平成最期の夏、皆さんお盆休みはきちんと取れましたか? 「かえって疲れた」という話もよく聞かれますが、それは「疲れを自覚できるようになっただけで、溜まった疲れを取る作業はそこからスタート」、その疲労を除去するには最低2週間は必要だと語るのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の中で、日本では分割基本の有給休暇取得が世界では原則「連続」しか認められていないという事実を紹介した上で、「なぜまとめて取るのが大原則なのか?」について解説しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年8月15日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
疲れの借金と有給休暇の関係
先週金曜日(10日)にIT mediaで公開した「1カ月の夏休みは夢? 日本人の“有給の取り方”がズレている、歴史的背景」には、多くの反響が寄せられました。
日本では有給休暇取得は「分割」が基本ですが、世界は「連続」が基本。国際労働機関(ILO)は、原則として有給休暇の分割取得を認めていないのです。
先のコラムではILOが1936年に定めた「有給休暇」に関する条約(第52号条約)の内容と、そこに至るまでの経緯を説明。一方、日本が戦後労働基準法を制定したときの役人たちの「世界に追いつこう! 追いつきたい!」という高い志と、敗戦時の厳しいリアルを伝えました。
詳細はコラムをお読みいただくとして、本メルマガでは「なぜ、まとめて取るのが大原則なのか?」についてお話します。
みなさんは「蓄積疲労」という言葉、知ってますか
これは「頭痛、肩こり、イライラ、やる気がでない、眠れない、ケアレスミス、疲れやすい」などの症状として現れる疲労で、最悪の場合、うつや突然死につながる極めて深刻な状態をいいます。
蓄積疲労を訴える人は、1980年代後半以降急増しました。
原因は精神的緊張や心的負担を伴う仕事が増えたことに加え、企業でのリストラの加速、成果主義の浸透、さらにはインターネットやスマートフォンの普及などでストレスの質が変わってきたことに起因しています。
精神的緊張や心的負担を伴う仕事には、適度な運動、精神的なゆとり、遊び、お喋り、笑い、など、心的疲労を癒す“資源”と、「仕事を忘れる時間」が必要不可欠。食べて寝るだけで自然に消えていくものではないのです。
例えば、お盆休み明けはやる気が出なかったり、夏季休暇などで休むと「余計疲れが出る」という経験は誰でもあるはずです。これは疲れが蓄積し機能障害に陥っていた“疲れのセンサー”が回復したことを意味しています。
つまり、「休んで疲れが出た」のではなく「疲れを自覚できるようになった」だけ。溜まった疲れを取る作業は、そこからスタートするのです。
あくまでも私の主観ですが、疲れのセンサーが回復するには1週間。心身の疲れを取るのにさらなる1週間。最低でも2週間は「休息」に必要です。
疲労はいわば“借金”です。放っておけば、どんどんと利子がついてにっちもさっちもいかなくなります。
「眠れない」「朝、起きられない」「休日にゴロゴロしても休んだ気がしない」といった症状を長引かせると、うつなどにつながるリスクが高まっていくのです。
2012年に厚生労働省疲労研究班が実施した調査では、4割の人が半年以上続く慢性的な疲労を感じており、そのうち2.1%は日常生活に支障をきたすような蓄積疲労に陥っていました。
欧州では1990年代初頭、すでに「疲れはきちんととらないと蓄積され、病める労働者を量産する」との知見が広まっていました。
そこで1年に1回はまとめて休暇を取ることの重要性が指摘され、ILOもそれに追従したのです。
2週間以上連続して休めない私たちは、想像以上に疲れています。疲れの借金だらけです。
お盆になると都内は人が減り、電車もガラガラ、仕事のメールも通常の半分以下。人が減ると時間の流れもゆらり、ゆらりで。いつもこれくらいのんびりとした時間が流れていれば、ストレスで心を病む人も激減するに違いありません。
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- 疲れの借金と有給休暇の関係/「面倒くさい女たち」(10)ほか(8/15)
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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年8月15日号)より一部抜粋