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今週のざっくばらん「プルトニウムの備蓄」

先週、米国政府が日本政府に対して、プルトニウムの備蓄を減らすようにという要請が来たことが報道されました(参照:米、日本にプルトニウム削減要求)。

ちょうど、米朝会談で朝鮮半島の非核化の合意がされた直後だったので、それと関連するのかと感じた人も多いと思いますが、これは7月16日に30年の期限を迎える日米原子力協定の更新時期に来ているためです。

日米原子力協定は、(核保有国以外に認めていない)使用済み核燃料からプルトニウムを取り出すことなどを日本に認めている日米間の協定で、これにより、日本は、作ろうと思えばいつでも核兵器を作れる「準核保有国」の地位を得ることが出来ています。

日本は、プルトニウムを(使い道のない)劣化ウランと一緒に燃やして、発電しながら(投入した以上の)プルトニウムを作るという高速増殖炉のためにプルトニウムを備蓄していますが、その高速増殖炉計画が暗礁に乗り上げているため、(原爆の製造にも転用できる)プルトニウムを必要以上に備蓄することは好ましくないと米国から指摘されているのです。

米国がその気になれば(たとえトランプ大統領の気まぐれであろうと)、日米原子力協定の更新を拒否することが出来、そうなると日本は、高速増殖炉だけでなく、六ケ所村での再処理まで諦めなければならなくなり、せっかく手に入れた「準核保有国の地位を失うことになります。

さらに悪いことに、再処理を諦めた場合には、六ケ所村に(再処理までという名目で)「中間貯蔵」している使用済み核燃料が電力会社に差し戻されることになりますが、各地の原子炉の燃料プールはすでに満杯状態で、使用済み核燃料の置く場所が不足する→原子力発電の継続が出来なくなる、という状態になります。

また、これまでは使用済み核燃料はそこから取り出したプルトニウムは、(高速増殖炉で燃料として使えるという理由で)資産として計上されて来ましたが、それが一気に負の資産になり各電力会社のバランスシートが大きく悪化します。

しかし、この問題に抜本的な解決策があるわけでもなく、日本政府は余剰プルトニウム保有量に上限を設けることにしたそうです(参照:余剰プルトニウム保有量に上限 核燃サイクル停滞で政府)。

使用済み核燃料の再処理をストップし(つまり、使用済み核燃料は中間貯蔵し)、余ったプルトニウムはMOX燃料として通常の原子炉で燃やせば(これは、高速増殖炉とは違い、コストも高くて「核のリサイクル」と呼べるようなものではありません)、何年かはしのげるという、問題の先送りです。

実際のところ、霞が関の役人にとっても「核のリサイクル計画は頭の痛い問題だと思います。前にも進めず、しかし、公式に失敗を認めることは、(「準核保有国」の地位を重視する)タカ派の政治家が許さないし、使用済み核燃料の置き場所がなくなり、原発が運転できなくなるので、それも許されないのです。

このケースでは、(霞が関の役人ではなく)政治家がリーダーシップをとって、「核のリサイクル計画」の抜本的な見直しをすべきなのですが、残念なことに今の政治家たちには(与野党含めて)、あまり期待できません。

下のグラフはこの問題に対する Twitter でのアンケートの結果です。

image by: Alexander Tolstykh / Shutterstock.com

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年6月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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