恋愛や人生で成功する方法を指南するメルマガ『幸せなセレブになる恋愛成功変身術』の著者・マキトさんが、先日最終回を迎えたドラマ『花のち晴れ』と、何十年も国民的人気を誇る長寿アニメ『サザエさん』について、その失敗と成功の秘密を分析しています。
『花のち晴れ』がいまいち面白くなかったのはなぜ?
『花より男子』の続編『花のち晴れ』のTVドラマが先日完結しましたが、平均視聴率は1ケタ台と前作ドラマの半分以下という大惨敗でした。原因は、やはり脚本がひどすぎたことでしょう。
第1話を観た時点で、ヒロインの音が最終的に晴(ハルト)を選ぶのは誰の目にも明らかです。それだけに、音が晴を冷たく突き放し、婚約者の天馬といちゃつくシーンが続くのは、あまりにも狙いが見え透いていて、かえって白けてしまいます。
フェイントは「フェイントと見破られていないから」フェイントになるのであって、あれでは効果ゼロです。あれだったら素直に音と晴の進展を描いた方がよほどマシでした。
これは、ラブコメ全体に共通する弱点ですが、どの作品も「安易にオチが読めすぎる」のです。これはいわば、最初から犯人が分かっている推理小説を読まされるようなものです。途中でどんなにヒネっても、面白さは半減してしまいます。
「暗殺教室」だって本当に殺せんせーを暗殺するのか最後まで分からなかったから、あれだけブームになったのです。この部分のラブコメの工夫の無さはあらゆるジャンルの中で随一です。
もちろん例外はあって、伝説のトレンディードラマ「東京ラブストーリー」などは、最後の最後までオチを読ませない展開でした。その結果、最終回の視聴率は32.3%に達したのです。国民の3人に1人が リアルタイムで視聴していた計算になります。
『君の名は。』にしても、ラストシーンでミツハとタキがすれ違ったまま終わりそうになりましたよね?あれは本当に、そのまま終わっても不自然ではありませんでした。それだけシナリオの完成度が高いのです。
ラブコメ作家の皆さんには、最低限「オチを読ませない」ことを心がけていただきたいと思います。他のジャンルでは基本です!
シナリオが良くなければ傑作は生まれない
ただし、読者を裏切るオチにすれば何でも名作になるわけではないので、それも注意が必要です。
失敗例の代表として『恋は雨上がりのように』を挙げることができます。あれを読んだ人はつまらないを通り越して「意味が分からない」という感想を抱いたと思います。特に最終巻は、何の説明もなく店長のとりとめもない空想シーンが始まったり、あきらがいつのまにかバイトを辞めていたり、読者を置き去りにした展開が多すぎます。何より「結局、誰も幸せになっていない」ラブコメとして最悪のパターンです。雨上がりを期待して読んでたのに、雨降ったまま終わったちゃったよ。。。みたいな。
せめて、ラストの陸上大会に店長が応援に駆けつけたカットを入れるだけで、読後感は全然違っていたはずです。あきらに陸上復帰を決意させたのは店長なんだから、応援に来ないのは人として無責任過ぎるでしょう。連載スタートした時点ではあきらと店長がこの先どうなっていくのか、あらゆる可能性が秘められていただけに、とても残念です。
原作者の眉月じゅんは、画力(キャラデザイン)においては確かに天才的なセンスを持っていますが、プロとして読者を楽しませるシナリオの組み立て方を全然知らないのです。画力は描き続ければ上がっていくのでプロ級の素人も少なくありませんが、彼らがプロに通用しないのは、シナリオを書けないからです。(中略)
人は無意識に理想のキャラが登場する作品に惹かれる
マンガやアニメも、キャラクタービジネスの一種です。登場人物の人気はそのまま作品全体の魅力に直結します。
特に、マンガなどの場合、読者の「アバター」を意識する必要があります。人はマンガを見るとき、無意識のうちに自分のセルフイメージに近いキャラと同化し、そのキャラをアバターとみなします。
たとえば女の子が「ドラえもん」を読むときには、アバターはしずかちゃんであることが多く、「クレヨンしんちゃん」ならネネちゃんであることが多いのです(ひまわりだと小さすぎる)。
だいたい自分自身と同性で、年齢の近いキャラが無意識のうちにアバターに選ばれます。特にしずかちゃんは、のび太から出木杉に至るまで、男子全員の憧れを独占する「絶対的ヒロイン」です。女子にとって、ひとつの理想像であることは間違いないでしょう。
もしも「ドラえもん」にしずかちゃんが登場しなければ、どんなに話が面白くても女の子はほとんど「ドラえもん」を見ないと思います。実際に、中学生くらいになるとあまり「ドラえもん」を見たいとは思わなくなるはずです。
それは内容が小学生向けであるというだけでなく、アバターとして感情移入できる適当なキャラがいなくなってしまうからなのです。
この原理をよく理解しているのが、高橋留美子です。彼女の作品は、男女問わずファンが多いことで知られています。
その秘訣は、必ず男女カップルをW主役にしているからです。たとえば「犬夜叉」の場合、男子は主に犬夜叉、女子はかごめがアバターです。「うる星やつら」なら、男子は諸星あたる、女子はラムです。
サザエさんは「全員が勝ち組の家族」だった!
当たり障りのない内容の『サザエさん』がなぜか 国民的アニメとして成功しているのは、メインターゲットである子どもの視聴者と、その両親・祖父母世代にそれぞれアバターが存在しているからです。
ワカメちゃんのポジションが絶妙なのは、一応は姉と兄がいる末っ子であると同時に、タラちゃんという事実上の弟がいることです。つまり、視聴者の「末っ子として甘えたい」願望と「お姉ちゃんになりたい」願望の両方を満たすアバターなのです。
やんちゃ坊主のカツオは、男の子の視聴者から共感を得られるアバターです。
サザエさん世代の視聴者にとっては、夫(マスオさん)は早稲田卒のエリートサラリーマンで、実家住まいで(しかも世田谷区内の庭付き一戸建て!)、子育てを両親に手伝ってもらえて、おまけに専業主婦というのは究極の贅沢であり、野望でしょう。
フネさん世代の視聴者にとっても、タラちゃんのように可愛い孫と暮らすことは最高の夢であり、幸せです。
磯野家は一見平凡に見えて、なにげに「全員が勝ち組」なのです!要するに、磯野家の人々がジャパニーズドリームを体現してさえいれば、個々のエピソードはどうでもいいのです。初期設定が重要です。
しっかり分析していくと、『サザエさん』が半世紀に渡って高視聴率を保ってきた理由が良く分かります。「キャラクタービジネスとして」比類なき完成度に達しています。
もちろん、あれが限界というわけではなく、たとえば波平さんの髪がフサフサだったら中高年男性の視聴者はもっと増えるはずです。何より今の時代は専業主婦よりキャリア志向が主流ですのでサザエさんをキャリアウーマンにして育児との両立を描いた方が、絶対に視聴者の共感を得られるはずです。そこが、最近『サザエさん』の視聴率が落ちてきている原因でしょう。
おそらく皆さん、「日本人がなぜかサザエさんを観てしまう理由」をここまで明快に説明できる理論には今までに出会ったことが無いはずです。
マキトの開発したセルフイメージ心理学は無限の応用力を秘めているのです。
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