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コインチェックたった36億の買収劇。中島聡が感じた不可解な点

1月に世間の耳目を集めた「コインチェック騒動」ですが、4月6日、コインチェック社はマネックスグループの完全子会社になることを発表し、再び世間を驚かせました。この記者会見を見た、メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さんは、たった36億円の買収劇について「安すぎる」と不可解さを感じたことについて記しています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年4月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじまさとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

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マネックス、コインチェック社を買収 松本CEO「将来はIPO目指す」

上のリンクは、580億円相当の仮想通貨NEM流出を起こしたコインチェックが、36億円でマネックスの100%子会社になると発表した時の記者会見の様子です。

コインチェックは、NEMの流出により消費者の信頼を裏切っただけでなく、その後の金融庁による立ち入り調査の結果、顧客の資産と会社の資産を明確に分割していなかったなどの問題点が可視化し、このままでは事業者として運営を続けるのが難しい状況に追い込まれていたのだと思います。

コインチェックは、NEM流出被害者への補償として、460億円を現金として返却することを発表し、「そんなに儲かっていたのか!」と多くの人を驚かせました。世界でもトップ10に入る取引量と、上手に設計された(異常なまでに高い)手数料により、莫大な利益をあげていたことは確実で、その会社がわずか36億円で買収されるというのは、それほど数字に強い人でなくても異常だということは分かります。

記者会見のやりとりを見ると、「事業が継続できないかもしれない」というリスクを考える買い手(マネックス)と、「事業が継続さえ出来れば莫大な利益を生み出せる」と考える売り手(コインチェックの株主)との間で、売買価格に大きな開きがあり、それをアーンアウトという仕組みで解決したそうです。

アーンアウトとは、この手のハイリスクハイリターンの買収に使われる手法で、すぐに支払われる買収金額は低く抑えつつ、もし事業継続が可能で、かつ、利益を上げることが出来れば、その利益に応じたお金が売り手に支払われる、という仕組みです。

具体的な数字は公開されていませんが、私が買い手であれば「1年以内に金融庁からお墨付きをもらうことが出来、かつ、ひと月の利益が10億円を超えた場合、その超えた分の30%を買収後3年間支払う。ただし、顧客からの訴訟などが継続している場合は、その50%を補償費用として保持し、弁護士費用、賠償金などを差し引いた後に支払う」などの条件を提示して交渉しただろうと思います。

一つだけ不可解なのは、コインチェックが内部保留していたはずの利益や、会社自身が所有していた各種暗号通貨の含み益の存在です。460億円の現金を補償金として支払うことが出来たコインチェックが、さらに数百億の利益を内部保留していた可能性は十分にあります。それまで含めて36億円で買収できたのであれば、とんでもなく安い買い物です。

これも私であれば、内部保留分や暗号通貨の含み益は、顧客からの訴訟への対応のための予備費として保持しておき、それが解決した後に、アーンアウトと同じく、既存の株主に払い戻すという形がすっきりとして良いように思えます。

These solar panels that can pull clean drinking water out of the air just got a big boost

屋根に取り付けるだけで、空気中の水分から水を作り出すことが出来る、特殊なソラーパネルを作っているベンチャー企業Zero Mass の紹介です。

日本は幸いなことに安全な水が豊富ですが、世界の人口の約40%清潔な水の入手が困難な状況に置かれており、不潔な水しか手に入らないために伝染病に悩まされている地域が沢山あります。

そんな地域の人たちにとっては、低コスト空気中から水を取り出してくれる装置はとても貴重です。

これまでのアプローチは、汚い水を飲料可能な清潔な水に変えてくれる浄化システムが一般的でしたが、効率を重視すると、どうしても大規模なインフラ(浄水場、水道システム)の建設が必要でした。

Zero Massのシステムは、小規模で電源すら不要なので(必要な電気はソーラーパネル自身が太陽光で発電して作り出します)、大規模なインフラを整えることが出来ないような地域や、インフラが破壊されてしまった災害時などに役に立ちそうです。

この記事を読んで思い出したのは、中国資本による日本の水源への投資です。数年前に、綺麗な水が湧き出す日本の山中国資本が積極的に購入しているという話を読んだことがあります(参照:中国資本が日本の水源地を買収 危機感強める林野庁、調査開始)。とても気が長い投資ですが、中国にも水不足に悩まされる土地が沢山あり、そこに向けて飲料水を輸出するというビジネスが始まっても全く不思議ではありません。

手数料ゼロでも利益が出るアリペイの秘密

キャッシュレス社会の実現に関して、中国は、日本だけでなく、米国までも一気に抜いてしまいましたが、そこにはアリババテンセントという二つのインターネット企業の非常に巧みなビジネス戦略があったことを丁寧に説明している良い記事です。

米国は、日本と比べるとはるかにキャッシュレス化が進んでいますが、その背景にはクレジットカード会社間の激しい戦いがあり、その中で少額決済の割引と、航空会社を絡めたマイレージポイントが普及に関して重要な役割を果たしています。

中国は、破壊的なまでの手数料の安さと、広告収入ローンなどを組み合わせたビジネスモデルで、露天商から道端の物乞いまでが QR コードでのペイメントを受けることが出来るという、「キャッシュレス革命」をわずか数年で起こしてしまったのです。

image by: MAG2 NEWS

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2018年3月分

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