60歳の定年以降も働く方が増えていますが、そうなると気になってくるのが年金のお話。老齢厚生年金は60歳以降も働いていると停止される場合があるのですが、それをもって「損だ」と決めつけるのは早計のようです。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、その理由を詳しく解説しています。
60歳以降も働くと老齢厚生年金が停止される場合があるが、本当に損でしかないのか?
今現在は厚生年金支給開始年齢が本来は60歳だったのが、平成13年から徐々に上がり始め、男子は2025年に女子は2030年に完全に支給開始年齢が65歳になります。年金の支給開始年齢が引き上がるという事は、その分無年金期間が生じてしまうという事で高齢者雇用が進み、60歳の定年を迎えても継続雇用や再雇用により働き続ける人が増えてきました。
昭和の時代は定年が55歳だったけど、急激な平均寿命(0歳からいつまで生きるか)や平均余命(現在の年齢からあと何年生きるか)の延びにより、60歳以上の人を高齢者というのもなんとなくちょっと早いんじゃないのかな? という感じになってきました。
そもそも、60歳になったら引退して老後は悠々自適にのんびり暮らす~というのも本当にそれが幸せな事なのかは疑問が残るところ。
60歳以上になっても働き続ける事は、今まで培ってきた技能や知識を活かせる機会が増えたというふうにも思う。
さて、60歳以降になっても厚生年金に加入して働き続けると、一緒に貰う老齢の年金が停止されるという場合もあり、そんな事は許せない! って感じてる人もいるでしょう。停止されたら損だ! と世間ではよく騒がれますが、果たしてそうでしょうか。というわけで、年金が停止される場合と本当に損をするだけなのかを見てみたいと思います。
1.昭和33年2月25日生まれの女性(今は60歳)
20歳になる昭和53年2月から昭和58年8月までの67ヶ月は海外に在住していた。この期間は国民年金には加入不可だったため、年金保険料は納められなかったが年金期間に組み込むカラ期間にはなる。昭和58年9月から平成30年1月(支給開始年齢である60歳の前月)までの413ヶ月は厚生年金に加入。
なお、昭和58年9月から平成15年3月までの235ヶ月の平均標準報酬月額(簡単に言うと給与の総額を加入期間で割ったもの)は30万円とします。賞与も年金額に反映するようになった平成15年4月から平成30年1月までの178ヶ月間の平均標準報酬額(簡単に言うと賞与と給与の総額を加入期間で割ったもの)は45万円とします。
さて、この女性は60歳の翌月分からの老齢厚生年金が発生しますが、その年金額を算出してみます。
- 老齢厚生年金額(報酬比例部分)→30万円÷1,000×7.125×235ヶ月+45万円÷1,000×5.481×178ヶ月=502,313円+438,028円=941,341円(月額78,445円)
普通はこの年金額が貰えるようになるんですが、60歳以降も継続雇用で働くことにした。賞与は支給されないものとします。ただし、60歳到達時賃金(60歳前の6ヶ月に貰った給与の総額を180で割って30倍にした額)は42万円だったが、継続雇用後は給与が25万円(標準報酬月額は24万円に値する)に下がった。つまり、60歳以降は25万円÷42万円=59.52%となった。
60歳到達時賃金よりもその後の給与が75%未満に下がると、雇用保険から高年齢雇用継続給付金が支給される場合がある。61%未満に下がると下がった給与の最大15%が高年齢雇用継続給付金として支給される。この人の場合だと給与が25万円だから、その15%だと37,500円が支給という事ですね(最大65歳到達月分までの支給)。
じゃあ次に年金停止額を算出します。
- 年金停止額→{(標準報酬月額24万円+年金月額78,445円)-支給停止調整開始額28万円}÷2=19,223円(年金月停止額)
また、高年齢雇用継続給付金も支給されると更に年金停止額が増える(厚生年金に加入中の場合のみ)。
60歳到達時賃金42万円に対し、標準報酬月額24万円に下がってるのでその標準報酬月額24万円×6%(6%が最大)=14,400円が更に停止。給付金貰う時は単純に給与に15%掛けていましたが、停止する際は標準報酬月額を使って最大6%を掛けて年金を停止する。標準報酬月額というのはいわば、老齢厚生年金にとっての計算に用いる給与だから。
よって、年金月額78,445円在職による年金停止額19,223円-高年齢雇用継続給付金による年金停止14,400円=44,822円が月年金支給額となる。だから、月の収入総額としては給与25万円+年金44,822円+高年齢雇用継続給付37,500円=332,322円となる。
働くことで年金停止されるなんて許せない !っていう人は多いですが、老齢の年金はもともとは完全に引退した人が貰う性質がある為、それなりの給与で現役で働くなら年金はカットしますよという制度になっている。ただし、60歳以降は給与が減額する事が多いのでせめて給与の額に応じて多少でも年金を支給しようというのが在職老齢年金制度。在職老齢年金制度は最近始まったものでもなく、今の安倍総理が決めたわけでもなく昭和40年改正から始まったもの。
停止されたらなんとなく損をしてるような気分になりますよね。しかし、働いた期間分はもちろん退職時に年金額が増える結果となり、長い目で見ると生活にも余裕が出る事にもなる。もし、65歳まで働くとすると、60ヶ月厚生年金期間が増えますよね。
また、厚生年金を支給する際は今まで働いた給与と賞与の平均を取るから、60歳以降極端に低い給与で働くと年金額が減るような気がしますが働いた分は必ず増える。給与の額よりも加入期間のほうが年金額に強く作用するから心配する必要は無い。
簡易な計算ですが増える老齢厚生年金(報酬比例部分)は、標準報酬月額24万円÷1,000×5.481×60ヶ月=78,926円。
いや、まだ増える。老齢厚生年金には差額加算というのがある。
- 差額加算→1,625円×(413ヶ月+60ヶ月)-779,300円÷480ヶ月×413ヶ月(20歳から60歳までの厚生年金期間)=768,625円-670,523円=98,102円
つまり、60歳本来の老齢厚生年金額941,341円に、その後も働き続けたことで更に78,926円と98,102円が増えるという事。78,926円+98,102円=177,028円が増えて、もちろん終身支給される。
また、65歳になると国民年金から老齢基礎年金779,300円÷480ヶ月×413ヶ月(20歳から60歳までに加入した期間)=670,523円が支給開始になる。
よって、65歳からの年金総額は
- 老齢厚生年金(報酬比例部分1,020,267円+差額加算98,102円)+老齢基礎年金670,523円=1,788,892円(月額149,074円)
65歳まで働いたことで、その目先の年金額は停止されちゃったけど退職した時に結果的に年金額が増えて、しかもその分は終身消えないから長い目で見ると老後の生活にゆとりが出る事になる。だから、働いてる事で年金停止されて損だ! ってその時だけを見ないようにしましょうね^^。
健康具合とか家庭事情にもよりますが、働ける間は働いて、引退した時はその分多めの年金を貰っちゃいましょう!
※ 追記
厚生年金に加入できるのは70歳までなので、70歳以降働いても70歳以降の期間は年金額に反映することは無い。ただし、70歳以降も厚生年金に加入できるような働き方をすると老齢厚生年金が停止される場合がある(平成19年4月から70歳以上の人も在職中による停止が拡大された。平成27年10月からは被用者年金一元化により昭和12年4月1日以前生まれの人も停止の対象となった)。あと差額加算は計算については最大480ヶ月が限度。
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