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結局、あの「消えた年金記録問題」とは一体なんだったのか?

2007年、日本中に衝撃が走った「消えた年金記録問題」。旧社会保険庁が解体され、政権交代が起こる原因にもなったこの問題ですが、10年以上を経た今でも、あの問題は何だったのか、その後どうなったのか、すべてを理解している人は少ないのではないでしょうか。この件について、無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者・hirokiさんが詳しく解説しています。

あなたの年金記録は大丈夫? 消えた年金記録問題はまだ終わっていない!

平成19年2月の事ですが、この第一次安倍内閣の時に「消えた年金記録問題」というのが大きな問題となり、日本中にとてつもない衝撃が走りました。

この時に判明したのが、平成18年8月時点で5,095万件の誰のものかわからない年金記録がある事が判明し、平成19年の参院選、平成21年の総選挙で自民党が大敗して、旧民主党が大勝して政権交代が起こる大きな原因にもなりました。

今の日本年金機構の前身である旧社会保険庁も平成21年12月をもって解体された。55年体制(1955年に自民党が誕生して与党第1党としてずっと自民党が政権を取ってた)と言われた自民党政権が重大な年金問題の発覚によって崩れ去ってしまった。

5,095万件の記録というのは、5,095万人という意味じゃなくて被保険者と年金受給者合わせると3億件ほどあった記録の内の5,095万件という意味ではありましたが、それにしてもすさまじい衝撃的な数字でした。

現在の年金記録は、人それぞれ一つの基礎年金番号というので管理されています。昭和61年にどんな職業に就いていようが20歳以上60歳未満の人は全員国民年金(基礎年金)に加入して、生涯を通じて同じ番号を持つという基礎年金番号というものが平成9年1月に付されることになりました。

昭和61年3月までは、民間企業に勤めている人は厚生年金公務員は共済年金自営業の人や5人未満の零細企業の人等は国民年金に加入するというふうに制度が別々に分かれていて、加入する制度が変わると新たな番号が付されるというような事になっていました。

また、同じ制度に転職(例えば民間企業から転職して再度民間企業に就職)した場合は普通は同じ番号のはずなんですが、ここでもまた新たな番号が付されたりしていた。よって、基礎年金番号ができるまでは、一人で複数の番号を持つという事が少なくなかったわけです。

基礎年金番号が導入されたことにより、これらの複数の番号をお持ちの人はその基礎年金番号に統合していきました。しかしそれが完全に統合されずに残っていた年金記録が「宙に浮いた年金記録問題」として5,095万件もの誰のものかもわからない記録として残っていたことが判明しました。誰のものかもわかんないから「宙に浮いた年金記録問題」とか、「消えた年金記録問題」、「消された年金記録問題」とも呼ばれます。

さて、歴史を遡ると今の厚生年金というのは昭和17年6月から始まりました。この時は手作業による紙台帳に記録され、昭和32年にはパンチカードシステムによる記録の機械化が始まり、昭和37年にはコンピューターの磁気テープによる管理が始まり、昭和61年にオンラインシステムによる記録の一元化が完成しました。まあ共済組合も最初は紙台帳による管理でしたね。

一方、保険料を支払う形の国民年金は昭和36年4月にできましたが、この時は市町村から交付された国民年金手帳に印紙を貼る方式で保険料が納められ、市町村で管理がされていました。昭和40年から磁気テープによる管理が行われて、昭和60年にオンラインシステムが完成。このような経緯を辿りました。

宙に浮いた年金記録問題の9割以上はさっきの職業が変わった時に新しい番号ができたとか、結婚前の旧姓のままとか、氏名の読み方が違うとか、生年月日が違ってたとかでした。また、紙台帳からコンピューターに移換されなかったり、職員が移換する際に氏名や生年月日性別間違っちゃったみたいな入力ミスがあったり、納めたはずの保険料が記録に残ってないとかいう事も多数あり、そういうのが「ずさんな年金記録」、「消えた年金記録」として大きく報道されました。

よって、記録を統合するために自民公明と民主党は多額の予算を投入した。宙に浮いた年金記録の突合作業と、平成19年から平成20年にかけて、被保険者と受給者合わせて1億1,000万人ほどの人に年金特別便というものが送られて、年金記録に漏れがありませんか? という確認が行われました。

それと並行して大急ぎで記録の突合作業が行われながら、年金記録が訂正されていって平成20年から平成24年にかけて約230万人の年金受給者の年金額が修正されて、統合により増えた年金は過去に遡って一時金で支払われた。その年金額は約1兆6.000億円にのぼりました。

