一時期より薄れたとはいえ、未だ大きなな影響力を持つ経団連。もちろんマスコミもその例に漏れないはずなのですが、先日、日経新聞に同団体を否定的に扱う記事が掲載され話題となっています。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者で世界的エンジニアの中島聡さんがこの流れを歓迎。経団連の存在意義も徐々に薄れるだろうとしながらも、新陳代謝に時間がかかるのも日本の特徴であり、それが「失われた20年」をいつまでも長引かせていると批判しています。
※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年7月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
今週のざっくばらん: 経団連と失われた30年
先日、日経に「経団連、この恐るべき同質集団」という記事が掲載されました。経団連の副会長18人の経歴を調べると、
- 全員男性
- 全員日本人
- 一番若くて62歳
- 全員サラリーマン経営者(起業経験なし)
- だれ一人転職経験がない
という異様なまでに同質な集団であるという指摘です。
男女同権で、企業の新陳代謝も激しく、転職の多い米国の常識で言えば、「全く理解できない」状況ですが、日本人にとって見ればそれほどの驚きではないと思います。
重要なのは、これまで経団連と良い関係を維持してきた日経が、「この恐るべき」という形容詞まで使って、これを批判して来た点です。ようやく、日本でも「潮目が変わって来た」兆候なのかと期待してしまいます。
ちなみに、日本の「失われた20年」が今や「失われた30年」になろうとしていますが、その一番の理由は、日本社会全体のあらゆるところに、戦後の高度成長期に作られたシステムが張り巡らせており、90年代から始まったパソコン、インターネット、スマホなどの「IT革命」に乗り遅れてしまっているからだと私は見ています。
終身雇用制、年功序列、新卒一括採用、稟議書などは「時代遅れなシステム」として分かりやすい例で批判の対象にもなっており、会社によっては改革が進んでいるところもあります。
しかし、役員用のお抱え運転手、ゴルフ会員権、退職後の天下り先、社長の部下で構成される取締役会となると、それは「長年一つの会社で一生懸命働いて来た人たち」の権利であり、そこに自ら手をつけることが出来る人たちは、ほとんどいません(私自身も、その立場にあれば必死に守ると思います)。
経団連の副会長ともなれば、誰もがそんな会社の重役であり、まさにその手のシステムのメリットを享受している人たちなのです。彼らの考え方が、保守的で、閉鎖的なのも当然です。
日本にも、ソフトバンク、ファーストリテイリング(ユニクロ)、楽天、リクルートのような時代の流れに乗るのが上手で、創業者が元気な(リクルートは例外)会社があるので、彼らが経団連をコントロールするようになれば、まだ良いのでしょうが、経団連の閉鎖性がそれを許さないのだと思います。
三木谷さんが経団連を辞めたのは2011年ですが、当時のインタビューで「正直言って。経団連は日本企業の護送船団方式を擁護し、これが世の中の共通認識だとカムフラージュするために作られた団体なんですね、そもそもが」と強烈に批判しています(参照:「経団連に入っている意味もないしね、正直言って」)。
長い目では経団連の存在意義も徐々に薄れるのでしょうが、その手の新陳代謝に妙に時間がかかるのも日本社会の特徴です。
そして、その新陳代謝の遅れが、「失われた●●年」をいつまでも長引かせている原因になってしまっているのです。
今週のざっくばらん2: テクノロジーと監視社会
Singularity Societyを立ち上げることを決めたためもありますが、テクノロジーの進歩が社会に与えるマイナス面を考えることが多くなっています。
単にマイナス面だけ取り出して批判することは簡単ですが、実際には「マイナス面しかない技術」が導入されることはなく、何らかのプラスがあるわけで、そのバランスをどう考えるかが課題です。
典型的な例が、政府による防犯活動のためのテクノロジーの利用です。
去年、Wall Street Journal に「China’s Tech Giants Have a Second Job: Helping Beijing Spy on Its People」という記事が掲載されました。AlibabaやTencentが市民の違法な活動を監視する役割を中国政府のためにしている、という話です。
「中国の共産党が独裁体制を守るために、市民の反政府的な活動を監視している」といううがった見方も出来ますが、単に「中国政府が、犯罪者から一般市民を守るために行なっている」とも解釈出来るので、微妙なところです。
米国でも、9/11のテロ後にブッシュ政権が通した法律により、政府による電話の盗聴が可能になっているし、インターネットに流れる情報へのアクセスに関しても、政府と事業者の間で常に綱引きが行われています。私の知り合いのインターネットセキュリティの専門家は、Googleの社員ですが、アメリカ国家安全保障局に出向して、テロリストによるインターネット上の通信の傍受の仕事をしているそうです。
この分野で、最近になって注目されているのは、監視カメラの進歩です。今や、高性能な監視カメラが1万円以下で小売される時代になりました。そんなカメラが1,000円以下になるのは時間の問題です。
さらに、人工知能を活用した顔認識技術も急速に進化しているので、街中に監視カメラを設置し、そこに指名手配の犯人が映ったらアラートを送るなどは、技術的には十分に可能です。
Amazon は、ウェブベースの顔認識技術を Rekognition とういブランド名でAWS(Amazon Web Service)の一貫として提供していますが、それを米国の警察が使い出したことが大きな問題になっています(参照:Amazon Workers Demand Jeff Bezos Cancel Face Recognition Contracts With Law Enforcement)。
東京都は、2002年に歌舞伎町に監視カメラを設置しましたが、今やそれは、渋谷、六本木、池袋などに広がっています(参照:街頭防犯カメラシステム)。今はまだ、人がカメラの映像を見なければいけないため、台数にも限度がありますが、これが自動化されれば、もっと広範囲に監視の目を広げることが可能です。
こんな警察の監視活動は、「犯罪防止」「指名手配犯の追跡」という面では大きなメリットがありますが、実際のところは「市民の監視」であり、技術的には「市民の一人一人がいつ、どこで、何をしていたかをリアルタイムで把握する」ことが可能になる日も遠くありません。
先日紹介した、ビデオの捏造技術の件でも感じた人が多いと思いますが、テクノロジーの進化そのものは止められません。それをどう使うかは(もしくはあえて使わない道を選ぶか)は、人間が判断しなければならないのです。
政府や警察は、これからテクノロジーの進化により、否応無しに「市民の行動をつぶさに監視する能力」を持つようになります。それが小説『1984』に描かれたような「管理社会」を生み出してしまう可能性も否定できません。
そのためにも、国民の人権を重視する憲法を維持することは何よりも大切です(その意味では、自民党の改憲案は逆行しています)。さらに、政府を監視する第三者委員会を作り、そのメンバーは国民が直接投票で決める、などの新しい仕組みも導入していく必要があると私は思います。
image by: 経団連 - Home | Facebook
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2018年6月分
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