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小学生の命が犠牲に。「学校はエアコン不要」の根性論が子供を殺す

上空に居座るふたつの高気圧の影響で、記録的な猛暑に襲われている日本列島。7月17日には愛知県豊田市の小学1年生の男児が校外学習後に熱中症で亡くなるという痛ましい事故が起きてしまいました。現役探偵でもある阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんは自身のメルマガ『伝説の探偵』で、2007年に兵庫県内の高校で起こった熱中症事故と今回の死亡事故との共通点等を検証しつつ、教訓を生かせぬ教育現場を強く批判しています。

豊田市小学1年生の死亡事故について

「愛知県豊田市立梅坪小学校の1年生の男児児童が校外学習から戻ってから倒れ、熱中症の中でも最も重い熱射病で死亡した。」という報道があった。

これを見て、私はとてつもないインパクトを受けたある事件を思い出した。それは、「兵庫県立龍野高校テニス部熱中症事故」だ。この熱中症事故は裁判となり、最高裁までいった。多く学校を訴えると、それは都道府県など学校の設置者との争いとなり、徹底的に争ってくる。被害者やその保護者は個人、それだけで圧倒的に不利なのだ。

教育機関だから折れてくるんじゃないかなど甘えは一切なし、組織に所属する教員らは、組織人としての証言を求められる。私はこの件に直接関わってはいないが、被害者の女の子が母親と一緒に記者会見に臨んでいる姿を見て、深く心に残った。

1.小学1年生熱中症死亡事故

<概要>

事件報道によれば、2018年7月17日、小学1年生112人が午前10時頃、小学校を出て、およそ1.2キロほど歩いて和合公園へ向かった。公園では虫取りや遊具遊びをして、11時半頃、再び学校に戻った。当日は、高温注意報が出ており学校も把握していた。

公園までの道のりから、男児児童は列から遅れるなどがあり、担任の先生が手をつなぎ歩いてたそうだ。教室に戻ってから男児児童は唇が紫色になり、11時50分頃意識を失った。それから、20分ほどで病院に搬送されたようだが、0時56分に死亡が確認された。

<補足情報>

教室に戻ってから、女児児童3人も不調を訴えていたという。そのうち1名は、午後になってから嘔吐している。また、教室にはエアコンが無く扇風機4台を回して対応したそうだ。熱中症対策として、水筒も持参していた。

別の保護者によれば、死亡した男児児童は、始めから校外学習に行きたくないと言っていたそうで、特に体調に異変があったわけではないと判断し、連れて行ったとの情報がある。

梅坪小学校から和合公園まではおよそ1.2キロほどであるが、公園まで行くには国道419号線を歩く必要があり、日差しを防ぐところが無く、アスファルトの反射熱や車の排気などで、その体感気温は、当日当時の気温、「33.4度」どころではなかったはずだ。

さらに、熱中症症状はこの男児児童の場合は行きの段階でほぼ出ており、手を引いて歩いたという担任の先生は、手を握りつつもそれに気づかなかったという点に大きな疑問が残る。

報道を見る限り、大まかには、

時間の前後はあるだろうが、大まかには時間の流れは合っているだろう。地図を見る限り、小学校近くには地域医療センターが目と鼻の先にあり、救急搬送にはさほど時間を要しない。

多くの教育委員会では、学校事故に関するマニュアルがあるが、熱中症については、主に部活を念頭においている記載が多い。主に、「水分補給」「塩分補給」「休憩」「個人差があるからよく観察」もしも具合が悪い生徒がいた場合「涼しい場所で衣類を緩め、水分・塩分の補給」「昏睡状態や痙攣の場合はもちろん、応答がに鈍いなどの場合も医師の診断」「医師の診断までの間、氷などで体を冷やすなどの応急措置」という記載がある。

報道によれば、扇風機で冷やしていたということだが、教室の気温は37度もあったという。また、水筒持参で水分を補給して熱中症には十分配慮していたというが、肝心の塩分補給についてや休憩については記載がない。つまりはしていなかったのだ。

さらに、救命について、保健室や職員室など、この学校においてエアコンが設置されているであろう場所に移動させず、ほとんど外と気温が変わらない教室の中に留まっていたということは、ほぼ何もしていないに近い状態であったことを意味する。

