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安倍政権が吹っ飛んだ後、ニッポンが行き詰まる4つの危機的問題

森友学園の決裁書改ざん問題を巡る佐川宣寿前国税庁長官の27日の証人喚問について、「政治の関与がなかったことが証明された」とする与党と、「あくまで問題の入口」とする野党。安倍昭恵首相夫人の喚問を巡る駆け引きも続いていますが、「森友後」の日本についても考えなければいけない、とするのはアメリカ在住の作家・冷泉彰彦さん。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、「森友後」に関して4つの問題提起をしています。

「森友後」への懸念を考える時期ではないのか?

アメリカから現在の日本の政局を見ていると、依然として違和感ばかりを感じます。とにかく、19日の集中審議もそうですが、安倍総理としては、真摯に謝罪して政権を継続するという手を使わずに、現時点では稚拙な防戦一方というのがまず理解できません。刑事訴追の可能性を考えると事実関係を認めるわけにはいかないというのかもしれませんが、政治的責任を明確にして謝罪するくらい、出来るはずです。こうなると、政権継続への責任感があるかを疑わざるを得ません。

更には、「三大忖度疑惑」の中で、恐らく一番悪質なのは女性の人権と尊厳への攻撃としか言いようのない「強姦不起訴問題」であり、次に「学部設置認可」という許認可が歪められた件だと思うのです。この2つは半ば忘れられた格好で、この「森友ばかりが攻撃されていることにも違和感を感じます。

そうなのですが、本号の時点では、下手をすると安倍政権が吹っ飛ぶ可能性も否定できなくなりました。ということは「森友後を考えなくてはならないということです。今回は、4つ問題提起をしたいと思います。

1つ目は、左へ行くか右へ行くかという方向性の問題です。安倍政権から見て、「森友問題で攻勢を強めている」野党は「怖い」かもしれませんが、中身はバラバラです。例えば、立憲民主党は左で、維新は右です。とにかく立場が違います。民進に至っては、過去の債権と債務を抱えた個人商店ばかりで立ち位置がどこなのかも分かりません。そうした野党が一丸になって安倍政権を攻め立てているわけですが、仮に政権崩壊に追い込んだとして、野党には政権を組織するだけの議席はありません

ですから、「民意」というのは当面は「自民党における政権交代」という落とし所に行くしかないことになります。では、一体その後の政権を組織するにあたって「政策論としての民意どこ?にあるとして政府を再建するのでしょうか?

安倍政権が右に寄り過ぎている、それこそ「教育勅語を信奉している森友学園とお友達だった」ということが批判されて、反対に少し左寄りの真ん中に寄った政権ができるのであれば、まだ分かりやすいと思います。ですが、現在の「森友問題」はそんな単純なものではなくなりました。その結果として、今回の「反権力ムーブメントが左からなのか右からなのか全く不明確という状態に陥っているのです。

このままでは、右寄りの政権ができた場合に、真ん中から左の票を意識して無駄なバラマキに走ったり、左寄りの政権の場合は右の批判を恐れて、例えば野田政権の尖閣国有化のような唐突で無謀な政策を取るなど、基盤の弱さゆえの逆さの悪手」を取る危険があると思います。自民党の中で別の首班が立つ場合も同じです。現在の政局が正にそうで、野党も、自民党内も政局にするのならもっと真剣に政策を整理して示すべきです。

韓国の朴槿恵政権打倒運動はひどいものでしたが、良くも悪くもという受け皿は明確でした。ですが、現在の日本の政局は「右へ行くのか、左へ行くのか」すら不明確で、これでは政権選択の議論にはなりません

ドサクサに紛れて、自民党は憲法改正案について「安倍私案より少し右」の案を出してきましたが、これがいい例で、「右派の安倍政権を叩けば、全体は左へ行く」と考えているのなら、野党もメディアも甘いと言わざるを得ません。

2つ目は、外交方針です。現在の安倍政権の外交ですが、アメリカとの関係で言えば、オバマ政権との蜜月を演じた一方で、トランプ登場という政変にも実務的に対応し、一方でTPP11を進めながらトランプとの緊密な関係は維持するという、一種の均衡戦略を取っています。韓国との関係も同様で、日本の保守世論の支持を引っ張りながらも一度は日韓合意を実現し、現在も文政権との対話姿勢を続けています。

これに対して、トランプ政権との関係が卑屈だとか、韓国には甘いという批判は簡単かもしれません。ならば、政権批判勢力が政権当事者になった時には、日米も日韓もちゃぶ台返しをするのでしょうか? その場合は、「アンチ・トランプ+アンチ・文在寅」というのは右派的ポピュリズムからでも、左派的ポピュリズムからでも「やれて」しまうのかもしれませんが、右からやっても、左からやっても、外交孤立になる危険があります。

いやいや、日中と日欧を重視して安倍外交を転換するんだというのであれば、それならそうと堂々と主張すべきでしょう。とにかく、外交がここまでクリティカルな局面で政権を倒そうとする、にも関わらず外交方針の代案はないというのは余りにも無責任です。勿論、成り行きでこうなっているのは分からないではないのですが、ジャーナリズムなどにはもう少し見識を求めるというのは無理なのでしょうか?

3つ目はアベノミクスです。金融緩和政策を批判して「出口へ」という主張がありますが、かといって世界中がいい加減な財政をやっている中で日本が引き締めをやれば、円高になります。そのメリットを国民に還元しつつデメリットを抑えるためには具体策が必要ですが、その提案はありません。また「第3の矢」の遅れは大問題ですが、安倍政権以上に踏み込んだ構造改革をやるのかやらないのかという姿勢をそれぞれの反対派は明確にすべきと思います。

4つ目はエネルギー政策です。政局が流動化すると、必ずエネルギー政策で集票しようという動きが出てきます。ですが、仮に原発再稼働をこれ以上抑えるのであれば、少なくともEV(電気自動車)普及や排出ガス削減は諦めなくてはなりません。どんな主張も自由ですが、そのように深刻なトレードオフがあることを隠して民意を弄ぶようでは、政権交替に成功しても、やがて行き詰まるでしょう。

今のままでは、野党にも、そして自民党内の非主流派にしても、政局にするだけの決意も能力も政策も見えない」としか言いようがありません。とにかく「森友問題」という流れと空気に乗るだけで、「その後」を考えないというのは政治家もメディアも無責任ではないかと思うのです。

image by: 自由民主党 - Home | Facebook

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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