やはり森友学園を巡る決裁書の書き換え問題に納得がいかない国民は多いのでしょうか、週末に行われた各社による世論調査で安倍内閣の支持率が急落、政権運営に黄信号が灯りはじめたと見る向きもあります。ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の中で、「安倍首相はこのままでは9月の総裁選に立候補すら出来ないのではないか」との見方を示すとともに、首相が探り始めた「日朝首脳会談」について「国民を欺く目眩ましにすぎない」と厳しく批判しています。
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年3月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
内閣支持率が一気に10ポイント前後下落、不支持と逆転──いよいよ黄信号が点滅し始めた安倍政権の前途
マスコミ各社が先週末に行った世論調査で、安倍内閣の支持率は軒並み10ポイント前後も下落して30%台に突入、不支持率はそれ以上に跳ね上がって支持率を大きく上回る結果となった。不支持の理由のトップは揃って「安倍首相の人柄が信頼できない」である。
安倍政権の前途には黄信号の点滅が始まったということで、今週以降の佐川宣寿=前国税庁長官などの証人喚問などを通じて、黄信号から赤の点滅へと急速に推移していく可能性が出てきた。
《各社調査の主な項目の比較》
共同 時事 毎日 日本TV
支持率 38.7(-9.4) 39.3(-9.4) 33(-12) 33.3(-10.7)
不支持率 48.2(+9.2) 40.4(+8.5) 47(+15) 53.0(+15.7)
安倍不信 49.5 25.2(+8.8) 51 43.2
麻生辞任 52.0 54 60.8
昭恵喚問 63.3 63 65.8
安倍退陣 43.8 55
安倍続投 47.6 29
1年がかりの逃げ切り大作戦が失敗して
森友学園、加計学園が政府から特別な扱いを受けていて、それはその両方の経営者が安倍首相夫妻のお友達だからではないかとの疑惑が明るみに出たのは、昨年の2月から3月にかけてのことである。が、安倍首相はシラを切り続け、とりわけ森友に関しては「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」とまで開き直り(2月17日衆院予算委)、以後ひたすら逃げまくって国民が忘れるのを待つという戦術を採った。そのため昨年春の通常国会を6月で早々に閉会して、秋から冬にかけて、出来るだけ国会審議が開かれないように計らい、また告発者である森友の経営者=籠池夫妻を7月に逮捕させて未決のまま今に至るまで不当勾留し続けるなど、卑劣の限りを尽くしてきた。
しかしここへ来て、森友への国有地払い下げ交渉の経緯を示す公文書が大がかりに改ざんされていたことが明らかになり、それを直接担当していたとされる近畿財務局職員が3月7日に自殺。その衝撃の中で2日後に佐川氏が国税庁長官を辞任したことで、安倍首相のこの1年がかりの逃げ切り大作戦は破裂してしまった。しかも、佐川氏の理財局長当時の国会答弁の原稿づくりを担当していたと言われる理財局国有財産業務課の係長も、1月29日に不審死を遂げていた事実も浮上して、この件は俄に「死の臭い」が立ち籠め始めてきた。
これは安倍首相にとって最悪の展開である。実際に誰が改ざんを命じ、それを高位の誰がいつから知って了承を与えていたかなどの事実関係の解明は、これから佐川氏その他関係者の証人喚問などを通じて進められていくに違いないが、そういうことを超えて、これが要するに安倍首相夫妻の嘘にまみれた言い逃れを助けるために罪のない真面目な官僚が1人ならず命を捧げなければならなかった、言語道断の出来事であるという直感的真実が、国民の間に広く定着しつつある。上の世論調査の数字はその反映で、従ってこれに歯止めをかけるのは至難の業である。
この問題は直ちに他のテーマにも波及する。例えば3月14日付「読売新聞」の第4面の半分ほどを使った解説記事の見出し「『森友』改憲日程に暗雲/『国民的議論』機運しぼむ」が示すように、3月25日の党大会までに改憲案を何とかまとめようとしてきた細田博之=憲法改正推進本部長の苦心の努力は吹き飛んでしまった。森友文書の改ざん問題でつまづいたため、自民党がめざす「年内の改憲の国会発議は不透明になりつつある」。同党内では「改憲論議どころではない」というベテラン議員の本音が漏れ、また公明党幹部も「もう憲法改正は遠のいた」と冷ややかに語っている、と同紙は述べている。
改憲と9月自民党総裁3選はもちろん裏腹なので、改憲の道筋が立たないのに安倍首相が3選されることはあり得ない。それどころか、このままでは立候補さえ出来ないのではないか。
まず麻生氏辞任、それで止まらなければ総辞職?
