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元凶は経団連。日本にアップルもアマゾンも生まれない当然の理由

日本財団の笹川陽平会長がブログに投稿した「経団連は今や軽団連?」との嘆きに、当の経団連会長・中西宏明日立製作所会長が過剰とも言える反応を見せています。元全国紙社会部記者の新 恭さんは、自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』でその内容を紹介するとともに、中西会長の「経団連がデジタル革命を牽引する」という主張について懐疑的な意見を綴っています。

経団連の旗振りで未来型ビジネスにモデルチェンジできるのか

山梨県鳴沢村の別荘で毎年、安倍首相らと夏休みを過ごす日本財団の笹川陽平会長が9月19日、自身のブログで、こんな事実を明かした。

「経団連は今や軽団連?」と題し、安倍政権に追従する経団連の現状を8月13日のブログで嘆いたところ、経団連会長に就任して間もない中西宏明日立製作所会長から長文のメールによる書簡を拝受した」というのである。

中西氏といえば、葛西敬之JR東海名誉会長や古森重隆富士フイルム会長らとともに、安倍首相をとりまく財界人グループのメンバーだ。“アベ友”という点では笹川氏と同じだが、互いに面識があるかどうか定かではない。

肝心のやりとりに話を戻そう。笹川氏の方はブログに投稿しただけで、返信はもちろん、経団連の関係者が読むかどうかも、さほど意識していなかったのだろう。実にのびやかに思いのたけを綴っている。そのキモといえる厳しいご意見が、これ。

かつて経済団体連合会の会長は財界総理といわれ、政治指導者からも一目置かれる存在だった。然るに最近は、労使の賃金交渉の主導権を官邸にとられ、経済政策もアベノミクスに追従するばかり。…国家観も国民を納得させる経済政策も感じられず、官邸に追従する存在に成り下がってしまっている。

笹川氏が「経団連」を「軽団連」と揶揄する理由がよくわかる。ただし、重いよりは軽い存在であってくれたほうが、この国の経済発展にとってプラスでは…というのは筆者のひとりごとだ。

もっとも、笹川ブログの「愛読者」と称する中西氏としては、これを読んだ以上、黙ってはおれなくなったとみえ、電子メールながら、丁寧な「反論」におよんだわけである。

中西氏のメールの概略はだいたい以下のような内容だ。

個人消費の伸び悩み解消策には賃金を上げる必要があると総理自ら企業経営者に賃上げを要請しているが、私もここ20年以上、賃金の上昇を抑えすぎてきたと思う。経団連は5年以上に渡るアベノミクスの成果を高く評価している。安倍政権以前の経済6重苦は大きく改善された。

官邸に追従しているのではなく安倍総理の政策に納得しているのだと主張する。いまの経団連にも主体性があるのだと言いたいのだろう。

「経団連には国家観も国民を納得させる経済政策も感じられない」という笹川氏の評価について、中西氏は自らの政府有識者会議における経験をもとに、以下のように書く。

日本の高度経済成長を実現した経済モデルとは全く違った新たな取り組みを、国を挙げてやっていくことが重要だと考えています。…私自身、内閣府「総合科学技術イノベーション会議」の議員として、また「未来投資会議」の議員としてデジタル化を真正面に捉えた経済政策を政府、官邸に提言し…経団連の最重要施策として推進する方針を作って参りました。それが経団連の最重要方針“Society 5.0”の実現です。

役所とグルになって既得権を死守していると見られがちの経団連。そんなイメージを払拭したいのだろうか。「高度経済成長を実現した経済モデルとは全く違った新たな取り組み」が必要だと、ビジネスモデルの大転換をはかるかのごとく言う。そして、「Society 5.0」なる未来社会のキャッチコピーで笹川氏の疑念を跳ね返す。

ほんとうに経団連が“旗振り役”になって、そんなことがスムーズに進むのだろうか。

狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、新たな社会のことを「Society 5.0」と言うらしい。内閣府の第5期科学技術基本計画に盛り込まれている。

Society 5.0で実現する社会は、IoTで全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され…これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供され、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。
(内閣府ホームページより)

工場の機械化が第1次産業革命、電力を用いた大量生産が第2次産業革命、電子工学や情報技術を用いるようになったのが第3次産業革命。内閣府はそれに続く、技術革新としてIoTやAIをあげ、「第4次産業革命と呼んでいるが、もちろん、これが「Society 5.0」に対応するということだろう。

