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いじめ自殺のアンケートを握り潰した、教育委員会と学校の愚行

8月17日、名古屋市の教育委員会が「いじめ自殺ではない」としていた女子中学生の転落死事件について、聞き取り調査などを行うことを決めたと発表しました。今回の事件について調査を依頼されていた、現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんは自身のメルマガ『伝説の探偵』で、名ばかりの第三者委員会の実態や、市教育委員会と学校が「生徒たちの声」であるアンケート結果を握り潰した可能性についても明かしています。

ある女子中学生の「いじめ自殺」について

はじめに

これはある少女が大切に保管していた宝物である。

他人からすれば、ゴミに見えるだろう。

しかし、ビニール袋に入れられたお菓子は、その少女にとっては思い出と共にどうしても捨てられない「宝物」であったのだ。

事件概要

名古屋市名東区で今年(2018年)1月に中学1年生の女子生徒(以下「Aさん」という)が転落死した事件で、名古屋市教育委員会が設置した第三者委員会は当初いじめはない」と判断していたが、遺族の要請を受け、ソフトテニス部などでトラブルがあったのではないかと聞き取りなどの調査を行うことを決めた。というニュースが、8月17日一斉に報道された。

この件については極めて不可解な点が多い

まず、第三者委員会が公開されていない。市教委が設置とあるが、通例、遺族推薦の委員を委員会に入れて公平性を保つところ、遺族推薦の委員は不存在である。校名も公表されていないが、市教育委員会は記者クラブとしてプレスリリースをしているから、記者は知っているが、公表しないように箝口令を敷いているのである。

さらに、これは転落死と当初報道されたが、自殺である。しかも、自殺前日までは(正確には前年末)比較的元気に登校しており、名古屋にいたのはわずが4ヶ月であった。つまり、転校してわずか4ヶ月で自殺という最悪の事態が発生したことになる。

取材調査

一応の配慮はするので固有名詞は避けることにする。市立K中学校の生徒であったことは、現地に行けば誰もが知っている事実である。

そして、転勤族が多く住まう地域性などもあり、この学校ではいじめがあったという話が絶えない。実際、不登校となっている子も多く、有効な対応策が取られている様子はない。

ただネットでは、学校の評判はさほど悪くはない。Aさん一家もそうした評判を聞いて、この地に移り住んできた。

Aさんはクラスに早い段階で打ち解け、友人も増えていった。そして、部活を決めた。

部活はソフトテニス部であった。生まれて初めて握るラケット、はじめてするテニスであった。

もともと運動神経が良いというわけではないが、とにかく努力する子であったから、メキメキと力をつけていった。

Aさんが部活に入るとき、これをやめさせようとしたりクラスに馴染みすぎていてウザイと文句をいう子もいたが、Aさんはやりたいことを優先した。

Aさんは筋が良いということで、試合にも出ることになった。それは嫉妬の対象にもなっていた。

一方で、この部活は調べる限り、ブラック部活であった。部活内には暗黙のルールがたくさんあり、病気であろうが、怪我をしようが、テスト勉強や宿題があろうが、休むことは一切許されない

それでも、Aさんは素直に努力を続け、生まれてはじめて試合に参加した。

その時、もらった賞品こそが、冒頭で紹介したお菓子であった。

その試合の直後に撮影された写真には、お菓子を誇らしげにもつ副顧問や達成感ある笑顔で映る部員、満面の笑顔で写るAさんがいた。

どんなに楽しかっただろうか、どんなに嬉しかったのだろうか。

この時のことを考えれば、いじめをしてくる子もいたが、Aさんはそれより良い方向を見ようとしていた。

Aさん自死後に、遺族がAさんの宝物が入っているケースを整理していた時、このお菓子の袋が、ビニールにキチッと入れられた状態で見つかった。遺族は、はじめ、ゴミかと思ったが、ゴミをこんなに丁寧にビニールに入れて宝物箱に入れているはずはないと思い、再び大切に保管した。

