中国の現場では戸惑いが多い。いずれも臨場感たっぷりである。彼が中国人との対応で得た感想や教訓に、やっぱりそうかとか、それは意外だとか、いちいち得心するのだった。中国では日本以上に内面が「人相」に表れると感じる。親切な人はいかにも温和で優しい表情をしている。不親切な人は目つきが悪く、不満げな表情をしている。中国人は自分の意見や感想をはっきり表に出す。
ある時ハッと気がついたことは「中国人はニュースに興味がない」ということだった。他人のことより自分自身のことを考える風潮が蔓延している。毎日のようにテレビで流れる反日ドラマで日本語を学んだ中国人は、著者に向かって「あなたは日本人か。ミシミシ、バガヤロ!」と得意気に言う。日本兵の発する「飯、飯」「馬鹿野郎」である。これが中国で一番有名な日本語だというから情けない。
反日ドラマは架空の下士官ばかりが主人公で、具体的な日時や場所が特定されない史実ベースのフィクションだ。著者は日本兵役で出演したが、セリフはもらえなかった。中国人は一度仲良くなると情に厚いとはよく聞く話だが、これは裏を返せば「赤の他人には極めて冷淡」ということでもある。身内に対する態度と身外に対する態度はまったく異なる。貸し借りを通じて友情を深める。
この七つの取材以外に、いくつもトライしたが不成立だった。この企画はネタが限られ、試行錯誤の連続だったという。
中国社会はすべてにおいて日本よりも「雑」で「いい加減」なのだが、よくいえば臨機応変さに富んだ柔軟な世の中とも言える。日本社会も、もう少しユルくなっても良いのかもしれない。
と著者は結ぶ。ほとんど役に立ちそうにないが、まあ楽しめる企画だ。
編集長 柴田忠男
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