。日本の政治家の中には、「事前に相談がなかった」と憤慨している人もいるようです。しかし、「憤慨マター」ではありません。トランプさん以外の人は誰も知らなかったのですから。トランプさん自身も、こういう展開になるとは思っていなかった可能性が高い。

ところで、トランプー金正恩会談について、「どうせだまされるだけだ! だから、会う必要はない!」と思っている人は、たくさんいることでしょう。

「どうせだまされるだけだ!」について。これまでの北朝鮮の行動を見ると、そう思う気持ちはわかります。しかし、だからといって、「会う必要はない!」という話にはなりません。なぜ??

「圧力派」日本の目標はなんだったのか?

北朝鮮核問題については、二つの陣営にわかれていました。すなわち、中国、ロシアの「対話派」。日本、アメリカの「圧力派」。

圧力派は、これまで何をしてきたのでしょうか? 北が、核兵器実験や、ミサイル実験をする。圧力派は、国連安保理に「制裁を強化しよう!」と提案します。中国とロシアは、「アメリカの制裁案は厳しすぎる!」といって修正を要求する。そして、結果的に修正された制裁決議が通り、ゆっくり制裁が強化されてきた。そんな感じですね。

で、圧力派の目標はなんなのでしょうか? このまま制裁を強化しつづけ、北朝鮮を暴発させること? そして、戦争を開始して、北朝鮮という国を世界から消し去ること?

そうではないですね。圧力派も、対話には賛成だったのです。しかし、対話開始の「前提条件」を掲げている。それは、何でしょうか? そう、「金正恩が、核兵器放棄(非核化)の意志を示すこと」です。

一方、北朝鮮は、「前提条件なしの対話」を要求していた。これだと、「北朝鮮を核保有国として認めろ!」という交渉になりかねない。だから、圧力派は、「北が非核化の意志を示すまで圧力をつづける」としてきた。

では、金は対話開始の条件である「非核化の意志「を示したのでしょうか? 毎日新聞3月9日から。

韓国大統領の特使として訪朝した鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長は8日、ホワイトハウスで記者会見し、トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の訪朝要請を受け入れ、5月までに米朝首脳会談に応じる意向を示したと明らかにした。ホワイトハウスは時期や場所は未定とし、「2、3カ月以内」に会談すると説明した。金委員長は韓国政府の特使団に対して「非核化の意思」を示し、核・ミサイル実験の「凍結」を約束したという。

金は、韓国の特師団に「非核化の意思」を示した。これは、「圧力派の目標が達成された」ことを示しています。それで、

<トランプ氏は発表直後、「金正恩は(核開発の)単なる停止ではなく、非核化について述べた。この期間は北朝鮮によるミサイル実験も行われない。大いなる前進だ。ただ、合意に至るまでは制裁は続ける。(米朝)会談は実施される予定だ!」とツイートした。>

トランプは、金が「非核化」の意志を示したので会うことにしたと語っている。論理的には当然といえるでしょう。そして「合意に至るまで制裁はつづける」。こちらも当然ですね。

目標を達成した日本は、「対話派」に転向すべき

世界が「対話」にむかっているときに、いまだに「圧力、圧力」といってる人がいます。この人たちは、もう一度「圧力の目的」について考えてみてほしいです。圧力の目的は、「北から譲歩を引き出すこと」だったはずです。どんな譲歩? そう、「前提条件なしの対話ではなく、非核化にむけた対話をすること」です。

金正恩が自説を曲げて折れた時点で、「圧力」の目的は達成された。だから、制裁を維持しつつ、日米の前提条件で対話を開始するのは当たり前でしょう???? 「まだ圧力派」の人たちは、核戦争を望んでいるのでしょうか?

私は「金正恩が『核放棄』の意思を明確に。どこまで信用できるのか」で、

今後どうなっていくかわかりませんが、日本は、トーンをアメリカにあわせていく必要があるでしょう。「圧力!」「圧力!」と繰り返すだけでなく、「本当に非核化につながる対話ならば、歓迎する」というべきです。そうでなければ、「日本だけ好戦的」になってしまいます。

と書きました。そして、安倍総理は9日、こう語りました。

「先ほどトランプ大統領と日米首脳会談を行いました。北朝鮮が非核化を前提に話し合いを始める、そう北朝鮮の側から申し出たこと、その北朝鮮の変化を評価いたします。

まさしくその通りです。「前提条件なしじゃなければ対話しない!」といってたのが、「非核化前提」に変わったのですから。

これは日本と米国がしっかりと連携をしながら、さらには日米韓、国際社会共に高度な圧力をかけ続けてきた成果であろうと思います。そのことについてはトランプ大統領とも一致しました。

これも、その通りだと思います。BBC3月9日は報じています。

経済統計を見ると、国際社会の相次ぐ制裁に北朝鮮経済が打撃を受けているのが分かる。北朝鮮の輸出高は昨年の時点で30%減少した可能性がある。特に、最大貿易相手の中国への輸出は最大35%も減ったようだ。つまり、北朝鮮経済の3割が消えてなくなったということだ。

さて、安倍総理は、つづけてこう語ります。

核・ミサイルの完全検証可能かつ不可逆的な形での放棄に向けて、北朝鮮が具体的な行動を取るまで最大限の圧力をかけていく。この日米の確固たる立場は決して揺らぐことはありません。

これが大事ですね。金正恩は、核兵器を保持したままで、日米からの支援や、制裁解除を求めてくるかもしれません。

いずれにしても、「圧力派」としての一つの目標は達成され、金正恩は、「非核化する意志」を示しました。それで、米朝対話が開始されるのは、極めて「論理的な流れ」であることを、私たちは自覚しておく必要があります。

日米は、「核放棄」を要求し、見返りは、「体制保証」。金正恩は、「その前に支援」「制裁解除」などといって、だまそうとするかもしれません。しかし、それは、「だまされないように対話、交渉しましょう」という、別次元の問題なのです。

繰り返しますが、対話開始に反対の人たちは、今一度「圧力をかけつづけてきた目的はなんだったんだっけ?」と自問していただきたいと思います。そうすれば、「あ!金正恩に、非核化の意志を示させることだったのだ!」と「思いだす」ことでしょう。

image by: Joseph Sohm / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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