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人工知能は地震を予測できるのか? 村井教授が進める「AI地震予測」

地震予測も「人工知能(AI)」の時代へ

長年研究が進められてきた「地震予測」の世界も、ついに「人工知能AI)」が活躍する時代に突入する可能性が出てきたようだ。

昨今、大阪北部を震源とした最大震度6弱の地震が発生するなど、絶えず大規模な地震の危険性と隣り合わせの日本列島。その被害を少しでも軽減させるために、ここ数年は国などから研究費の補助を受けない民間団体による地震予測の研究が活発となっている。

それらの団体のなかでも先駆け的な存在といえば、2013年に設立されたJESEAジェシア・地震科学探査機構だ。

JESEAの創始者である村井俊治氏は、もともと測量界では世界的に名を知られた土木工学者で、長年勤めた東京大学を定年退官した後に、地震の事前予測に関する研究を開始。国土地理院の設置した電子基準点のデータを解析し、地表の異常変動を捉えて地震を予測するという新たな手法を生み出した人物だ。

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JESEAが毎週配信しているメルマガ『週刊MEGA地震予測』は、これまで数々の大規模地震の前兆となる地殻変動を事前捕捉してきたことでも知られるが、今年3月の配信から“人工知能(AI)を使った地震予測”が参考資料として新たに加わった。

試験段階で震度4以上の地震を80%以上捕捉

この“人工知能(AI)を使った地震予測”とは、日本全国を30の地区に分け、その各地区ごとに大規模な地震が起こる危険度を0~5の数値で表示したもの。

「人工知能(AI)を使った地震予測」のイメージ図(※最新の予測ではありません)

予測の根拠となるデータは、従来までの『週刊MEGA地震予測』と同様に電子基準点などから得られる地表変動のデータで変わりはない。画期的なのは、そのデータの分析に統計数理に基づくAI技術の一手法である「MT法マハラノビス・タグチ法)」を活用している点だ。

正常と異常という概念で判別を行うMT法を応用

このMT法とは、もともとは自動車などの製造工場における設備監視の用途で広く使われているもの。簡単に説明すると、平常時に得られるデータの固まりをひとつの基準として定め、そのうえで日々刻々と変遷していくデータを一つ一つ計算し、平常時との違いをマハラノビス距離というひとつの指標にして出す。その指標が、あらかじめ定めたしきい値を超えた際、さらにその値が大きいほど、異常が起きていると判断される。つまり、品質管理の世界では“良品と不良品”を見分ける際に利用されるMT法を、AI地震予測では“地震発生の前兆が出ているか否か”で活用しているわけだ。

「AI地震予測」導入に向けて2年間の研究開発

今回、MT法の技術を提供したのは、工学博士・手島昌一氏が代表を務めるアングルトライ株式会社。同社のMT法の技術は製造工場のみならず、JAXAのイプシロンロケットに搭載されている「自動・自律点検システムにも活用されていることでも知られている。JESEAとアングルトライの両社は、AI地震予測導入に向けての研究・開発を約2年間に渡って重ね、その結果今年初めにほぼ完成形にまで到達。現在は地道な検証作業を続けているという。

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震度4以上の地震を8割マークした予測精度

というわけで、現状では本格運用のレベルには達していないとされるAI地震予測だが、実は今年2月~5月に発生した震度4以上の地震17件に関して、AI地震予測はそのうち14件を“危険度3以上”と事前予測していたという。まだ試験段階であるが、早くも捕捉率80%以上をマークと、来るべき正式公開に向けて着々と予測精度を上げている。

今年2月~5月に発生した震度4以上の地震と「AI地震予測」の予測状況

JESEAが地震予測にAIを取り入れた理由

今回、JESEAが地震予測にAI(MT法)を取り入れた理由は何だったのか。村井氏が挙げたのは、よりきめ細かいデータ分析の実現、そして自身の後継者問題だ。

「AI地震予測」誕生の経緯を語るJESEAの村井俊治氏(右)とアングルトライの手島昌一氏(左)

毎週水曜日に配信されるメルマガに掲載されている情報は、その2日前である月曜日に国土地理院から公開された電子基準点データをダウンロードし解析ソフトにかけて得られた数値や、さらにそれをグラフ化・画像化したものを村井氏自身がチェックし、自らの知見を加味し予測している。

確認作業に忙殺される日々、AI技術の導入は不可欠と確信

とはいえ、1300か所以上あるすべての電子基準点の動きを、限られた時間のなかで村井氏一人で隈なくチェックするというのは、ほぼ不可能に近い話である。また、この作業に忙殺されることで、気になっている地域の過去データを遡ったり、週単位よりも細かい一日単位のデータをチェックするといった時間が、なかなか取れなくなっているという。そのため、いざ大規模な地震が起こった際に、その地点のデータを改めて調べてみたところ、「兆候が出ているのを見過ごしていた」というケースが何度かあったとのこと。

くわえて、村井氏は現在御年78歳。もちろん今なおご壮健で日々の業務をこなされているが、76歳だった2年前“自らが持つ知識や経験を後継者に伝えたい”と考え、JESEAの中心スタッフにノウハウを伝授したという。これにより、村井氏による地震予測がひとまず次世代にも繋がる形となったが、とはいえ限られた時間の中で予測の精度を上げるためには、AI技術の導入は不可欠だろうと考えるに至ったという。

「将棋の世界でも、最初はコンピュータより棋士のほうが強かったですけど、今では棋士が負けているわけですから。そこで、私が持っている地震予測に関する経験やデータを人工知能で学習させて、いずれは私の予測を超えるようになればと考えたんです」(村井氏)