この地域、学校では、熱中症などを含む学校での事故等々についての研修を行っていたか甚だ疑問である。

2.兵庫県立龍野高校テニス部熱中症事件との共通点

(1)熱中症への考えの甘さ

総務省消防庁の速報を見る限り、平成30年7月9日から15日までの間に熱中症で救急搬送された人数は、「9,956人」であった。

統計によれば、平成29年度の同時期は「7,414人」であったことから、今年の同時期の暑さは酷いということがわかるし、この数値の中には運動中ではない大人も含まれていることから、誰でも熱中症により救急搬送されるほどの深刻な状態に至るということがわかる。

学校の中には、水分補給のための水筒を持参させないという方針のものもあり、小学校のケースでは、まるで水分補給しているから配慮していたとも取られない発言が目立つ。

高校の場合は、これよりも酷い。水分補給をさせずスポ根よろしくの活動をさせた上での事故だ。もはや、事故とは言い難い。

(2)救護

今回の小学1年生の場合、救護という救護行動は取られているようで取られていない

まず、気温である。

扇風機などで部屋を冷やそうとしても、そもそもの気温が高温注意報が出るほどである。どんなに部屋を冷まそうとしても、扇風機では熱風しかこない

その中で、横にして休ませたとしても、熱中症の対処としては、その段階で誤っている。報道では、あたかもちゃんと救護したように書かれてはいるが、少なからず保冷剤や氷、水分補給・塩分補給を行い、教室に戻ってからではなく、早々に対処をすべきであった。

龍野高校テニス部熱中症事件で救護があったかだが、ほぼなかったに近いというのが事実だろう。というのも、両方とも心肺停止の状態で救急搬送されているからである。

3.全く活かされない過去の事故

そもそも、小学1年生が亡くなった事件は、過去の多くの犠牲の教訓を活かしていない

なぜなら、その他の児童も熱中症の症状を起こしており、カリキュラムや行事を先行させた強行であったと言わざるを得ないし、この小学校の概要を見る限り、小学1年生でおよそ3から5クラスあったはずなのだ。そうなれば、当然引率の教員はこの担任の先生だけではない。

相応の教員数で引率しなければ、交通量の多い国道につい数ヶ月前まで幼稚園や保育園児であった子供たちを連れ立って歩くことはしないはずなのだ。

私が印象的であったとした龍野テニス部の事件では実はその前年に同じ高校で一人亡くなっているという事実がある。教訓とはならず、不幸な事故だとやり過ごした結果なのだ。

私がこの件の取材に入っている報道関係者に情報を聞く限り、亡くなった子は、学校を出発する時にすでに行くのを嫌がっており、行きの段階で列から遅れをとっていた。公園にはほとんど日陰になるようなところがない状態で、帰り道では当初から他の児童らと同じように歩くことが難しい状態であったとのことだ。

担任の先生は手を引いて一緒に歩いたということだが、その段階で異常をキャッチしていてもおかしくはない状態なのだ。

さらに教室で倒れた段階では相当な衰弱が認められ、病院に搬送された段階ではすでに心肺停止であったという。

ただ、遺族は子供が好きであった先生を責めないでほしいと言っているとの情報もあり、この事件は、これ以上の事件究明が進まないかもしれない。

4.エアコンの設置率

文科省によれば、公立小中学校の冷房設備は、地域によって格差があることがわかる。例えば、東京都は、設置率99.9%であり、香川、福井、群馬、京都、滋賀は80%以上の設置率である。

一方、北海道0.3%、東北地方は10%以下であり、どちらかといえば暖房設備は整っている。

今回の愛知県は35.7%でほとんど設置されていない状況だ。その他、愛媛、静岡、長崎、高知県など設置率が20%以下だが、気温はかなり高温になりやすいだろうに設置は進んでいない。

一方、データはないがこの事件を調べていて、様々なコメントなどを集約すると、「職員室や校長室には冷暖房が設置されているというのは全国的に共通事項のようだ。

つまりは、教室は地獄のような暑さだが、子供は風の子だから、冷房などなくとも元気に過ごせる、今から冷房なんぞに体が慣れてしまうと弱い子になってしまうという、無茶苦茶な考えが横行していると言える。

