退職願と退職届、一見そっくりな名前の2つの書類の違いをご存知でしょうか? 今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』で取り上げられているのは、何かとトラブルの多い退職手続きについて。退職にまつわる驚きのエピソードや、知らずにいると大損する事実も交えて、大変わかりやすく紹介しています。
退職願と退職届
退職に関するトラブルは多い…。そこで、今回は、普段から手にしている書類にもかかわらず、あんまり意識していないかもしれない、退職を申し出てもらうのに従業員さんに提出してもらう「あの」書類について、知っておきたいこと。関与先の社長と先輩とのやりとりを観察したい。
O社社長 「こんにちは。今回、従業員が退職するので、雇用保険の手続きをしたいんですが、注意点ってありますか?」
大塚 「退職理由は何ですか?」
O社社長 「自己都合です」
大塚 「自己都合っていっても、『再就職のため』『遠くへ移転するため』『病気のため』場合によっては、『ハラスメントのため』なんて会社側に関連する場合など、様々なケースがありますよね。退職願は、もらってますか?」
O社社長 「いいえ、特にもらってません」
大塚 「雇用保険の喪失手続きにも、原則として退職願や退職届を添付しますので、ご本人にもらっておいてください」
O社社長 「え? そうなんですか。今まで出したことはないかと…。ホントは、必ず添付するものなんですか?」
深田GL 「添付がなくても、受理はしてくれますが、離職理由でトラブルになることもありますので、それを避けるためにも退職願を提出するのが無難ですね。自己都合であれば、なおさらそうするようにしてください」
O社社長 「へぇ~、うちは今までトラブルがなかったけど、今の時代で考えると、ラッキーだったんでしょうね」
深田GL 「そうかもしれませんね。トラブルになるケースは案外あるんですよ」
O社社長 「自己都合以外の退職理由の場合は、添付するものが変わりますか?」
大塚 「期間満了の場合は、労働条件通知書が全期間分必要ですし、懲戒解雇の場合は、その辞令や就業規則などを添付します」
O社社長 「ふーん、いろんな添付書類が必要な時があるんですね」
深田GL 「神戸のハローワークで、懲戒解雇の場合は、本人の懲戒解雇への同意書を求められたこともありましたね」
O社社長 「懲戒解雇の同意書なんて、なかなかもらえそうにないけどね~」
大塚 「そうですよね。ハローワークごとに添付書類が違う場合がありますので、そこは要注意です」
O社社長 「ふーん、そういうものなんですね。ところで、さっきと退職願と退職届っておっしゃいましたが、そのふたつはどう違うんですか?」
深田GL 「どちらも労働者から退職の意思を示す書類ではありますが、基本的には、『退職願』は、合意退職を前提として提出する書面、『退職届』は、辞職を前提として一方的な意思表示である書類と分けることができます」
O社社長 「合意退職と一方的な辞職との違い?」
深田GL 「『退職願』は、労働者からの合意退職の申し込みとなりますので、使用者が承諾をすることで退職が決まります」
O社社長 「…ということは、承諾するまでは、猶予があるわけですね」
大塚 「はい、その間、労働者は退職願を撤回することもできることになります。社長や人事部長など退職に関する職務権限がある人が退職願を受理して初めて承諾がされたと考えられます」
O社社長 「ふうーん、そういうもんなんですね」
大塚 「使用者が、その労働者に、退職を撤回されては困ると考えるならば、すぐに退職の承諾を示す書面を出しておくのが良いですね」
O社社長 「え? そういうもんなんですか?」
深田GL 「前々から退職してほしいなと思う労働者から退職願が出て来て、『やったー!』と思っていた会社が役員クラスで宴会に出かけているすきに、撤回があって、がっくりというケースもきいたことありますよ」
O社社長 「そんな人間ドラマみたいなことが起こるときがあるんですね」
深田GL 「そうですね。裏話ともいえますが」
O社社長 「『退職承諾書』ってどんなこと書いておくものなんですか?」
大塚 「『平成〇年〇月〇日に貴殿から届出のあった『退職願』を受理し、平成〇年〇月〇日の退職について承諾いたしました』って感じでいいと思います」
O社社長 「ありがとうございます」
大塚 「一方、『退職届』は、辞職の申出であり、労働者の一方的な退職の意思表示ですので、極端に言うと、使用者が退職届を受け取った時点で効力が発生しますので、気をつけてくださいね」
O社社長 「え~、そうなの?」
大塚 「ガチガチの言い方をすると、という前提ですが、民法の第627条をご存知ですか? つまり従業員が退職届に記載した退職日と届出日の間が原則14日間以上あれば、法的には使用者はこれを拒めないんです」
O社社長 「14日?」
深田GL 「労働者と使用者が労働契約を終了する場合、3つのパターンがあるんです。予告期間については、一般法である民法627条第1項では、労働者、使用者どちらについても2週間の予告期間があれば、いつでも契約を解約することができることになっています。特別法である労働基準法では、使用者からの契約解消には、30日の予告期間が必要とされています(例外として解雇予告手当を支払うことによる期間短縮は可能)。合意退職は、両者が合意するなら予告期間は不要です」
O社社長 「つまり、労基法上と、民法上と、合意退職のパターンと、3つあるってことなんだね」
深田GL 「はい、そのとおりです」
O社社長 「届を出されちゃったら、終わりってわけ?」
深田GL 「さっき、ガチガチで…と前置きしましたとおり、当然にお話合いの余地があれば、していただいていいですよ。でも、ご病気の場合など、14日も待てないんだなんていう退職理由があれば、そこは仕方ないですよね…」
大塚 「一般的な退職希望時には、『退職願』を書いていただく、先にお話合いがあって退職が決まっているようなケースの場合は、『退職届』でも問題ないですよね」
O社社長 「なんとなく使い分けがわかりました。ありがとうございます」
● 民法第627条
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第627条
- 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
- 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
- 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
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