20年以上前に予見されていた地震予測とAIの融合

いっぽうで、アングルトライの手島氏JESEAの地震予測を知ったのは、偶然にもJESEAがAI技術の導入を検討し始めた頃のこと。MT法の地震予測への応用に関しては、当時、手島氏と同じ研究グループにいた生駒亮久氏が、その可能性を大いに感じていたという。

「実は品質工学の提唱者で、MT法の開発者でもある工学者の田口玄一氏が、1995年に地震予測と品質工学という論説を発表していたんです。そこには適切なデータさえあれば、品質工学を用いて将来的に地震予測ができるかもしれないという展望が書かれているんですが、村井先生による電子基準点のデータを用いた地震予測のことを初めて知った時に、これはいけるんじゃないか?という直感がしました」(生駒氏)

「AI地震予測」の可能性をいち早く予感していたという生駒亮久氏(左)

それに対し手島氏は、当初MT法の地震予測への応用に関しては懐疑的だったという。ただ、実際にJESEAから提供されたデータの解析を重ねることで、その考えは大きく変わっていった

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「私自身、最初の頃は“そもそも地震の予測すら無理な話では”と考えていました。ところが、村井先生がこれまで培われてきた知見を取り入れながら、データを解析していくと、例えば東日本大震災熊本地震といった大規模な地震の直前には、明らかに前兆が出ているんです。そういう過程を経るうちに、自分の中でも考えが大きく変わっていきましたね」(手島氏)

計算スピードのアップに一役買った“情報の最小化”

こうして、約2年に渡って続けられたAI地震予測の開発。そのなかで、クリアしなければならない課題のひとつとして立ちはだかったのが、計算スピードの問題だった。

従来の予測と比較して、より膨大なデータを用いての予測できる点が、AI地震予測の大きなメリットのひとつ。ただ、その膨大なデータを月曜日に得て、それを解析したうえで、水曜日配信のメルマガでその結果を公開できるようにするためには、それ相応の計算スピードが要求される。

そのための策として取られたのが、手島氏がすでに開発していた高性能の計算エンジンの採用。そして“情報の最小化”だったという。

「情報を闇雲に増やすのではなく必要最小限に集約することで、計算スピードのアップを図りました。AI地震予測のマップにおいて、日本列島を30地区に分けたのも、この“情報の最小化”のひとつの手段。30地区ごとに、本当に信頼度が高い電子基準点のみを村井先生に厳選してもらい、それらの地区ごとにデータを解析することで、ほぼ一晩で解析が終了できるようになりました」(手島氏)

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絶えず動く「地表データ」を扱うことの難しさ

いっぽうで、従来MT法が活用されている工場の製品から得られる均質なデータとはまったく異なり、地震予測においては絶えず動いている地表のデータを扱うという点で、なかなか勝手がいかないということも多々あったという。

「地震は地域性もありますから。地質などの影響もあるんですが、地域によってデータの出方の傾向が全然違ってくる。だから、全国共通のひとつの指標やしきい値で、すべての予測ができるというわけではない。そういったところの学習は、まだしきれていないですね」(村井氏)

ひとつの例を挙げると、村井氏は常々「地表の動きは常に相反、あるいは押し合っており、その真ん中の地点が最も危ない」ということを持論として掲げている。ところが、その真ん中の地点の動きは数学的にはゼロになるため、AIがその状況を危険だとは認識しにくい。つまり“ゼロの状態に意味がある”ということも、今後は学習させていく必要があるという。

「基本的には統計数理に基づくAIというのは、熟練の技術者という存在がまずあって、そのノウハウをコピーしていくのがセオリーなんです。今回のAI地震予測における熟練の技術者とは、もちろん村井先生のことを指しますが、今のところ村井先生のノウハウを80%ほどコピーできた段階。残りの20%を如何にして埋めるかが、今後の課題ですね」(手島氏)

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AI導入で地震予測の可能性がさらに広がる

現在のところ、参考資料として月一回公開となっているAI地震予測だが、今年の秋ごろには正式公開ができる見通しが立っているという。

「当初は、現在行っている予測の補完という意味合いが強かったAI地震予測ですが、開発を進めていった結果、より精度の高い予測にも使える可能性が出てきました。まだまだ進化する余地はありますし、ゆくゆくはAI地震予測がメインになって、私の予測が“参考資料”になる日が来るかもしれません(笑)」(村井氏)

現在のJESEAでは、電子基準点から得られた地殻変動のデータを用いて予測を行っているが、地震の前兆とされる現象には、それ以外にも電磁波の異常やインフラサウンドの発生など、様々存在する。JESEAではそれらを活用した予測の研究も進めており、ゆくゆくはそれらにMT法を取り込んでいくことも計画しているという。

MT法は使える範囲が広いのが大きなメリット。今回のAI地震予測の開発で、基礎となるソフトは完成しているので、地殻変動以外のデータを利用することも、そう難しい話ではないでしょう」(手島氏)

利用者に安心をもたらす、より信頼度の高い地震予測の提供を目指して。JESEAのチャレンジは、今後もまだまだ続きそうだ。

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取材・文/MAG2 NEWS

※本記事は有料メルマガ『週刊MEGA地震予測』の著者・JESEA(地震科学探査機構)に、MAG2 NEWS編集部が取材したオリジナル記事です。

※1ヶ月分216円(税込)で購入できます。

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東日本大震災以降、地震予知・予測の必要性が問われています。JESEAジェシア(地震科学探査機構)は、測量工学的アプローチで地震の前兆現象を捉え地震を予測します。東京大学名誉教授の村井俊治先生の研究技術により、国土地理院が設置した全国1300か所の電子基準点のデータを解析し、過去の地震の震源、震度、マグニチュード、被害の程度などとの相関分析を行い、地震の前兆現象を捉え地震予測を提供しています。

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