この状態を抜け出す道はあるだろうか。
安倍首相としては今のところ、佐川氏1人を生け贄に差し出すことで収拾できないかと考えているようで、これが第1防衛線である。しかしこれはいくら何でも甘すぎて、たちまち破られて、理財局と近畿財務局でこれに関わった関係者が少なくとも何人かが呼び出されることになるのは避けられない。
それを通じてますます疑惑が深まっていく中で、野党は当然、次のステップとして、昭恵夫人の証人喚問を厳しく要求するだろう。ここが難しい判断で、安倍首相としては恐らく、盟友であり内閣の重石でもある麻生太郎副総理・財務相の首を切って、それが第2防衛線となって止まるのか、どうせ止まらないのであれば思いきって昭恵夫人の喚問を第2防衛線にするのかという選択が迫られよう。
もちろん、昭恵夫人が喚問でズタズタにされる姿を何が何でも世間に晒したくないのが安倍首相だから、前者を選択するしかないのだけれども、それでも逃げ切れずに、せっかく麻生氏を義性にしたのにやっぱり昭恵夫人が呼ばれるというリスクが残る。
さらに、もっと大きなリスクとして、麻生氏の恨みを買って敵に回すことになり、下手をすれば麻生氏が安倍首相を道連れにして内閣総辞職に転がり込むことになりかねず、たとえそうならなくても、9月の総裁3選は麻生氏によって完全にブロックされるに違いない。
そうなると、昭恵夫人を第3防衛線に仕立てて、内閣を守り、3選の可能性を少しでも残すしか方法がない。しかし、私の予想では、昭恵夫人を犠牲にして麻生氏を守りつつ内閣崩壊を避けるという選択は、安倍首相にとってはあり得ない。昭恵夫人を晒すくらいならその前に進んで内閣総辞職をした方がマシということで、つまりは自分とその内閣を第3防衛線にして、昭恵夫人を守るということである。
この政局双六は、国民生活とも国際情勢とも何の関わりもない安倍首相夫妻の生き残りのためのゲームに過ぎないが、どちらにしても彼らにとってハッピーな「上がり」は用意されていない地獄への道である。
目眩ましとしての「日朝首脳会談」構想
このように政局が行き詰まりそうになると、何か奇策を編みだして国民に目眩ましをかけて生き延びるというのが、安倍側近チームの常套手段である。そこで出てきたのが、急遽、安倍首相が訪米してトランプ米大統領に米朝首脳会談で拉致問題を取り上げて貰うようお願いするという素っ頓狂としか言い様のない思いつきであり、それがどうも真剣に取り合って貰えそうにないことが分かると、今度はもっと踏み込んで「日朝首脳会談」を実現してその問題を直接、金正恩と交渉するという夢みたいな話である。
断言するが、北朝鮮は相手が安倍首相である限り、日本との首脳会談に応じることはない。それは当たり前で、小泉政権が苦労して成し遂げた02年の日朝ピョンヤン宣言をブチ壊したのは当時の官房副長官だった安倍首相であって、北は安倍首相を相手にしない。
最近の平昌五輪を契機とした南北対話から米朝交渉へという新しい流れに関しても、安倍首相がこれまでやって来たことと言えば、「対話のための対話は要らない」「北が屈するまで最大限の圧力を」と、まるで戦争になるのを辞さないかのような口先だけの勇ましい言葉を振りまくことでしかなかった。それでも南北対話や米朝交渉が始まるのを阻止できないことが分かると、まずは「北に欺されるな」などと妨害し、それもダメだと今度は拉致を持ち出して何とか日本の“存在感”を示そうという身勝手さである。
拉致はもちろん日本にとっては重要関心事であるけれども、北朝鮮が体制存続を賭けて朝鮮半島の戦争状態を65年ぶりに終わらせられるかどうかの世紀の大勝負に打って出ていて、米国もそれなりに真剣にそれに向き合おうとしている時に、日本が「あのー、すいません、日本は拉致という問題を抱えているので、これも是非、お二人の会談で取り上げて貰いたいんですけど」と言いに行くことが、どれほど滑稽かつ無礼なことであるか、安倍首相はさっぱり分かっていない。
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2018年2月分
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