官民あげて未来社会づくりにまい進するのはいい。ただ、経団連がこの分野に余計な口出しをして、個人や零細企業のチャレンジを潰しはしないかと心配なのだ。

世界を見渡すと、全工程を一つの企業に集める垂直統合型の企業構造を拡大してきた日本の大企業が、自社工場を持たないアップルに代表される水平分業型ビジネスへの移行に対応できず、シェアリング・エコノミーやフィンテックといった流れにも著しく立ち遅れている現状がある。

業界横並びやリスク回避指向の強い大企業が、政府の過保護に頼って生きのびてきた結果、必要な淘汰や世代交代が進まなかったことも、原因の一つとしてあげられるだろう。

「Society 5.0」をめぐる経団連の甘えと強欲の一端を示す記事が下記である。

経団連は14日、平成31年度税制改正に関する提言を発表し、31年10月の消費税率10%の確実な実現や、企業の研究開発減税の拡充などを求めた。(中略)また、経団連が目指す新たな経済社会「Society(ソサエティー)5.0」実現に向け、研究開発減税で、法人税額の控除上限の25%から30%への引き上げと、期限切れになる上乗せ措置延長を要望した。
(9月14日産経ニュース)

大企業の法人税を優遇する租税特別措置の拡大を、「Society 5.0」という大義名分のもとにはかろうという目的を持つ要望だ。

個人や零細企業を苦しめる消費税は上げ大企業の法人税は研究開発のために下げてほしいという。なんと厚かましい論理だろう。

そもそも「Society 5.0」のめざすデジタル革命は、リスクをとれず、発想の転換が遅々として進まない大企業よりも、発想が自由で、決断が早く、フットワークの軽い個人や零細企業に推進者としての期待がかかる。

IoTやAIやブロックチェーンは社会を全く異なったものに変えるだろう。そこに戦後日本の経済を牽引してきた垂直統合型の大組織や発想は必要ない

一橋大学名誉教授、野口悠紀雄氏は著書「産業革命以前の未来へ」で、企業のモデルチェンジに後れをとっている日本の現状をこう指摘する。

戦後日本の高度成長は垂直統合型企業によって実現された。事業分野は鉄鋼、電気、自動車それに電力だ。…日本経済全体の成長率はこうした企業の売上高成長率によって規定されてきた。そして未だに合併して企業規模を大きくする方向を目指している。…しかしそれによって未来が積極的に拓かれるわけではない。

日本にはアップルもアマゾンもグーグルもフェイスブックも生まれなかった。それに続く新しいビジネスモデルをみても、ライドシェアリングの「Uber」や民泊の「Airbnb」など米国勢のほかは中国の台頭が目立ち日本は立ち遅れている。中国には日本のように垂直統合型の巨大製造業がなかった分、リープフロッグ(蛙跳び)とやらで新技術導入が迅速に進められたという。

当然、このような状況を打開し、先進国としての輝きを取り戻したいからこそ、経団連は「Society 5.0」を掲げるのだろうが、そもそも、いい年をしたお歴々の発想など、たかがしれている。

現在、経団連の会長・副会長は19人、審議会議長・副議長は20人いるが、彼ら39人のうち社長が10人で、あとは会長、相談役、顧問である。肩書こそ見るからに重厚なメンバーだが、このなかに何人、変革スピリットを持つ人がいるかと思うと、ため息しか出ない。

彼らをサポートする経団連事務局の、官僚ならぬ「民僚」と呼ばれる連中も、聞くところによると、IoTやAIについて深い知識は持ちあわせていないようだ。

そのうえ、しばしば聞くところでは、大企業の社長は社内にいつまでも居座って経営に口出しする相談役や顧問らの顔色をうかがい、リスクをとってチャレンジしようとしないし、かつての創業社長が持っていた起業家精神がみなぎっているわけでもない

経団連は社長とOBの親睦会ていどにおさまっていてくれればいいものを、官庁から呼ばれて有識者会議に参加したり、政治家に献金したりして、要らぬ政治力を持ち、結局のところ、官民で何を決めるにも、悪しき先例主義や既得権維持に縛られてしまう

政府がやるべきなのは、経団連のメンバー企業のために研究開発減税などの特別扱いをするのではなく、チャレンジャーが生存できる環境を整えることである。

起業には失敗がつきものだ。経団連としても、起業して失敗した人の再就職を受け入れる企業風土づくりなど、できることは他にあるのではないだろうか。

image by: 首相官邸

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