前回掲載の「外国人労働者50万人の受け入れを決めた日本に起こる、6つの変化」で、外国人労働者を巡る日本政府の発表を受け、モスクワ在住の視点から移民問題に切り込んだ、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。今回は無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』誌上で、読者の方から届いたメッセージに回答する形で、日本特有の外国人労働者政策をよりよく実行できる一案を紹介、今後予見される多民族間内紛の沈静化に繋がると提案しています。
移民、外国人労働者トラブルを激減させた方法(プーチン流)
前回は、「政府が、外国人労働者の数を【50万人】増やすことを決めた」という話でした。
この件、本当にたくさんのご意見をいただきました。ありがとうございます! うれしかったのは、エモーショナルな外国人嫌いの意見がなかったことです。受入れ賛成派も反対派も、どちらも「国の未来」について心配している。今回は、外国人と接することが多い美雉さんからのメールをご紹介します。
北野様
メルマガ読者の一人、美雉です。いつも、興味深く拝読しております。さて、今回扱った日本での外国人労働者受け入れ問題ですが、充分に理解ができると同時に、日本滞在ではない北野様へ情報提供したいと思います。
現時点で既に、日本では労働力が足りないのです。日本における失業率というのは、自分が希望する職種ではないので、就労しないだけあり、又、就労しなくても暮らしていける豊かな日本であるので、就労しない、という現状から生じた数字です。決して、仕事が無いわけではありません。レストランなどは、従業員の工面ができず営業時間を減らした所が出てきました。デパートでもそうです。
私は、介護認定をうけた高齢者が利用するデイサービスに、書道のボランティア(書道家でもあります)で通っていますが、人手が足りません。介護や医療の現場での人員確保が深刻な状況に陥っているのは、実際に目にしております。
私も、北野様同様、3K労働を外国人労働者にさせるのは反対です。しかし、既に足りない労働力を外国人に頼るのは賛成です。その兼ね合いをどうするかが問題になってくると思います。良いお知恵がありましたら、どうぞ、又、メルマガにて、ご紹介ください。
実際に、人手不足が深刻になっている。それで、「外国人労働者、移民を入れるな」という主張は、「現場を知らない奴の理想論」になってしまいます(私の場合、「日本人が嫌がる3K労働は、外国人にやらせればいいさ」という「差別的動機」の「3K外国人労働者大量受入れ」に反対しています)。
前回ご紹介した文章は、10年前に書いたものです。つまり10年前には、現状を予見できた。10年前に対策を講じれば、今のような状況にはならなかったでしょう。今となっては、「現実にある問題をどうするんだ!?」といわれてしまいます。
そこで今回は、「移民、外国人労働者トラブルを激減させた方法」をご紹介します。
○○○○試験の導入が、ロシアを変えた
前回引用した文章の中に、以下のような部分がありました。
モスクワ市民も大半は、移民に差別心を持っていません。しかし、何%かは差別意識を持っているようです。旧ソ連諸国の移民に、奴隷のように接する金持ちもいます。また、「移民のせいで俺らは仕事がなく貧しい」と八つ当たりする人もいます。すると、かならず民族主義集団が登場してくるのです。
ドイツのネオナチのような集まりがどこの国にも出てきます。モスクワにも、スキンヘッド集団がいて、一時期外国人を殺しまくっていました。ここ数年は、サンクト・ペテルブルグで外国人殺しが流行っています。
するとどうなるか?
移民も一体化し防衛策をとるようになる。そして、「麻薬・売春・カジノで儲けよう」という移民のゴッドファーザー的男たちが出てきます。モスクワには、グルジア・アゼルバイジャン・アルメニア・チェチェンなどのマフィアがいて、非合法ビジネスで儲けています。
これが10数年前の状況。「スキンヘッド集団」、私も怖かったです。刃物をもった集団に襲われたら、普通殺されるしかありません。
怖かったですが、モスクワは今、ロシア人と移民、外国人労働者の対立が沈静化しているように感じます。スキンヘッド集団の話も聞かなくなりました。何が起こったのでしょうか?
状況がよくなった大きな理由は、ロシア政府が、居住権を出す条件に、
- ロシア語試験
- ロシア史試験
を導入したことです。つまり、「ロシア語が話せない外国人」「ロシア史を知らない外国人」は、ロシアに長期滞在できない。どうもこの措置が効果をあげているようなのです。
実際、以前は、ロシア語が話せない中央アジア、コーカサスの人が山ほどいました。彼らは、当然ロシア人とコミュニケーションをとることが難しく、トラブルが多発していた。彼らも怒り、ロシア人も怒っていました。
ところがこの試験を導入した後、町から「ロシア語を話せない外国人」が消えました。もちろん、ロシア語を話せない外国人観光客はいますが。そして、ロシア人と移民、外国人労働者のギスギス感は、かなり解消したように思います。
これ、日本でも導入したらいいと思います。日本史の試験が必須とは思いませんが、日本語は必要ですね。もちろん、日本人と外国人の夫婦の場合は、例外も必要かなと思いますが(たとえば、アメリカ人の夫、日本人妻、子供の家族。ダンナさんが日本語を話せなくても、妻子と引き離すのは非人道的)。その場合でも、外国人のダンナさん、奥さんが日本語を話せるようになるよう、全力でサポートする必要があるでしょう。
メルケルさんは、「多文化主義は失敗した」といいました。
ドイツのメルケル首相が最近、「多文化主義は失敗した」と述べ、波紋を広げている。各民族の文化を尊重する多文化主義は移民政策の理想モデルとされてきたが、移民を受け入れてきた国々で1990年代から文化摩擦が相次いで表面化。ドイツでも米中枢同時テロ後、イスラム原理主義への警戒心が強まり、金融危機やその後の財政危機で仕事や年金が移民に奪われるとの懸念が高まっていることが背景にある。
メルケル首相は16日、与党キリスト教民主同盟(CDU)の集会で、「ドイツは移民を歓迎する」と前置きした上で「多文化社会を築こう、共存共栄しようという取り組みは失敗した。完全に失敗した」と述べ、喝采(かっさい)を浴びた。
(産経新聞 2010年10月20日)
メルケルさんの発言、日本の政治家さんも知っておくべきです。
私は、ロシアにいれば、ロシアのルールに従います。「日本人だから日本流にやる」というわけにはいきません。同じように外国人が日本に住むなら、日本のルールを厳守してもらわなければなりません。「私の国ではゴミの分別をしません。だから日本でもゴミの分別をしません!」というわけにはいかないのです。
ルールを守るためには、「ルールを理解できるための日本語能力」が必要です。ですから、「日本語試験」の導入を提案します。繰り返しますが、ロシアで劇的効果があった方法です。安倍総理にも是非教えてあげてください。
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