著者は30年にわたって監察医を務めた。検死を通して法医学の面白さに気づき、監察医という仕事に大きなやりがいを見出したからだ。死体の状態から、自殺か事故か、あるいは他殺なのかを見極めるのが仕事である。死体所見から「実は私は殺されたんです」という、被害者の叫び声を聞き取ることができた。
監察医は、もの言わぬ死者の声を正確に聞き取る「死者の通訳」のような存在である。しかし、監察医は不足している。監察医制度にも地域格差がある。また、社会の変化に対応できない法制上の問題がある。変死体の概念の甘さが犯罪を見逃す原因である。筆者は新しい検視官制度の導入を提案している。
「監察医は死者の名医でなければならない」「状況に惑わされずに、死体所見から得られた事実をきちんと主張する。状況は後からいくらでも偽装できるが、死体は死亡時の生活反応を残すので、死後の偽装はできない。また、生きている人間は嘘をつくが、死体は絶対に嘘をつかない」「どんな方法であれ、楽にキレイに自殺できるという方法はない」と筆者は断言する。とくに自殺については重要な指摘だと思う。
編集長 柴田忠男
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