産経を締め出した中国が「日本政府はメディアを教育せよ」の笑止

 

今回の産経新聞の取材拒否については、その前段がありました。今年の6月27日、産経新聞は「対中安保『日台で対話を』台湾の外交部長が異例の呼びかけ」と題して台湾の呉ショウ燮外交部長の単独インタビューを掲載したのですが、これに対して、在日中国大使館は「断じて受け入れられないと産経新聞へ抗議しました。

台湾外相取材の日本メディアに中国大陸が抗議 外交部「受け入れられない」

台湾の外交部も中国の異例の抗議を「台湾と日本の報道の自由に反するものだ」と反論しましたが、こうした近年の経緯が今回の取材拒否につながったことは間違いありません。中国政府の方針に反する報道をするメディアは徹底排除するつもりでしょう。

しかし、共産党一党独裁の中国の現実を知るには、海外メディアの取材しかありません。中国国内のメディアは共産党の広報ですし、インターネットすら検閲されている現在、中国の現状を知るための方法は、外国メディアによる自由な報道しかありません。しかし中国にとってはそれが都合が悪いから、海外メディアの自由を規制したいわけです。それだけ、報じられたくないことが中国国内で進行中だということでもあります。

中国のメディアは「騙す文化から生まれたものであり、人民のメディア観も「嘘しか言わない」ということはわかっています。そのため、「人民日報は人民を騙す。解放軍は軍人を騙す」という俚諺があるほどです。

また、中国人にとって、メディアは政府礼賛の道具であるという認識です。いわゆる「歌功頌徳」で、政府の「功・徳」を伝えるのがメディアだという「伝統的観念」があるので、メディアは批判や異見を流すものではないと考えています。だからそもそも中国人に、メディアを使って政府批判をするという発想がないのです。

それにしても、中国の「日本政府はメディアを教育せよ」という言葉には、思わず笑ってしまいます。前述の日中記者交換協定のころから、中国政府は日本に対して「記者の教育」を求めていましたが、まだ同じことを言っているのかという感じです。

中国人は幼い頃から「政府を礼賛することこそ愛国だ」と教育されてきていますので、記者になってもそれが常識となっています。政府の徳政を礼賛することは、古代からの中華の文化風土から生まれた共有のエートスです。政府に異議申し立てをしてはいけないということは、中国人にとって当たり前のことであり、教育もそれを教えるためにあるのです。

中国ではそれが当たり前であるから、日本も当然、同じことができると思っているようです。さすが民主主義を知らずに独裁しか知らない中国共産党らしさともいえますが、そのような国が「21世紀の覇権国」になれるのか、なっていいのかということは、人類共通の問題でしょう。

もっとも、これまで日本のメディアや大企業も、「近隣諸国が怒るから」という理由で、首相の靖国神社参拝の中止を求めてきたのですから、日本政府は「近隣諸国が怒っているから」という理由で、中国の言うとおりに「メディア指導」を行ったらどうでしょうか。メディアが猛反発しても「近隣諸国に配慮した」と言えばいいだけです。みんな納得するでしょう。

台湾問題、チベット・ウイグル問題、人権問題、公害問題、中国人のマナーの悪さ、南シナ海問題、東シナ海問題、一帯一路、軍拡問題……中国にはさまざまな問題が存在しますが、今後は、それらを批判的に論じたメディアや企業は、中国では活動できなくなるのかもしれません。

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