異色の生協「生活クラブ」で、起業する組合員が続出している理由

 

起業する女性たち&生産者との新しい関係~生協異端児の神髄

八王子の周辺で高齢者に人気の宅配弁当がある。食事サービス「加多厨」。1食720円とやや高めだが、おいしいと評判になっている。

その調理場を覗くと、それぞれの弁当には名札が。よく見ると、どの札にもその人の好き嫌いに関する情報が書かれている。魚が苦手な人には、たった1人分でも肉を焼き、煮物の総菜も注文によって細かく刻んでくれる大手にはマネのできないきめ細かいサービスが高齢者の心をつかんでいるのだ。

「手はかかりますが、なるべくご要望に応えるということでやっています」と言うのは、生活クラブ組合員の石井信子さん。だが、この宅配弁当は生活クラブが展開しているのではない。経営するのは組合員たち自身なのだ。やはり組合員の渡辺純子さんは、「もっと自分の存在意義というか、地域で『自分たちはこんなことを考えている』と示せる事業をしたいと思った」と語る。

生活クラブ組合員の中には自ら起業する女性が多い。横浜市の女性たちはパン屋さんの開業準備の真っただ中。「4月6日にオープンするので試作品を作っている」と言うのは、代表の和気千愛さんら組合員6人。この6人全員が経営者だ。

生活クラブはそんな女性たちの起業を後押ししている。組合員は様々な消費材の開発に関わる中、自ら社会に役立てるもの作りをしてみたくなるのだという。

「ぜひいろいろな生産者の方とつながって、その思いを伝えながら、私たちのパンを伝えていきたいと思います」(和気さん)

現在までに生活クラブの組合員が始めた事業は600以上。牛乳の共同購入から始まった女性たちの自立は、今も広がりつづけている。

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太平洋に面する岩手県の重茂漁港。作業場で行われていたのは丁寧にわかめの筋を切り取る作業だ。重茂のわかめはこの海域の荒波で肉厚に育つのが特徴。生活クラブに長年、出荷してきたものだ。

そんな重茂の人々には、生活クラブに感謝してやまないことがある。7年前の震災で壊滅的被害を受けた重茂。いつもわかめを届けてくれる漁師の人々へと、生活クラブの組合員がカンパをしあい、漁船をプレゼントしたのだ。

「生活クラブは自分たちのことだけを考えず生産者のことを考えてくれる。ありがたいです」(重茂漁協組合長・伊藤隆一さん)

そんな生活クラブと生産者の関係は早朝の栃木県でも見られた。組合員が作った那須塩原市の牛乳工場に原乳を納めている酪農家。朝の搾乳前に欠かせないのがタオルだ。できる限り雑菌が混入しないようにと、1頭につき1枚を使い、乳を拭いていく。

「この原乳があってこそ、パスチャライズド牛乳が、低温殺菌であっても安全安心な牛乳になるんです」(藤田与一さん)

これこそがおいしい牛乳の秘密なのだ。そして、そこで使われる膨大に必要なタオルは、牛乳工場に関わる全ての酪農家への、組合員からの心遣いだった。

「旅館に行ったときのものとか、いろいろなタオルがあります。そういう人が飲んでくれていると思うと、自信を持って出せるような牛乳を生産したいですね」(藤田さん)

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