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日大アメフトや忖度事件に共通。「3つの絶望」が衰退を加速する

いま日本社会を騒がせている大きな問題といえば、日大アメフト部による「悪質タックル問題」と、いわゆる忖度事件といわれる「モリ・カケ問題」の2つではないでしょうか。これらの背景には同じ「3つの絶望」という問題が流れていると指摘するのは、アメリカ在住の作家・冷泉彰彦さん。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、この日本社会の病巣ともいうべき「絶望」について語るとともに、大きく変わりつつある世の中の動きから見え始めた「希望」についても記しています。

「3つの絶望」が衰退を加速する

それにしても、日大アメフト部の危険タックル問題というのは、呆れるしかありません。アメリカでNFLのプロや大学リーグ、あるいは地元の高校の試合などを見てきた自分としては、ちょっと信じられない感じです。とにかく、行為として危険ですし、あんな風に露骨にやるというのが何とも悪質です。

今回お話ししようとしている「3つの絶望」とは、

中長期的に正々堂々と組織を立て直すだけの力量も資源もないという絶望

 

したがって生き延びるためには手段を選べないという絶望

 

そんな中で正義や倫理を振りかざす人間は<持てる側>だけだという絶望

 ということです。

この「3つの絶望」という考え方を前提にしますと、以下のような現象についても説明ができるように思います。

1)上から降ってくる命令ないし、上から降りてくる期待感というのは、短期的な結果を求めるあまり、倫理的にも、コンプライアンス的にも、中長期的な利害という意味でも「誤り」であることが多い。だが、その「絶望的な判断」に逆らうことはできず、むしろ「誤り」だからこそ服従しなくてはいけないということ。

 

2)そのような「誤った」価値観や判断に基づく命令は、「誤って」いることは明らかなので、上から下には「明確な命令」としては来ないか、「仮に明確な命令として」来たとしても「徹底して隠蔽しなくてはならない」ということ。では「避けるべき悪」かというと、「生き延びるためには仕方がない」という絶望に支配される中では「やる」という選択しかなくなるということ。

 

3)その結果として、組織の「下位から中位の人間」には、「自分がスケープゴートにされる危険」が待ち構えているが、それでも逆らえないということ。

 

4)組織の「下位から中位の人間」が、そのような悲劇的な判断に追い込まれる際には、恐らくは「空気」というような非言語コミュニケーションの圧力も作用しているであろうこと。

 

5)外部からの正論による批判は、「苦労を知らないキレイゴト」、あるいは「特権階級の上から目線」として、実に簡単に無視されてしまい、そこに罪の意識もないこと。

といったメカニズムとして作用していると考えられるからです。

似たような事例は、ここ数年の日本社会には数多く見られます。更に見ていくと、このような現象の背景には「3つの絶望」という問題があるように思います。それが、個々人に、あるいは社会全体に蔓延していく中で、最終的に社会全体の活力も、個人の幸福も破滅させかねないのです。

政府内の問題としては「一連の忖度事件」がそうですが、森友にしても加計にしても、「事件そのものの悪質度」は大したことはないと思います。それよりも、日本の社会は、特に日本の官僚制はそのような「3つの絶望」を抱えたものだということを「完全に既成事実だと突きつけたばかりか、それを「ひっくり返せない巨大な山のようなものだと見せたことが問題だと思います。

元国税庁長官にしても、元首相秘書官にしても、知力と胆力の限りを尽くして、この「3つの絶望」と戦っているわけです。その一生懸命さを見ていると、「安全なところから批判している野党やメディアは、非常に滑稽に見えるという人も出てきます。

更に言えば、そんな野党やメディアの方が「学歴も、資産も、収入も」いわゆる「持てる側」というイメージを持たれてしまっています。森友や加計の問題を批判すると、SNSの匿名の世界から非国民」とか「反日といった批判が飛んでくるのは、批判者にはどうにも理解できないし、承服できないでしょうが、その背景にはこの「3つの絶望」があると考えれば、少し認識をズラす事もできるのではないでしょうか。

いずれにしても、このような「3つの絶望」がどんどん組織を侵食する中で、様々な事象が起きています。

例えば、神戸製鋼や三菱マテリアルなどの品質偽装事件もそうですし、全国の学校で「いじめの事例」を教委に報告しずらいといった問題も、これに似ています。

問題は、経済成長が続いていた際には機能していた、日本的な組織の作り方や判断基準などが、現在は機能しなくなっていることです。

例えば終身雇用制が作り出す閉じたコミュニティと、先輩後輩カルチャーといった硬直した上下関係のために、リーダーに向かない人材を管理者に据えてしまうとか、リスクの取れないマネーしかない社会では、リスクの取れない経営をするしかないといった問題がそうです。

では、全く希望はないのかというとそうではありません

例えば自動車産業などは、EV化とAV(自動運転)化、あるいはSAV(自動運転車のシャアリング」という産業そのものの激変を前にして、後ろを向いている余裕はありません。また、国内市場が完全にマイナーな存在になってしまった現在は、グローバルな世界で戦うしかないのです。

また製薬業界などもそうで、知財のマネジメント、そしてグローバルな資本のダイナミックな動きを前にした状況では戦うしかありません。

銀行業界は、巨大な「日本語での」「膨大な紙を使い」「膨大な時間の対面コミュニケーションを」要求するようなドメスティックな「事務仕事」を抱えていたのですが、ここへ来て「そんなカルチャーを抱えていては自滅するだけ」ということで、急速に脱店舗へと舵を切りつつあります

とにかく、こうした産業などを中心として成功事例が積み上がる中から、この「3つの絶望」という「衰退を加速するだけの病」を駆逐しなくてはなりません。日大の事件や、忖度事件はそうした深層にある危機感に触れる問題であり、だからこそ大きな関心を集めているという部分もあるのではないかと思います。

image by: shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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