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ピザハット約4億円の大赤字、宅配ピザ御三家で分かれた明暗

いわゆる「宅配ピザ御三家」の明暗が鮮明になりつつあるようです。今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、ピザハット凋落の訳とドミノ・ピザ躍進の原動力について詳しく分析、紹介しています。

宅配ピザ業界で明暗。ピザハットが凋落しドミノ・ピザが躍進したワケ

宅配ピザ業界では、「御三家」と呼ばれる「ピザーラ」「ドミノ・ピザ」「ピザハット」が市場をけん引していますが、近年は御三家の中でも優劣が鮮明になってきています。

御三家の中で特に厳しい状況に置かれているのがピザハットです。ピザハットを運営する日本ピザハットが発表した決算公告によると、同社の2018年3月期の純損益は3億9900万円の赤字(前年は4000万円の黒字)でした。厳しい経営状況にあることがわかります。

ピザハットが日本で現在のスタイルで営業を始めたのは1991年。日本ケンタッキー・フライド・チキン(現日本KFCホールディングス)が宅配ピザとしてピザハット事業を始めたのが最初です。主力のケンタッキーフライドチキン(KFC)に次ぐ事業として成長が期待されましたが、残念ながらKFCほどには育たず、次第に経営は困難を極めるようになりました。立て直しが難しいことから、日本KFCホールディングスは昨年6月、日本ピザハットをエンデバー・ユナイテッド社の投資ファンドに売却することを余儀なくされています。

ピザハット事業は赤字で苦しんでいました。変則決算や事業セグメントの変更などがあるものの、売却前の10年間でセグメント利益が黒字化したのは2回だけです。店舗数は長らく伸び悩み、概ね350~370店で横ばいで推移していました。07年11月期に211億円あった売上高は、売却前の17年3月期には147億円にまで減っています。およそ10年で3割減った形です。

ピザメーカーなどでつくるピザ協議会によると、17年度のピザ宅配店・ピザ専門店の市場規模(メーカー製品利用分を除く)は前年度比3%減の1358億円と2年連続で前年度を下回っています。近年は限られたパイの奪い合いが続いていました。そうしたなか、ピザハットは競合店との競争に勝つことができなかったといえます。

ドミノ・ピザはネットの活用で待ち時間すらエンタメに

ピザハットが低迷する一方、ドミノ・ピザは急成長を遂げています。日本でドミノ・ピザを展開するドミノ・ピザジャパンが10年に投資ファンドのベインキャピタルの傘下に入ってからは、店舗数を一気に増やしています。00年代に160~180店程度だった店舗数は10年から大きく増え始め、現在は全国に約530店を展開するにまで成長しています。この10年で3倍に増えました。 

ドミノ・ピザは躍進を遂げるにあたり、さまざまな改革を実行しています。特に力を入れてきたのがインターネットの活用です。

まず、電話でピザの注文を受けるのが一般的だった04年にネットでの注文受け付けを開始しました。04年におけるネット注文の割合は5%程度に過ぎませんでしたが、12年には約50%に達しています。ネットでピザを注文するスタイルを確立することに成功しました。

10年には業界に先駆けて注文アプリ「Domino’s App」を導入しました。スマートフォンで簡単に注文できるほか、GPS(全地球測位システム)を使って利用者が居る場所までピンポイントでピザを配達できるようにしています。これにより、公園での花見客などの開拓に成功しました。

インターネットを使った施策にエンターテイメントの要素を取り入れたこともドミノ・ピザならではです。09年に注文品の製造工程や配達状況を追跡するシステム「ピザトラッカー」を導入し、オーダーの進捗をリアルタイムで把握できるようにしたことに加え、11年に配達までの待ち時間に進捗状況を確認しながらクイズを楽しめる「Excellent Tracking Quiz Show」を取り入れるなど、待ち時間を楽しく過ごせる工夫を施しています。

13年には人気キャラクター「初音ミクとコラボレーションしたアプリを開発しました。初音ミクの楽曲にのせて配達状況を知らせる機能を盛り込むなど趣向を凝らしたところ、ネット上で話題となり、アプリは大ヒットしました。

そして転機となったのが、13年にドミノ・ピザ ジャパンが、オーストラリアやヨーロッパでドミノ・ピザを展開するドミノ・ピザ・エンタープライズDPEの傘下に入ったことです。同社は16年にドローンによるピザの宅配をニュージーランドで始めたほか、自動運転のロボットによるピザ宅配の試運転をオーストラリアで始めるなど、先端技術を使ったサービスに知見があることで知られています。

ドミノ・ピザジャパンはDPE傘下のもと、さまざまな改革を行なっています。たとえば、15年に対話アプリ「LINE」でピザを注文できるサービス「ドミノ簡単注文」を始めました。これは、業界で初の試みといいます。写真入りで表示される注文画面から簡単にピザを注文することができます。

ドミノ・ピザは30~40歳までの男性がコアターゲットで若年層は手薄でしたが、こういったネットの施策を強化したことで若年層を開拓することに成功したといいます。

テイクアウトとスピード配達の強化

ネットの施策以外では、テイクアウトを強化したことも成長の原動力となっています。11年にテイクアウトに限りピザ2枚を注文すると安い方のピザ1枚が無料になるサービスを始めたほか、15年にはテイクアウトであれば1枚でも割引となるサービスを開始しています。また13年ごろに、テイクアウトがしやすいよう、人通りが多くわかりやすい場所に出店したり、既存の店舗を移転したりしました。それにより、売り上げが大きく伸びたといいます。

宅配も強化しています。今年1月に注文から20分以内でピザを届けるサービスを始めました。時間内で配達できる地域であれば、ネット注文限定で追加料金200円を払うことで、通常より10分短い20分以内で配達します。追加料金300円で15分以内で配達するサービスも導入しています。30分以内での配達が一般的ななか、スピード配達を実現することで差別化を図る考えです。

ドミノ・ピザはこういった改革を断行したことで大きく成長することに成功しました。現在約530店を展開し、業界をけん引してきた先輩格のピザーラと店舗数では互角の勝負をしています。しかも、ピザーラは近年500店台で横ばいで推移し、伸びが見られない一方、ドミノ・ピザは店舗数を伸ばしています。勢いを考えると、近い将来にドミノ・ピザがピザーラを大きく突き放し業界の盟主にのし上がる可能性すらあります。

勢いを考えればドミノ・ピザが優勢です。しかし、ピザーラも黙ってはいないでしょう。投資ファンドのもとで再起を図るピザハットも今後出店攻勢をかける可能性もあり、宅配ピザ御三家の今後の勢力争いの行方に注目が集まります。

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佐藤昌司のブログ「商売ショーバイ」

image by: George Sheldon / Shutterstock.com

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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