またその統合の中で問題になったのは「消えた年金記録問題」と「消された年金記録問題」。消えた年金記録問題というのは、本来は厚生年金保険料だったら会社が給与から保険料を天引きして納めるんですが、天引きされてるのにもかかわらず旧社会保険庁にその納めた記録がないとか、またその中には旧社会保険庁の職員の年金保険料着服により消えてしまったものもありました。本人は領収書を持ってるのに年金記録がない事でそういう問題が判明した。こういうのが消えた年金記録問題。

消された年金記録問題というのは、厚生年金保険料は従業員本人と事業主で半分ずつ保険料を負担するわけなんですが、事業主が高い保険料を負担したくないがために、従業員の給与標準報酬月額を実際の額よりも引き下げたり、または会社が厚生年金から偽装脱退したりというもので年金記録が消されたとかですね。こういうのを訂正しながら、平成26年3月に一応の決着がなされました。

決着といっても、記録が解明した件数は3,012万件で、そのうち年金受給に結びついたのは1,771万件で、あとはもうすでに亡くなられてたり、過去の一時金として貰っちゃってて年金受給権がないものは1,241万件となってます。既に亡くなられてた場合は未支給年金として遺族に支払われた。それ以外は今なお2,000万件ほどの記録が未解決となっています。まあ、打ち切りという感じですね。かなり解明が困難という事で。

この2,000万件のうち、840万件くらいは特別便の対象になったけど回答が無いから持ち主が判明してないという状態で、920万件ほどが持ち主の手掛かりがいまだ得られていない記録。こういう所は本人で探すという事が必要となってしまった。

年金というのは本来、自ら請求する事により年金支給が発生するのでその請求時に本人の過去の記録の間違いがあれば訂正すればいいやっていう管理の甘さが招いたものでもあり、そういう旧社会保険庁の杜撰な管理に問題が明るみになって、平成21年12月をもって社会保険庁は解体され、平成22年1月からは年金業務は日本年金機構に引き継がれました。そして今は毎年誕生月にねんきん定期便が送られて、直近1年間の記録が記載されています。

なお、年金定期便は35歳、45歳、59歳になるとそれまでのすべての記録が記載されたものが送られてきますので怪しい所は必ずチェックするようにしましょう。

この節目年齢時のねんきん定期便には今までの年金記録が記載されてますので、記録に漏れや誤りがある場合は同封されてる年金加入記録回答票に調べてほしい期間を記載して返信しましょう。

ねんきん定期便(日本年金機構)

また、今は年金機構のHPで簡単に自分の年金記録が確認できる年金ネットもあるので、ちゃんと記録されてるかなー? と随時チェックする事もできます。年金ネットはとても便利。

年金記録漏れは、特に年齢が高い人ほど年金記録が本当に正しいのかを疑う必要がある。例えば90歳代前後のご年齢の方は、戦前の徴用工(日本国の命令により戦争の為に必要な職務に就いていたとか)として働いてた人も多いからそういう記録漏れがある可能性が高い。徴用工として民間企業で働いた部分は厚生年金になる。

自分の記録が欲しい人は年金事務所で被保険者記録を貰う事もできます。空白の期間があるところはね、怪しいですね。確かこの期間はあの会社で働いてたはずなんだけどなあ…という人は、年金事務所で被保険者加入期間照会申出書を貰って郵送した後に回答が送られてきます。記録があれば年金に結びつく場合がありますし、記録が無ければなかったと回答が来る。

そういや、平成20年代前半は多くの年金記録訂正で過去に遡って年金額が変更して、その年金受給者の人には沢山の年金の書類が送られてくるもんだから、送られた受給者の人にとっては意味が分からないから「いきなり大量にこんなもの送ってくるとは何事だ!!」とよく怒られました^^;。

それは過去に遡って年金額を訂正したという書類なので、今まで正しい年金記録で支給されなかった分の振り込みが何月にありますという事ですとあの時はてんやわんやだった。人によっては1,000万以上の年金が遡って貰える人もいたから、この年金記録問題は今もなお重要な問題です。数百万単位に上る事は割とよく見かけましたね。

もしかしたら僕の読者様の中にも年金記録が訂正されて、過去に遡って支払われてなかった年金が一時金で支払われた人もいるかもしれませんね。いきなり何のお金!? ってビックリされたかもですね^^;。

本来、年金は5年の時効がありますがこういう年金記録漏れによる年金額の訂正は5年の年金を適用しないため、年金受給権が発生した時にまで遡って年金が支払われます。例えば現在80歳の人に過去の記録漏れが見つかって、60歳の時に70万円の厚生年金が100万円に増額した場合は、その差額である30万円を20年分支払う。つまり、総額は600万円が支払われることになる。

というわけで今から年金貰う人もそうですが、すでに受給者の人も時々自分の年金記録をチェックしましょうね^^誰かと年金の話をする時はあなたの年金記録は大丈夫? って感じで声を掛け合うのも大切かと思います。

 

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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