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ヨドバシカメラが必要以上に詳しく書いたPOPを立てる納得の理由

「モノ」そのものよりも、モノの使用価値や体験にお金を使いたいという「コト消費」。近年、消費者の嗜好がモノ消費からコト消費にシフトしている現状を受け、各企業がさまざまな新しい試みを行っています。今回のメルマガ『理央 周の売れる仕組み創造ラボ【Marketing Report】』では著者でMBAホルダーの理央さんが、ヨドバシカメラのユニークな戦術等を紹介した上で、「コト消費を演出するために取り組むべきこと」について考察しています。

日比谷ミッドタウン、ヨドバシカメラに学ぶコト消費の捉え方

人々の消費傾向が、モノ消費からコト消費に移行していると言われ以来久しい。今号では、コト消費とは何か、モノを売るには、どう売るべきなのか、コト消費の傾向を踏まえて、私たちは何をすべきなのか、を考えていきたい。

コト消費とは?

コト消費とは、製品や商品を買うという「モノ」を所有するというお金の使い方ではなく、モノを使うときに感じる使用価値や何かを体験をしたりすることにお金を使いたい、という考え方を指す。

モノ消費の事例で言えば、高級な車を買うとか、時計を買う、家具を買うといったことになる。

コト消費の事例は、体験や経験を買うというコトなので、具体的には、USJや東京ディズニーリゾートなどの、エンターテイメントパークに行くとか、ちょっと豪華な電車の旅行や海外旅行に行くなど、体験そのものにお金を使う消費スタイルになる。

しかし、モノが売れなくなったのか、と言えばそんな事はない。モノを売る現場においても、モノ自体に付加価値をつけることでコト消費を促進するという動きが、ここ何年か増えてきている。

コト消費の代表格イケア

有名な事例は、家具の小売のイケアあろう。私も何度か足を運んだが、イケアの場合はよくある家具屋さんと異なり、商品の陳列も、テーブルや、椅子といった、もともとある機能的なカテゴリーごとに分けて売っているのではなく、

といったように、ライフスタイルに合わせて提案型のマーチャンダイジングをしている。

陳列だけではなく、買い物が終わると、ちょっとしたフードコートが用意されていて、スイーツや簡単な食事をとることもでき、もちろんドリンクもある。さらに、スウェーデンの企業らしく、スウェーデンの食品やちょっとした小物まで売られている。

こうなると、家具を買いに行くときに、まるで小さなエンタテイメントパークに来ているように、楽しみながら買うことができる。

これがいわゆる、コト消費の消費傾向に対応した、モノを売る際の「コト消費マーチャンダイジング」と言える。

コト消費を演出する企業~アメリカの映画館

これにおいては、様々な企業がコト消費マーチャンダイジング、体験型でのマーケティング活動をしているので、紹介してみようと思う

日経MJ4月6日号の記事によると、映画を鑑賞しながら楽しめる新しいスタイルのレストランが米国では広がっているとのこと。

ソファや、リクライニング式カウチなど、坐り心地がとても良いシートを用意し、食べ物も、スナックだけではなく、本格的な料理も楽しめる。さらに内装も、高級感のある仕上がりで、従来の映画館とはちょっと違う感覚で過ごすことができる。

フロリダ州にある、アイピックエンタテイメントでは、高級ブティックホテルのロビーのような形で、席に座ると、係がまずは「無料でポップコーン」を持って来てくれるとのことだ。

鑑賞のチケットは1人32ドルと、アメリカの平均からすると3倍以上高め。前述したように、食べ物のメニューは、ハンバーガーやピザはもちろんあるし、タンドリーチキンや、ロブスター入りサンドイッチなど、若干高級なメニューも豊富らしい。もちろんソフトドリンクだけではなく、ビールやワイン、カクテルなども多数用意しているということだ。

こうなると、単に映画を見に行く、という感覚ではなくて、「映画を楽しみに行こう」「大事な人と大事な時間を過ごす」ために、映画を見て、その場で食事もして、一気に楽しもう、という「新しい時間の過ごし方を提供することができる。

もちろん日本でも、このようなマーケティング的な努力をする企業も増えている。ホームセンター事業のカインズでは、30代から40代の女性層を狙い、DIYスペースを設け、工具の使い方などの講座を開くとのことだ。カフェも併設して、単にモノを買いに来るというだけではなく、時間を有意義に過ごせるといったことを提供できるのだ。

コト消費を演出する企業~日比谷ミッドタウン

私も行ったことがある、日比谷にできた商業施設、東京ミッドタウン日比谷は、全テナントが60ほどあるそうだが、その内訳は、新業態が多く集って、食を中心に化粧品や美容サービスを強く出す打ち出しているのが大きな特徴だということだ。

