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日本に見切りをつけたトランプ氏と「ゴルフ外交」やってる場合か

先日掲載の記事「金正恩の訪中をテレビで知った安倍首相の失態と底が見えた外交力」などでもお伝えしているとおり、目まぐるしく変わる朝鮮半島情勢に完全に乗り遅れた形となってしまった日本。安倍首相は今月訪米しトランプ大統領との首脳会談に臨む予定ですが、大統領とゴルフをラウンドする方向で日程を調整中と報道されています。これについてジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の中で、朝鮮半島の和平プロセスが進む中での首相の「ゴルフ外交」の敢行は「国辱もののごますり幇間外交」と一刀両断しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年4月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

いくら何でもこの際、ゴルフ遊びは止めて貰いたい──安倍首相のフロリダ訪問

安倍晋三首相は、今月17~20日の日程で訪米し、そのうち17~18両日をフロリダのトランプ米大統領の別荘に滞在して日米首脳会談を開くだけでなく、隣接するトランプ氏所有のゴルフ場でプレーを実現すべく段取りを進めているのだという。

会談場所をここにしたいと申し入れたのは安倍首相側であり、それは、昨年2月にもここで第1回の首脳会談と27ホールのゴルフ・プレーを行って大いに親密さをアピールした、輝かしき“成功体験が忘れられないからだろう。

トランプ側も心得たもので、「2匹目の泥鰌」狙いが見え透いていても無碍に断ることはせず、3日付日経の解説によれば「日本側の求めに応じ米側の計らいで」実現した。「今回もゴルフをセットするか?」という打診は米側から来たようで、8日付日経によれば「ゴルフは米側が提案した」というが、場所をフロリダにしてくれとお願いしたのはゴルフ・プレーをセットにしてくれとおねだりしているのと同じことで、そのように米側が計らってくれるのを待っていたのである。

なぜこんなセッティングをしようとしたのかと言えば、前出の3日付日経の解説によれば「会談の成果が乏しくても最低限の親密さを強調できるためだ」である。

恥ずかしいを通り越して、国辱もののごますり幇間外交である。北朝鮮の金正恩委員長は「体制の存続」を賭けて、祖父も父もこの65年間を費やして成し遂げることの出来なかった朝鮮戦争の全き終結を求めて、命懸けの勝負に出ていて、韓国の文在寅大統領も中国の習近平国家主席もロシアのプーチン大統領も、そのことの歴史的意義を深く理解し、それぞれの自国にとっての安全保障上および経済的な利害を真剣に考慮した上て、何とかしてこのプロセスを成功させようと協力を惜しもうとはしていない。それに対してトランプが何をどこまで理解しているのかは計り難いけれども、少なくとも北の呼びかけに直ちに応じて、これに真剣に対処しようとしているのは事実である。

その真っ最中に、安倍首相はこのプロセスの推進に貢献すべき何の積極的な提案も役割表明の用意もないまま、「いや、私はこの新展開から置いてきぼりになっていませんよ」ということを主として国内的に示すために、事もあろうに、トランプとゴルフをやって見せる。

日本国民の1人として、心からお願いしたい。日本が世界の問題に真摯に取り組むつもりであることを示すには、日米会談はフロリダのリゾートではなく、ホワイトハウスの大統領執務室で行うべきである。そして、フロリダであろうとどこであろうと、関係者全員が命懸けのようにして北東アジアにおける戦争と平和の瀬戸際の駆け引きをしている最中に、ゴルフで遊ぶのだけは止めてほしい。いや、安倍首相がやりたいならどこででもやればいいが、すでにそのせめぎ合いの一員であるトランプをこんな忙しい時に遊びに誘うのは止めてほしい

ずっと失敗だった対米外交

安倍首相の対トランプ外交は実は、ほとんど失敗続きである。そもそも、16年9月の訪米時に「日米同盟を覆しかねない言動を繰り返すトランプ氏が大統領になることへの危機感」(当時の産経新聞報道)から、トランプを一切無視してヒラリー・クリントン=民主党候補との親密さを演出し続け、やがてトランプが優勢になり勝利してしまうと、一転、慌てふためいて、同年11月にまだ就任前のトランプをニューヨークのトランプ・タワーに訪問して1時間半も会談した。

しかしこれは、まだホワイトハウスの主がオバマであるという時に、外国の首脳として冒してはならない禁じ手で、実際、オバマの広報官は「米国には大統領は1人しかいない」と安倍首相の非礼を詰った。

しかもこの時に安倍首相がお土産にしたゴルフのドライバーが丸っきりの見当はずれで、当時本紙はこう書いた(CONFAB No.265 16年11月26日の項)。

【安倍首相のお土産の意味?】

 

安倍晋三首相がトランプにプレゼントしたゴルフクラブが、50万円ほどする「本間ゴルフ」製の最高級ブランド「BERES S-05」の中のまた最高級グレードの「5S」であることは、スポーツ紙などで数日前から報じられていた。5Sというのは、シャフトの最高級グレードを示す記号で、シャフトだけで1本25万円もする。トランプは早速梱包を解いてクラブを振り回し、「飛びそうだ」とご満悦だったそうだが、トランプがお返しにくれたのは自分が所有するゴルフ場のマークが入ったゴルフシャツで、まさにお互いの相手にかけた期待度の不均衡を象徴していた。

 