そして、写真を整理している時、試合の時にもらった賞品だということがわかった。

Aさんはこの時、部活の辛いこと、ちょっとした嫌がらせ(いじめ)があっても、部活も部員も大好きであったに違いない。それは、お菓子の袋をこんなにも大切に持っていたことからもわかる。

握り潰された生徒たちの声

ところが、クリスマス前後に行われた試合を契機に状況は急激に悪化するのだ。Aさんは友人らにこう漏らしている。特定の子が「怖い」「無視される」と。また、他の友人らは、「先輩に目をつけられている」と聞いたことがあると証言している。

努力家であったAさんは、はじめてやるテニスについて部活ノートをつけていた。そこには、「もっとこうしなきゃ」「こういう練習をしよう」という記載が細かく書かれていた。

ところが、確かにクリスマス前後に行われた試合後、このノートへの記載はパタリと止むのだ。

何かがあったに違いない。そう誰もが考えるであろう。

実際、Aさんを中心としたトラブルがこの時、起きていた。

聞けば聞くほど、部活内でのいじめについての証言が出てきている。

同じことが、学校が遺族に強い要請を受けて行った記名のアンケート、無記名のアンケートには記載があるということであった。

つまりは、アンケートにはいじめの加害者の氏名も入り、いじめの事実の証言も入っている内容がいくつもあったはずなのだ。

ところが、これを名古屋市の第三者委員会は「いじめはない」と一度は評価した。

私は300件以上のいじめ事件の調査を行ってきたが、アンケートにいじめの記載があるにも関わらず、「いじめはない」と判断した第三者委員会は聞いたことがない。

もしも個別面談でいじめの話が聞けなかったとすれば、著しい調査能力不足、生徒理解ができない無能な人材が選ばれてしまったと言わざるを得ない。

そして、生徒たちの声を教育委員会も学校も第三者委員会も握りつぶしたという結果しか残らない。

冒頭の事件概要で、再調査となったと報道があったと書いたが、それは至極当然であり、何も褒められたことではない。時間を大きく損失しただけなのだから、何をやっているのだと評価するのが妥当だろう。

第三者委員会とは言えない第三者委員会

私はこの事件を調べているという第三者委員会について調べてみた。

すると、実際は、「名古屋市いじめ対策検討会議の中にできているものであり、第三者委員会名義で構成メンバーとされている各種専門家以外に、氏名や部署の記載がない教育委員会の職員が、メンバーとして構成されているということがわかった。

さすがに、これを第三者委員会とするのは、相当な無理がある。これでは、一部所の調査委員会とするのが妥当であろう。

そもそも遺族推薦の委員もいなければ、遺族が委員となるケースもあるが、そうした公平性を保つための配慮もない。これを第三者委員会とするのであれば、利害関係があろうが、独自の決済ができない委員会(上部組織の指導が反映されてしまう)であろうが、当事者以外なら、第三者委員会ということになってしまう。

第三者委員会が担保しなければならないと一般に考えられている公平性、中立性はどこに行ってしまったのだという疑念しか残らないだろう。

調査フロー、伝達フローに根本的な問題

学校などが行ういじめ調査において、上手くいかないケースには共通項がある。その1つが伝達に関するフローだ。被害者やその家族、または遺族は、いじめはなかったとしたい学校と対立することがあるが、こうした場合、教育委員会が仲裁に入るものだと思っている方が多い。

ところが、教育委員会は学校の運営をサポートすることが主な仕事であるから、仲裁に入るということはほとんどない。だから、教育委員会が問題に入ってきても、被害者やその家族、または遺族は、学校を通じて教育委員会に要請を伝えるという無意味な伝達フローに悩まされることになる。

また、調査フローとしても、一般に、教育委員会の指導室、指導主事などが独自に調査権限を持っているように思われがちだが、ほとんどの指導主事は、自分の考えを述べたり、質問への回答は許されていない。全ては一旦持ち帰り、上司の意向を確認してから、答えることになるのだ。