東京ミッドタウン日比谷には、商業施設がビルの地下1階から地上7階まで、4階から5階にはスクリーンがあるシネコンもあれば、1階から3階までの3フロアは、食とファッションを、併設したスペースになっている。

この併設というのがなかなか面白く、ファッションの店を見ていると、ふと、ここにしかないカフェや、京都の老舗料亭なんかが現れて、なんだか楽しい気分になって来るのだ。

もちろん、美容の方でもなかなか面白いトライをしている。ヘッドスパや、ネイル、メイクなどのブランドも多々入っていて、こういったストアでは、モノを売るだけではなく、ネイルやメイクなどの体験もできることになる。

シックスパッドなど、健康器具を販売する店舗もあり、多くがこのようになっているため、日比谷の東京ミッドタウンそのものが、体験する形式のコト消費対応の、「場所を提供している。

コト消費を演出する企業~ヨドバシカメラ

コト消費マーチャンダイジングは、何も大規模な投資などを伴うやり方のみではなくて、ちょっとした工夫なんかでもできる、ということが、ヨドバシカメラでやられている。

日経MJ11月11日号によると、ヨドバシカメラでは、必要以上に詳しすぎるような内容がPOPに書いてあったりするそうで、洗濯機を買いに来た男性によると、商品の説明がわかりやすいので、ヨドバシカメラを利用しているということだ。ということは、十分差別化できる要因になっている。

また、面白いのは、詳しすぎる説明の度がすごいことだ。例えば、東京ドームなどでコンサートが開催されるときに、アリーナ席など、客席ごとにどの程度の倍率の商品が、一番いいのかを、事細かに説明して販売しているとのことだ。ここまで行くと、もう商品説明の域を超えている

これに加えて、接客の水準が高くまた商売の商品の見せ方がうまいなどという評価が高いとのことだ。

やはり顧客接点でしっかりとしたことをやっていることが、非常に目立っている。

コト消費というのは何も、イベントをやったりとか、大掛かりな店舗の改装だけではない。お客様が来店したときに、お客様たちの目線で楽しめるかどうかがその分かれ道になる。

コト消費の浸透の背景に何があるのか?

では、コト消費マーチャンダイジングを企業が進めている背景に、どのような環境の変化があるのだろうか。

このような消費活動の変化は、まずは、Instagramなど自分で投稿できる、SNSなどで、作品として自分の消費行動を見せるひとたちが増えたことが挙げられる。

この行動の変化によって、楽しみ方が、モノ単体を購入し所有するという価値から、コト、すなわちモノを買う時の体験価値へと変わっていることが、その要因と言えるだろう。

「これを買った」「高くていいでしょ」という嗜好から、「こんなことをした」「楽しかった」ということを、「拡散したい」「発信したい消費者の嗜好が変化したのである。

コト消費を演出するには何をすべきなのか?

では、あなたはこのコト消費のブームを受けて、販売促進として、何をすべきなのか?

見栄えのいい商品を並べる、インスタ映えする飾り付けにする、体験できるように、設備を整える…、もちろんそれらも大事なのだが、まずは、お客様が何を求めているのか? を探ることから始めるべきだ。

自社の製品を使ったときに感じる価値は、顧客が得ることができる利益と顧客が逆に失う損失とのギャップだ。したがって、あなたのビジネスが提供できる利益を増やすか、あなたのビジネスが知らずに与えている損失を減らすかを、まずは考えるべきだろう。

提供できる利益とは、お客様が喜ぶこと。飲食店で言えば、美味しさとか珍しさが利益にあたる。一方で、犠牲にすることは何か? 飲食店では、待たされる時間、わかりにくいメニューの表示、など、不便なことが挙げられる。お客様に提供する利益ばかりを考えがちだが、同時に犠牲を減らしていく努力も必要だ。

では、どうしたらこのような顧客が感じている、利益や犠牲を発見することができるのか? それは、顧客の行動を観察することから始めるといい。まずは、単に観察することから始める。そうすると、自分が思い込んでいたこととは、違う行動をとる顧客を発見できることがある。それが、自社にとって見えていなかった、顧客の価値のヒントになる。

慣れてきたら、仮説を立てて顧客行動を観察するといい。飲食店でいえば、「うちのターゲットは、ピザランチより、パスタランチを好むはずだ」と仮の結論を出して、どちらも出してみる。そして、顧客がメニューを見ているとき、注文をする時の様子を見てみる、といった具合だ。

何事も顧客が中心であること。ここが、マーケティングの本質なのだ。

image by:  shutterstock

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