さらにおかしいのは、「本間ゴルフ」は日本の老舗ゴルフクラブ・メーカーには相違ないが、2005年に倒産した後、10年に上海の奔騰企業に88.7%の株式を買収されて傘下に入り、さらに今年10月6日には香港で上場を果たした、今やれっきとした中国系企業なのだ。『人民日報』日本語電子版「人民網」はこれを「安倍氏が保護貿易主義者であるトランプ氏に対する警告を暗に示したもの」と分析した(と韓国『中央日報』は書いているが「人民網」上では未確認)、もしそんな意図を潜ませていたのだとしたら、安倍首相もなかなかだということになる。

 

しかし実際は、官邸から「一番高いゴルフクラブを用意しろ」と言われた外務省職員が、本間ゴルフの八重洲店に飛んで行って買ってきた。BERESは本当は完全オーダー制なので注文から1カ月かかる。それでは間に合わないので、店頭に恭しく飾ってあった展示見本品を「これでいいから下さい」と鷲掴みにして来たというのが本当で、たぶんその職員は1カ月前に本間ゴルフが香港上場したことを知らなかったのだろう。

 

安倍首相はトランプに「TPPは“中国包囲網”戦略として大事なのだから米国が降りるのは困る」と言いに行ったんですからね。その目一杯張り込んだお土産が中国系企業の製品だったとは……。後になって知った官邸が「首相に恥をかかせた」と激怒してその職員をクビにしたりすることがないよう祈るばかりである。

付け加えれば、このクラブが完全オーダー制であるということは、その人のスイングを機械計測して、最適のシャフトの長さや硬軟やしなり具合、それに見合ったヘッドの重さやロフトや左右上下のバランスなどをすべて完璧に仕上げていくわけで、店頭に見本として置いてあったクラブをそのまま持って行ってトランプのスイングに適合するということは100%あり得ない。そういうこともわきまえずに、「高ければ喜ぶだろう」と思ったところに、安倍首相の外交&ゴルフ音痴が露呈している。

今度もしゴルフをするなら確かめてみればいいが(少なくともマスコミはそこに注目して報道すべきだが)、たぶんトランプはそのクラブを使っていないと思う。ゴルフを外交に活用するということは、もちろんあってもいいし、岸信介とアイゼンハワーとの間では実際にあって、安倍首相としてはそれを真似しているつもりなのだろうが、外交のスキルもゴルフの造詣も半端だと漫画になってしまう。

「日米は100%一致している」という決まり文句

こんな風に、安倍首相のトランプ政権に対する外交は間が抜けていることの連続である。

トランプがダメでも日本が先頭を切ってTPPを守って「TPP 11」として推進すれば、いずれ米国が戻ってくるという絵図もすでに破綻しつつあって、それどころかトランプは「通商法301条」「スーパー301条」「不公正貿易慣行」「輸出自主規制」等々、30~40年前に使われて今では死語となっていた通商ゾンビ用語を総復活させて振り回し、さらにはそれを韓国には適用せずに日本には平気で適用するという、著しく非友好的な態度を剥き出しにした。

その時にトランプが3月23日に吐いた言葉は、たぶん安倍首相を眠れないほど苦しめたのではないか。いろいろな訳が出回ったので、私なりに訳し直すと、こうだ。

私は日本の安倍首相らと会談することになるだろう。彼はいい奴だし友達だが、〔その時〕彼らの顔にはほんの少しの微笑しか浮かばないだろう。その微笑とは『こんなにも長い間、米国に対する〔通商上の〕有利を貪ってこられたのは信じられないくらいだ』という微笑だ。しかしそういう日々はもう終わる。

 

(I’ll talk to Prime Minister Abe of Japan and others, great guy,friend of mine, and there will be a little smile on their face and the smile is: ‘I can’t believe we’ve been able to take advantage of the United States for so long.’So those daysare over.)

どうせトランプはその場の思いつきでしゃべっているので、いちいち気にすることはないとは思うけれども、しかしこの口ぶりは、少なくとも「100%一致している人はもちろん、ある程度は好意を持っている人に対して言える台詞ではない。だからフロリダでは、「ゴルフなどやっている場合ではない」との認識の下、安全保障でも通商でも、どうやってトランプの気紛れと真剣勝負するか、戦略戦術から言葉遣いまでを真剣に練り上げて臨むべきであるけれども、そういう感覚は安倍首相には絶無である。

日米が「100%一致している」とは、安倍首相が対北朝鮮戦略に関して言い続けてきたことで、それは北に対する「対話のための対話」は拒絶して、米国を盟主として日韓がその両脇を固めた「米日韓反共軍事同盟という超時代錯誤の図式で、戦争をも辞さない覚悟で「最大限の圧力」をかけ続けるという、つまるところ「圧力のための圧力路線にほかならなかった。しかし、その方向性で日米が「100%一致している」というのは虚偽で、米国の一部冷戦勢力やネオコン残党などはそうかもしれないが、全部がそれで染まっているわけではない。だからトランプは、南北が手を携えて米国を「和平」プロセスに引き込もうとした時に即座にそれに対応して、圧力と対話のダブルトラック路線を採ってきたのであって、最初から100%一致していることなどあり得なかった

で、こうなってしまうと、安倍首相は日米が「100%一致している」と言い続けてきたことについて、国民に対して誤判断を認めて謝罪し、そこで気を新たにしてこのようにしに北東アジアの平和と日本の安全を実現して参りますという構想を示さなければならないはずだが、彼にはその発想も力量も何もない

その外交的・戦略的白痴状態のまま、何とかして朝鮮半島の和平プロセスの落伍者ではなく、何らかの意味ある存在であることを内外に示すために、安倍首相が思いついたことはと言えば、トランプとゴルフをして日米首脳がゴルフ趣味において「100%一致している」ことを天下に知らしめることでしかなかった。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年4月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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image by: 首相官邸

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