組織人としてはそれで良いかもしれないが、伝書鳩の役割ばかりと話さなければならない被害者らは、常にストレスフルであり、その以降を人伝にしか聞くことができない伝書鳩の上司は、現場の状況を判断することが難しくなる。

そもそもの仕組みが、問題解消へのスピード感を阻害し、解消プロセスを踏ませない悪害システムになっているとしか言いようがない。

この事件でも、学校の調査、教育委員会の調査となって、第三者委員会の設立となっているが、教育委員会はいじめに否定的な結論であり、それを出した教育委員会が庶務を担当するといいながら、その実、名ばかりの第三者委員会コントロールできる立場にあるのだから困ったものである。

遺族をより苦しめる状況

遺族は学校の近くに住んでいる。だから、グラウンドも通学路も遺族の部屋から見えるのだ。

「きっとあの中に娘がいるはず」
「入ったばかりでまだユニホームもなかったから、練習を一生懸命やっているのが家から見えるんですよ」

遺族は悲しみをかみ殺すように私に話した。

「なんでこの事件に協力をしないと表明する親がいるんでしょうね」

事件に関わることではなく、知っていることを話すことすら拒否した割合は4割にのぼる。

それは事件に関与した子供を守るためなのだろうか、そうだとすれば、それは結果守ることにはならない。

いじめは連鎖する、仮に今、反省しているように見えても、喉元をすぎてしまえば、再び同じことを繰り返すものだ。

一方で、今、事実を明らかにして、キチッと自分のしたことを顧みさせ、指導教育をすることで、二度といじめをしないという未来を築けるかもしれない。

今、拒否することは未来を否定することに等しい。

新たな試み

この事件では、一度、生徒たちの声が握りつぶされた。学校を信用して生徒たちが書いた事実が、何らかの理由で、消されたのだ。これでは、公平さも中立さも、はたまた正当性も担保できない組織だと評価せざるを得ない。

だから、私は、いじめ証言窓口NPO法人ユース・ガーディアンホームページに開設することにした。近日中に、専用ページを開設し、証言の収集を開始する。もちろん、この事件については、徹底的な調査と追求をして行き、「伝説の探偵」で報告することにする。

編集後記

はっきり言います。もう誰がいじめたかはわかっています何をしたかも大まかにわかっています。我々には筆跡鑑定の知識がありますから照会文書があれば、誰の字か、特定することは可能です。

本来、私は自死事案はやりません。私は笑顔をみたいからです。いじめられて苦しんでいた子が、いつか心からの笑顔を取り戻し、あの時は辛かったけど、と話せるようになるまで寄り添います。

でも亡くなってしまった命はもう戻らない、だから、無償枠は開いていません。それでも今回、遺族が余りに酷い仕打ちを受けていることを知り、これを解消するように働きかけることで、今、この地域で苦しんでいる子たちを救う手立てになるかもしれないと思ったのです。

伝説の探偵は有料メルマガです。結構な率で記事になっているので、お金払わなくても読めるじゃんとか言われちゃうかもしれませんが、このお金は、全てこうした調査の交通費などの調査経費に使っています。若干足りない時は、私のポケットマネーであったり、T.I.U.総合探偵社からの資金で賄っています。

テレビ局のディレクターさんに、なんで自腹まで切ってこんなに大変なことやるんですか?と質問をされました。

なんでだろう・・・もう仕方ないよ・・・だって俺のところに来るまでにいろんなところへ行って、ダメだったわけでしょ・・・そうなると、もう最後の砦みたいなもんだもんね・・・」

と答えつつ、そうだよね、変だよね・・・自分でももうなんでやっているのかわからないというのが正直、本音です。

でも、やらなきゃいけないことになっています。それはもはや使命なのかもしれません。

そんな奴がいてもいいじゃない

image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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