今や家庭の食卓やお弁当に欠かせないソーセージなどの加工肉ですが、先日出揃った2018年3月期連結決は、各社ともに苦戦を強いられるものでした。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんによると、その原因は原材料の高騰にあるとのことですが、ではなぜそのような状況の中でもスーパーなどでの「加工肉の安売り戦争」が続いているのでしょうか。佐藤さんは記事内でそのカラクリも明かすとともに、大手3社に必要な視点について記しています。
原材料高でも「ソーセージ」の安売り戦争が終わらない理由
ハム・ソーセージメーカー大手3社の17年度の決算が出そろいました。3社とも、本業の儲けを示す営業利益で苦戦を強いられています。
最大手の日本ハムの2018年3月期連結決算(米国会計基準)は、売上高が5.6%増の1兆2,692億円、営業利益が8.5%減の492億円でした。
全売上高が伸長したなか、ハム・ソーセージ部門の売上高が0.7%減ったほか、運賃や人件費が上昇したことや、食肉相場や原料価格の高騰により海外事業の営業損益が47億円の赤字に拡大(前期は12億円の赤字)したことなどが影響し、全体の営業利益が減少しました。
業界2位の伊藤ハム米久ホールディングスの18年3月期連結決算は、売上高が5.0%増の8,318億円、営業利益が0.5%増の215億円でした。営業利益は微増となったものの、売上高の伸びに追いつかなかったため、売上高営業利益率が悪化しています。
ハム・ソーセージが好調に推移したこともあり加工食品事業の売上高が増加した一方で、原材料価格の高騰などにより同事業の営業利益が減ったことなどが影響し、全体の営業利益が微増にとどまりました。
業界3位のプリマハムの18年3月期連結決算は、売上高が8.6%増の3,945億円、営業利益が15.6%減の131億円でした。
同社も、ハム・ソーセージが好調に推移し加工食品事業の売上高が増加した一方で、原材料価格の高騰などにより同事業の営業利益が減ったことなどが影響し、全体の営業利益が減少しました。
3社とも営業利益の面で苦戦を強いられたわけですが、事情はそれぞれで若干異なる一方で、「ウインナーの好調」と「原材料費の高騰苦」という2つの点が3社で共通しています。
ウインナーはソーセージの一種で、ひき肉を羊腸または20mm未満の太さの詰め袋に詰めたものをいいますが、3社ともウインナーの販売が好調でした。
日本ハムは、ハム・ソーセージで苦戦を強いられたものの、その中でもウインナーは好調で、「シャウエッセン」の売上高が前年並みで推移し、「森の薫り」と「豊潤」は42%増と大きく伸長しています。
伊藤ハムは、ウインナーの「The GRAND アルトバイエルン」が6.3%増、「御殿場高原あらびきポーク」が0.9%増とそれぞれ好調でした。
プリマハムは、ウインナーの「香薫あらびきポーク」が16年に開催された食肉業界最大の国際見本市(IFFA)のコンテストで金賞を受賞したほか、ドイツの農業協会が主催する17年の国際品質競技会(DLGコンテスト)でも金賞を受賞するなどで販売が好調です。
3社とも近年ウインナーの販売には力を入れており、積極的にテレビCMを放映し、安値で店頭展開するなどしています。そのためか、ソーセージの物価は近年下落傾向が続いています。政府が発表している消費者物価指数を見てみるとそのことがわかります。
食料品全体の物価は18年に入ってやや下落傾向にあるものの、それまでは緩やかながらも上昇傾向にありました。15年を100とした場合、18年1月が105.9、4月が102.8となっています。
一方、ソーセージの全国平均の物価は右肩下がりとなっており、18年4月が95.1となっています。東京都区部に限ると落ち込みはさらに大きくなり、18年4月は90.8にまで低下しています。
こうした傾向はハムやベーコンなどを含めた加工肉全体でも見られます。ただ、東京都区部ではソーセージの下落が加工肉の中でも顕著です。東京都区部の18年4月の物価指数は、ハムが94.4、ベーコンが95.3だった一方、先述した通りソーセージは90.8と大きく落ち込んでいます。
多くのスーパーではウインナーを加工食品売り場の中でも目立つ場所で展開しています。また、特売品としてチラシに掲載し、集客の目玉にすることも少なくありません。特に近年はウインナーの安売り競争が激しさを増しています。そのことがソーセージの物価の下落につながったといえるでしょう。
商品の価格は基本的にスーパーなどの小売り側が決めます。一方で、メーカーはリベート(販売奨励金)を小売り側に支払うことで値引きの原資を提供し、間接的に価格をコントロールしようとします。
メーカーとしては、加工肉の中でも人気が高く家庭でよく消費されるウインナーの販売に対して多額のリベートを支払い、店頭価格を大幅に引き下げ、利益を削ってでもシェア拡大を目指すことがあります。近年はそれが顕著です。
また、メーカー各社はテレビCMの放送にも躍起になっています。たとえば、伊藤ハムは俳優の松重豊さんを起用した「御殿場高原あらびきポーク」の新テレビCMの放送を4月から開始しました。このように大手各社は巨費を投じてテレビCMを放送するなどしてブランドの認知度を高め、シェア拡大を狙っているのです。
ただ一方で、原材料価格が高騰しているという問題もあります。少なくない宣伝広告費がかかる上に原材料費の上昇という要素が加わっているため、利益が大きく削られているという現実があります。
しかし、それでも大手3社はシェア拡大の手綱を緩める気配を見せません。大手3社としては利益を削ってでもシェアを拡大し、大手間の競争に勝とうとするだけでなく、原材料の高騰で価格競争力を発揮できない中小のメーカーを打ち負かし、そして排除しようとしています。筆者にはそう映っています。
大手3社は原材料価格の高騰で苦しんでいますが、中小に比べれば耐えるだけの体力があります。そのため、原材料価格が高騰しているからこそ逆にシェア拡大のチャンスが到来していると大手は捉えているのではないでしょうか。
ただ、それでは業界全体の発展にはつながりません。中長期的には寡占化により売り場での選択肢が狭まるため消費者の利益にもならないでしょう。大手3社には、業界全体の発展という視点が必要ではないでしょうか。
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