ニュースを見ていてもわかる通り、毎年毎年、「観測史上最高」という言葉をよく聞くようになり、猛暑日、酷暑日、熱帯夜の数は増えている。

私は41歳になるが、子供の頃、気温が31度を超える日は数えるほどしかなかったと記憶している。もちろん、冷房はなかったし、水筒も持参していなかったが、だからと言って、今の現状を見てエアコンの設置は確実に必要だと言える。

地域によっては予算の問題をうたう政治家もいるようだが、そう言いながら、エアコン設置運動が始まれば、政治家はその前に調査を行い、それに多くの費用を計上するというのが手口だと、元大阪市長の橋下氏が鋭く指摘していた。

7月で35度以上が連続し、地域によっては40度を超える世界はもはや日本人にとっては未知の世界とも言える。常夏の国から来た外国人観光客も、この湿度の高い異常な暑さにへばってしまうのだ。

このエアコン騒動で有名なのが埼玉県所沢市であるが、住民投票まで行われ、藤本正人市長は自然派であるということから、設置賛成の声があってもその時点では2校設置に留まり、ほかについては、調査費をあてて、設置未定とした。

原発問題や予算問題をあげ、公立校にエアコンをつけない首長らの背景には、「古い考えの夏は暑いに決まってる、冬は寒いに決まっている、だから冷暖房なんぞに頼って弱くなるなという誤った教育方針」がある。

また、予算の問題とするのは、アホな市民は何もしならないだろうという政治家の言い訳に過ぎないのだ。なぜなら、文部科学省によれば、大規模修繕として、空調設備には交付金が出るのだ。これは、「学校施設環境改善交付金」という。補助は全体の3分1までだが、上限は2億円まで前例では3億円まで交付金が出たとある。

前述の橋下氏のように調査費に計上ではなく、予算を作ってエアコンなどの設置を実行していく行政努力という手段もある。

ようは、何に重きをおいているか何が重要かなのだ。エアコンの設置をしない殺人教室に大切な我が子を行かせるべきではない。もしも、その首長がエアコン不要論者ならば、児童生徒と一緒に1日も休まず、どキツい教室で公務をすればいい。車のエアコンもどこかで涼むこともダメだ。生徒と一緒に、空間が歪むような体育館で運動をして、つまらない校長の談話でも聴くといい。直射日光が照らしつける炎天下の校庭で、生徒と一緒に体育でもやればいい。それで、一瞬でも意識が朦朧とせず、鋭意公務が貫徹できれば、それこそ市長室のエアコンなども排除すればいい。

5.終わりに

冒頭に出した高校生の熱中症事件をぜひとも調べてほしい

この事件は最高裁まで争われており、結果、被害者側が勝訴しているが、被害者がテレビの画面に出た時の衝撃は、すごかった。熱中症でここまでなってしまうのか、正直私はそう思った。

事件の顛末を詳しく書かれている記事もある。なんだこの校長は! と思うところがたくさんあるが、日常でいじめ放置や隠蔽をする校長や教員と対峙している今の私にとっては、こういう輩は後を絶たないだろうと思うのだ。

それでも、被害を受ければ、一生モノなのだ。今回、豊田市ではこれからだらけの未来も将来もあったはずの小学1年生の生命が絶たれてしまった。それはもう取り返しがつかないのだ。

豊田市立梅坪小学校の籔下(やぶした)隆校長は「これまで校外学習では大きな問題は起きておらず、気温は高かったが中止するという判断はできなかった。結果として判断が甘かったと痛感している」と記者会見で釈明した。

私はこの校長の「結果として」という言葉が心から離れない。その言葉の裏には、熱中症で吐くぐらいまでなら問題にならなかったのにという言葉が隠れていそうでならないのだ。

これは結果論ではない。設備もなく、適切な救護もなく、多くの引率がいながら起きた事故は、軽度の落ち度といった過失ではなく、十分に予想し得た重過失だと言える。せめて、亡くなった男児児童への言葉が欲しかった。

学校は勉強や集団生活などを覚えるところの前に、いじめにしても同じだが、子どもの命を預かっているという意識を日本全国の全ての教職員に持って欲しい。命に関わること、二度と起こすな。

image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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