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なぜ国も推進する「副業・兼業」を多くの企業は許可しないのか?

日本中で議論が巻き起こった「働き方改革」を受けて、国は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表しました。しかし、すでにさまざまな問題が浮上しており、会社側は副業・兼業を許可するか否かをよく考えて決めなくてはならない場面にきています。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』では、に会話形式でわかりやすく副業や兼業のメリット・デメリット、問題点を紹介しています。

副業容認

政府が進める「働き方改革」を受け、2017年12月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公表された。2018年1月には厚生労働省作成の「モデル就業規則」においても、副業・兼業を容認する内容へと改正が行われている。急速に進む少子高齢化による労働力不足への対策の一つとして、今後は副業・兼業の普及促進が推進されていくことになるようだ。


新米 「国の副業推進の件、先月『副業、兼業の問題点』の資料を持って、説明に行ったばかりですが、案件が出てきました」

E子 「そうなの? どんな件?」

新米 「パートさんから副業の申請書が来たそうなんです。どのように考えたら良いでしょう?」

E子 「うーん、パートさんの案件なのね。パートさんのお仕事掛け持ちを認めている会社は多いけど、T社さんは就業規則上でパートさんにむけても『会社の許可なく、他の会社の従業員として労働契約を結んではならない』と明記しているから、許可するかどうかってことね」

新米 「そうなんですけど、今回、事前相談なしに『報告書』としてあがってきたそうなんですよね。会社に迷惑がかからない様に事前にお試し勤務もしたうえで、できるだろうと判断して『副業します。今後、確定申告は自分でやります』と言ってきたそうなんです」

E子 「え?お試し勤務? 許可を取る前にもう働いてしまってるの?」

新米 「そうみたいなんですよね。正式契約は来月からになるそうです」

E子 「就業規則が周知できていたかということもだけど、『労働契約を結ぶ』の意味がわかっていないのかもしれないわね」

新米 「正式に書面で契約していないから、契約を結んでいるとは思っていないってことですか?」

E子 「そう。契約は、書面でなくても口頭でも締結されていることを知らない人は多いかもしれないわね」

新米 「T社さんとしては、パートさんの雇用相談窓口を設置しているのに、事前相談ではなく、いきなり報告としてあがってきて、許可もしていないのに、勝手にどんどん進めていくのでどうもお怒りのようです」

E子 「そうなの、今度、私もついて行ってあげるわ」

E子 「御社の場合、パートさん向けの就業規則が別にあるわけでなく、正社員と同じ規則を使っています。服務規定も全く同じ内容です。正社員でない、パートさんの場合、掛け持ち勤務は問題ないと思っていらっしゃるのかもしれませんね。再度周知をしておきましょう」

T社社長 「そうですね。うちの場合、全員同じ規定ですけど、『社員さんは、副業はダメだけど、パートさんは副業禁止はない』と思っているなら、今後もこういうことはたくさん出てくるかもしれないなぁ。しっかり周知しておかないと…」

E子 「いくつもある規定の中のひとつだと、意識も薄いかもしれません。労働条件通書にも別途記載しておくのが良いですね」

T社社長「はい、そうします」

新米 「ところで、週に数日勤務ならまだしも、今回は『1日7時間、週に5日勤務』の方ですから、でフルタイムに近いですよね」

T社社長 「そうなんです。すでに週に35時間働いているうえでのことなんですよ」

新米 「そのうえ、火、木、土、日曜日に5時間ずつとの許可申請は正直驚きました。休日のみに掛け持ちするとか、1日2時間くらいの話かと…」

T社社長 「そうなんですよね。週に20時間もですよ。これって、どう思いますか?」

E子 「週35時間労働に加えての週20時間の掛け持ち。合計して週に55時間。週40時間制に置き換えても週に15時間の時間外労働。月に置き換えて、60時間以上の時間外労働は、目安とされている月に45時間よりも多いですね。もちろん年間360時間を平均した30時間もはるかに超えてしまいます。健康上良くないのは当然ですし、会社の安全配慮義務上も、過重労働になると、会社が過労死等の発生による損害賠償請求の対象になったり、情報漏洩等のリスクは、フルタイムの従業員でなくても発生する可能性はあり、副業容認は安易に考えない方が良いです」

T社社長 「今回の働き方改革で『副業容認』が法的に決まったのであれば、認めざるを得ないと思っていたのですが、それはどうなんですか? うちは、法的に決まったことは仕方がないから、ある程度は認めないといけないのかと思っていました」

E子 「あ、副業容認が義務化になったわけではないですよ。あくまで推進のレベルです。だから、認めないといけないということではないです。前にもご紹介しましたが、サイボウズさんのようにすでに『社員に対しても副業を持つように』と言っている会社さんもあります。現時点では、会社がどう考えるかは自由です。つまりは、社長がどうされたいかですね」

T社社長 「国は、時間外労働を減らせって言っているでしょう。時間外労働が減ってくると、こんな風にしわ寄せが来るケースも増えてくると思うんだよねー。なんかこう、国のやっていることは、逆行しているというか裏目に出るように思うよ」

新米 「確かに大幅に時間外労働を減らすことになると、時間外労働手当が生活給になっている場合は、奥さんがパートに出たり、フルタイムになったり、いろんな動きが考えられますね」

T社社長 「この人の場合は、数年前にもご主人が転職して給与が減ったとかで所定労働時間を6時間から7時間にして、時給もかなりアップしてあげたんだけど、それでも子供さんが大きくなって、学費などでおっつかなくなってきたんだろうな…」

新米 「国は、『ワークライフバランス』っていってるけど、会社がその分給料をあげてあげることも難しい。生活給が減ると大問題になってくる人もあるでしょうね」

T社社長 「理由が理由だから、認めてあげたいのは山々だけど、安易に前例をつくってしまうと、あとから問題になることも出てきそうだよ」

E子 「確かにそうですね。では、副業・兼業のメリット・デメリットをあげておきますね。会社側のデメリットとしては、

会社側のメリットとしては、

労働者側のデメリットは、

労働者側のメリットは、

ってところでしょうか」

T社社長 「会社のデメリットは、すんなりとは看過できないねー。人手不足だと、逆に受入れはしたくなるけど。なんか矛盾しているよねー」

新米 「副業・兼業の問題点もおさえておきましょう。労働基準法第38条では、『労働時間は、事業所を異にする場合においても、通算する』と規定されていて、『事業所を異にする場合』とは、事業主を異にする場合も含まれるとされ(労働基準局長通達、昭和23年5月14日基発第769号)ているので、労働時間を会社と副業先で通算しなくてはならないんですよ」

T社社長 「え? そんなことになっているんですか?」

E子 「そうなんですよ。時間外勤務扱いとなるがアルバイト先では、割増賃金が発生するんですが、たぶん労基法違反になってしまっているのでは? と懸念します。また、アルバイトが早朝勤務だと、逆に御社が割増賃金を払うことになります」

T社社長「え ?そんなことになるの?」

新米 「そうです。なので、許可を与える場合は、そこまで理解したうえでの許可をしてくださいね」

T社社長 「そうかー。なかなかやっかいだね」

E子 「他にも、労働契約法第5条(安全配慮義務)では、使用者には、労働者が安全で快適に仕事ができるように配慮する義務があると規定されており、副業・兼業をする事で、労働者が過重労働にならないようにしなければなりません。雇用保険や社会保険の適用についても、どちらで加入するかなど見直しが必要になることがあります。ご注意くださいね」

image by: Shutterstock.com

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【著者】 イケダ労務管理事務所 【発行周期】 週刊

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